何時ものように生意気な勇者がくるとの事で、破壊神さまより一足早くダンジョンに潜り、軽くダンジョンの下見をする。どうやらこのダンジョンは所々穴だらけらしい。壁は薄く、ちょっとした衝撃で簡単に崩れそうな場所が多々あった。
このダンジョンで、破壊神さまはどう戦略を立てるのだろう。早く来ないかな、と思いながら待っていると、扉が開く音が聞こえたので、何時も通り笑顔で迎える。が、私の前に居たのは一回り小さい、というより子供のような破壊神さま?が居た。
「おや?破壊神さま、今日は何だかいつもより、一回り、お体が小さい気がしますが…」
疑問視して見ると本当に破壊神さまか疑わしくなってきた。当の破壊神さまはニヤニヤしながらこちらを見ている。
ゴホン、と一度咳払いをし、もう一度破壊神さまに問いかける。
「どうかなされましたか?…というよりむしろ、本当に破壊神さまですかな?」
この問いかけに、やっとこちらを見ていた破壊神さま?が笑いながら口を開く。
「ぼく?ぼくはねぇー…そうだな、プチ破壊神さま、とでも言って置こうかな。」
そう言うとこちらを見て二カッと笑う。笑い顔は破壊神さまそっくりだ。
普段そんないい笑顔を破壊神さまから見た事が余り無かったので、不覚にも顔に熱がこもる。そんな私を見てプチ破壊神さまは不思議そうな顔をしていたが、何か思い出したように口を開いた。
「そうだっ!今日勇者来るんでしょ?ぼくが倒すよ!!」
胸を張って言うプチ破壊神さま。どうやら我が軍に協力してくれるようだ。
「申し出は有り難いのですが…その、どうやって勇者を倒すのですか?」
私の質問にケラケラ笑いながら何処からかツルハシを持ち出した。
しかもそのツルハシは破壊神さまが何時も使っている物だ。
「そのツルハシ…破壊神さまが何時も使っている物ですよね…」
道理で何時までたっても破壊神さまが来ない訳だ。きっと今頃家の中で必死にツルハシを探しているのだろう。
「もしかして破壊神さまから盗んだのですか?」
「盗んで何かいないよ!お母さんのをちょっと借りてるだけだよ!」
お母さん…?破壊神さまって実は子持ちだったのか?そんな事聞いた事が無い。
色んな意味でショックを受けて軽くうなだれているとプチ破壊神さまが心配そうに顔を覗き込んできた。
「ねぇー大丈夫?あ、そうだ。ぼくまだ半人前だからお母さん程力持って無いんだ」
そう言われて初めてプチ破壊神の持っている堀パワーを見る。確かにプチだけに持っている堀パワーも非常に少なかった。とりあえずスイッチを入れ替え、今回の戦略について考える事にした。
「本当に少ないですな…これでは一回のムダ堀が命とりとなってしまいますぞ」
「分かってるよぅ。どうしたらいいの?」
「幸い、今回やってくる勇者は何やら疲れきって、身も心もボロボロのようです」
プチ破壊神さまがそれで?と聞き返してきた。その顔は先程と変わって真剣だった。魔王は一呼吸し、返答する。
「上手い事魔物のいるエリアまで勇者を導けば一撃で倒す事が出来ましょう」
そこまで言うと勇者がそろそろ来る気がした。早口でアドバイスを言いながら奥へ隠れる。
「その為にも慎重に何処を掘るか良く考えながら最短ルートを探さねばなりませんぞ。魔物を呼び出すにも、堀パワーが必要ですからな。」
言い終わると同じに勇者がダンジョンに入って来たようだ。プチ破壊神さまの表情に不安の色が見える。そんな初々しいプチ破壊神さまに私は優しく笑いかける。
「大丈夫ですぞ。プチ破壊神さまは、破壊神さまの子供ですからな!きっと上手くいくはずです」
そんな私の言葉か表情を見てプチ破壊神さまは先程よりも表情は柔らかくさせた。
「そう、だよね…うん!頑張ってくる!」
プチ破壊神さまはそう言うとつるはしをぎゅぅ、と握り直し、壁の向こうに消えた。
――大丈夫だろうか。
ああは言ったものの、やっぱり不安だった。破壊神さまが初めて掘るときもあんな表情をしていたな、と思い出す。
耳を澄ますと、足音とガリガリと掘っている音が聞こえてきた。どうやら勇者が近くまで来ているらしい。嫌な汗が頬を伝う。と共に後ろの壁が崩れる音が聞こえた。
急いで振り向けば、疲れきった表情の勇者がいた。勇者は私を見つけると、先程の表情と打って変わってギラギラした目で嬉しそうに何かを呟やいている。私は気味悪さに数歩後退る。と、勇者はまるで逃がさんとばかりに飛びかかってきた。どうやらこのまま、はまきにするつもりらしい。
