ジャックに捕まったお話



温かい水が私の髪を濡らす。ホコリか血か分からない黒ずんだ汚れが肌から流れ落ち、白いタイルを染め上げると排水口へ吸い込まれていった。

ガラス張りのシャワールーム、この部屋は私がハイペリオンの元で動いていたときに来たことがあった。白いタイルが張り巡らされ、いつだって未使用のような清潔感が溢れている場所だった。高級ホテルとまではいかなくても、そこらのビジネスホテルより間違いなく上だろう。とはいえ、それは私の居た部屋の話だ。似たような作りではあるが今いるシャワールームの方が遥かに広く、豪華だ。少し離れた場所にはジャグジー付きのバスタブまである。備え付けのシャンプーで頭を洗えば、一瞬にしてキツい花の薫りがまとわりついた。酷く充実した空間に、嫌でもここがジャックの部屋の一室であると痛感させられる。


※※

つい先程、私はジャックに捕まった。
弾の補給へとオーバールックに立ち寄った際、私は突如両足を撃ち抜かれた。何が起きたのか理解する暇もなく膝から崩れ落ちると、気が付けばガチリと首元に見慣れない物がつけられた。

状況は把握仕切れないが、間違いなく悪い方へ進んでいるのは嫌でも分かる。苦痛に喘ぐ私の元へ、見計らったように近づいてくる数人程の足音。この手際の良さ、見渡しても分からない程精度の高いステルス…まさかと頭の中で警報が鳴り響く。
嫌な予感がして、一刻でも早く動かなければと這うように身体を動かす。

だが次の瞬間、私の頭は地面とキスをした。

グリグリとタバコの火でも消すような動作が、頭の上で行われる。足掻くように暴れれば、"それ"は頭の上から消えた。代わりに私の顎に、何か硬いものが割り込んで顔の向きを変えられる。
ピッと乾いた電子音と共に、一番会いたくない男が、そこにいた。

「やぁ、久しぶりだな。 ドブネズミみたいな姿だったから分からなかったよ」

「な、なんでここ、に!」

「貴様ごときがこの私を出し抜けるとでも?まぁいい、帰るぞ」

私の顎に添えられたジャックの靴が持ち上がり、嫌というほどその姿を見させられる。
遅れてやってきたハイペリオン社員にジャックが目配せすると、有無も言わさず私を捕らえ、輸送船へと運ばれた。そうして私は、またこの場所へ帰ってきてしまったのだ。

※※

ここにつく頃には、ぽっかり空いた足の傷は塞がった。だが逃げようとせず部屋に連れてこられるや否や言われた「シャワーを浴びこい」という命令に素直に従っているのは、この首輪のせいなのだろう。間違いなく何かしら制御する力が働いている。思考回路全てが制御されるわけでは無いようだがそもそもジャックの命令に反抗できない時点で相当ヤバい。

「っ、くそっ」

なぞるように首輪を触るが、繋ぎ目など無いぐらい滑らかだった。首との間は指一本入るぐらいの隙間しかないが、思いっきり引っ張ってもびくともしない。ブリックのように怪力なら壊せるかもしれないが、私には無理だ。再生能力なんて棒にも箸にもかからない。

「おいおい、まだ終わらないのか」

「ジャッ、ク」

プライバシーもクソもない。少しくぐもって聞こえた声に反応して振り返れば、ガラス一枚通した先にジャックは突っ立っていた。いつもの黒いジャケットは脱いだのか、インナーの黄色いシャツに黒いパンツ姿が目につく。
咄嗟に鍵をかけようとドアノブを見るが、鍵が、ない。

「何を探してる?私と一握りの人間しか使わないシャワールームに鍵なんてナンセンスなモノ、つけるわけがないだろう」

クツクツと笑う彼に、背筋が凍りつく。シャワーを浴びた後何が起こるか分からないほどまぬけではないが、だからと言って今すぐ受け入れられるほどの度量は持ち合わせていない。一歩一歩ゆっくりとドアに近づいてくる彼に連動するように、心臓の音が大きくなっていく。

だいじょうぶ彼は服を着ているしそれに今ここに入ってきてヤるメリットはないだからお願い

そんな思いを嘲笑うかのように、ギィと無慈悲な音がシャワーの音をかきけし辺りに響く。瞬間、弾かれたかのようにジャックから距離を取ろうと体が動く。

「待て。逃げるんじゃない」

「!ァ、うゥ」

たったその一言で逃げようとした体が、錆び付いたロボットのように動かなくなった。
出しっぱなしのシャワーを止めるわけでもなく、ジャックは私の目の前に立つと優越感いっぱいな笑い声を漏らした。
彼の綺麗にセットされた髪がシャワーに打たれ、乱れていく。まるで気にする様子もなく私を見下ろすギラついた瞳が酷く恐ろしく、思わず顔を背けた。

「よしよし、お利口さんだ。きちんと綺麗に洗ったようだな」

「っ、クソッ」

「…汚い言葉を使うんじゃない」

解くように撫でていた髪の毛を強く鷲掴みにされ、強制的に顔を上へ向けさせられる。ジャックにぶつかってまばらに降ってくるシャワーの水飛沫が瞳に入りそうになり、たまらず目蓋を閉じた。

「なんだ、キスのおねだりか?」

「ち、ちがっんん」

言い終わる前にジャックの唇が重ねられる。歯を閉じて防ごうにも、‘’彼の舌を噛む‘’事は何故だか出来ず、簡単に自分の舌をからめとられた。体も口内も濡れ、ぐじゅぐじゅに犯されるような感覚に頭がチカチカとする。

ジャックを退けようと空いている片方の手で胸板を押し返すが、直ぐ様その手は掴み取られた。誘うようにズボン越しにでも分かるくらい固くなったソレに触らせられ、思わずビクリと手が跳ねる。そんな反応に気を良くしたのか、ジャックは掴んでいた手も唇も離した。

「5分で戻ってこい」

シャワーのせいで崩れた前髪を、ジャックは片手で後ろにとかすと背を向けた。
掛けてあるバスタオル一枚掴み、ジャックはドアを開け出ていった。その姿を見送るや否やヘナヘナと体の芯が抜けていく。壁に寄りかかると、ふいにボロボロと涙が零れた。

これから犯されるのだ。今の一件でよく分かった。絶対逃げれないということも、分かってしまった。
こんなにも心が拒否しているというのに、体は蛇口を閉めこの場から出ていこうとしている。情けない、とまた涙が込み上げてきたがジャックに見られたくない一心から必死に押さえ込んだ。
体を拭き終え簡単にバスタオルを身体に巻くと、震える手でドアを一呼吸置いて開けた。おかえりと皮肉に笑うジャックの元に一歩、また一歩と足が進む。まるで死刑台に上っていくような感覚に、恐怖心が込み上げ歯が震える。きっと今の私の心情を知ればジャックはご満悦するだろう。その上で、きっと酷くいたぶられるのだ。

願わくば、このまま気付かないでくれと祈りながら、私はジャックの胸へ身体を預けた。


ボダラン2三周目突入できた記念







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