やっぱりプチ破壊神さまには荷が重かったのか。そんな考えが頭をよぎったとき、
「ぐああ!」
突如勇者から血が吹き、私の頬へ飛び散る。何事かと思っていると前のめりに倒れる勇者の後ろから一匹のガジガジ虫が見えた。
暫くの間、何が起きたか分からず、ぼぉっとしていると、ガジガジ虫の方向からプチ破壊神さまが笑いながらこちらに歩みよってきた。
そしてやっと何が起きたのかを把握した。
「さ、流石破壊神さ…じゃなかった、プチ破壊神さま!」
その言葉にプチ破壊神さまはえへへと照れ笑いをする。そして、手に持っていたつるはしを一瞥すると私につるはしを渡した。なぜ私に渡すのか分からず、困惑した表情を見せると、プチ破壊神さまは寂しそうな笑顔を見せた。
「ぼくは、そろそろ行かなくちゃならないんだ。だから、お母さんによろしく言っといてね」
ばいばい、とプチ破壊神さまは呟き、来た道を走って戻って行く。
「ちょ、ちょとプチ破壊神さまぁ!」
せめて感謝の言葉を言いたくて、後を追う。
丁度角に来た時だった。突如プチ破壊神さまは走るのをピタリ、とやめて、此方に振り向いた。そして、最初のときと同じように無邪気に二カッっと笑う。
「早くぼくに会いに来てよ?お父さん」
一瞬言葉の意味が分からず、私が固まっている間にプチ破壊神さまは角を曲がっていった。
慌てて後を追い、角を曲がった時だった。
どん、と誰かにぶつかり、その人は「ぎゃあ」と発したあと尻もちをついた。プチ破壊神さまにぶつかったのだろうと思い、声をかける。
「プチ破壊神さま!お礼位言わせて下さいよ!ってあれ……?破壊神…さま?」
そこに居たのは、プチ破壊神さまではなく破壊神さまだった。破壊神さまは先程の衝撃でか「いたたたた・・・」と呟きながら腰をさすっている。そしてキッっと若干涙目で此方を睨み、声を荒上げた。
「勝手に奥に行かないでよ!心配したじゃない!」
「へ?あ、ああすみません」
どうやらぶつかった事に対しては怒っていないようだった。むしろ私の事を心配してくれていたようだ。気恥ずかしさから頬を緩めて笑う。が、破壊神はそんな私の様子を見て一層怪訝な顔をし、目に涙を溜めて此方を睨んでいる。
「人が心配したというのに何笑ってるのよ…あ、そうだ扉に鍵をかけないでって言ったじゃない!おかげで洞窟の中に入れなくてどれだけ心配したと…!!」
「い、いや鍵なんて断じてかけてませんぞ!で、でもどうやって入ってきたのですか?」
「扉壊してきた」
その言葉に「は、ははは……」とから笑いを返す。しかし一体誰が鍵を閉めたのだろう、と思った時だった。「あ」と思いだしたかのように呟く。
「もしかしたらプチ破壊神様がかけたのかも…」
そう呟くと破壊神さまは眉をひそめ「何言ってるの?プチ破壊神って誰よ」と返してきた。そんな破壊神さまに逆に此方が眉をひそめ「破壊神さまのお子様でしょう?」と返す。その言葉に破壊神さまは「はぁああ!?」と声を荒上げる。
「私子供産んでないわよ!私が人妻に見えるの!?」
「え、だってそうプチ破壊神さまが…」
「だからプチ破壊神って誰よ!!」
これでは会話のループだ、と思っているとふとプチ破壊神さまが言っていた言葉を思い出す。
確か破壊神さまの事を「お母さん」と言い、私の事を「お父さん」と呼んだ事を。もしや、とある考えが頭をよぎる。
「ねぇ破壊神さま。誰かと会いませんでしたか?子供のような子とか」
「へ?誰にも会ってないわよ」
「え?いや自分そっくりな小さい子供とか通りませんでしたか?」
その言葉に破壊神さまは「通って無いってば」と返してきた。ではさっきまで会っていたプチ破壊神さまは一体何だったのだ?もしかしたら、もしかしたら先程のプチ破壊神さまとは…。先程の考えが再度頭をよぎった時、思わず頬が綻び口に手を当てて笑う。そんな私の様子を見て破壊神さまは不思議そうな顔で首をかしげる。そんな破壊神さまに「いえ、キツネにでもつままれたのでしょう」と言って、「さぁ、帰りましょうか、破壊神さま?」と微笑みながら手を破壊神さまに伸ばす。破壊神さまは少したじろぎ、周りを少し確認すると照れながらも私の手を取った。顔は此方に向けてくれなかったが。
壊れた扉から出た光が二人を照らし、影を作った。二人の影の間に子供のような影があった事を二人は知らなかった。
その影はプチ破壊神様程の大きさだったそうな。
20171104修正