あれから私は一度も休まずにコロールへ向かった。馬に無理をさせる訳にもいかず、クランフィアを呼んで馬の変わりに走ってもらっている。夜の冷たい風が頬を撫でる。とても寒い。私はふと数日前の事を思い出す。思えばトロール退治位レヤウィンのギルド員でも良かった筈だ。もしかして、兄さん達の死と関係あるのでは…嫌な予感が頭をよぎった。
「今回の依頼はな、喜べ、お前ご指名だぞ」
「へ?」
ゴブリン退治の依頼完了の手続きをし、オレインに渡した直後にそんな事を言われ、思わず変な声が出る。
オレインは豪快に笑いながら依頼用紙をひらひらとなびかせる。
ラトは手続きをした用紙と、オレインが持っていた紙とを交換し、ざっと目を通す。
紙はごく普通の依頼用紙と変わらず、内容も『トロール退治』と普通なものだった。ただ何故か『今回の依頼はラトさんだけでお願いします。』と書いてある。
「本当だ…私ご指名されてるね。」
ラトは不思議そうな声を上げる。依頼主の名前を見る限り、私とは初対面のはずだ。そして依頼主の名前からしてガジートみたいだ。
「がっはっは!相当な物好きもいるもんだな!全く世も末だな!」
「物好きって…失礼な。もうちょっとさー労いの言葉とか、かけたりして欲しいものだね。」
ラトは笑いながら肩をすくめ、ふぅと軽く溜め息を吐く。そんなラトの様子を見て何故かオレインは額に血管を浮かせる。
「勿論俺だって労いの言葉をかけてやりたいさ。だがな、毎回依頼期間ギリギリに仕事をし始める奴にそんな事言いたくても言えないだろ?」
無駄に良い笑顔で言うオレイン。だが声色はドスの利いた声で、相変わらず血管は浮いたままだ。どうやら私はオレインの地雷を踏んでしまったようだ。
嫌な汗が頬を伝う。面倒臭い事になる前に逃げようと思い、「じ、じゃあ帰るね。」と逃げるように言い、出口に走る。
だがラトの試みは呆気なくオレインによって阻止された。
がっしりと左手首を掴まれる。
「まぁちょっと…話そうか」
オレインは一層声色を低くし、握る力を強め、椅子まで私を引っ張り(引きずり)座らせる。
ラトはさも嫌そうな顔をし、「やってしまった…」と後悔の声を漏らした。
それからオレインの説教が始まった。内容は仕事が遅い、寄り道し過ぎだ、寝坊するな、トマトを残すな、たまには俺の手伝いをしろなど、不満の声だけだった。
そんな話しを言われてラトは口をいの字にさせる。
「うぐぐ…まぁ前半は認めるよ!だけど後半はさー」
文句を言っている途中にオレインによって遮られる。オレインはかた頬を上げながら言った。
「あん?文句あんのか?文句なんて言えないよなぁ…だってコレ欲しいもんな?」
オレインは報酬の金貨の入った袋をラトの目の前に見せる。
あの金貨がないと今月が厳しいのだ。ラトは悔しそうに下唇を噛み締める。
「ぐぐぐ…」
何も言い返せずに悶えているとオレインは豪快に笑い、私に報酬の金貨を投げ渡した。最初から素直に渡せばいいのに、このどSめ。と頭の中で悪態をつく。
ラトが懐に金貨をしまったのと同時にオレインが思い出したように言う。
「そういえば今回の依頼受けるのか?」
一瞬何の事か分からなかったが、直ぐに先程の依頼の事だと理解した。少しの間を開けて、言葉を返す。
「別に断る理由も無いしねぇ…。せっかくご指名して下さったんだから受ける事にするよ」
「そうか…まぁ頑張れよ。死ぬような事は無いようにな」
オレインがそう言った瞬間、ラトはびくりと肩を強ばらせる。ギリっと奥歯を噛み締める顔には影が落とされていた。
「兄さん達みたいには、ならないよ」
その言葉にオレインは目を伏せてそうか…と呟き依頼用紙を私に渡した。
「ほら、お前の依頼だ。しっかりこなせよ」
「分かってるよ。」
そう言って依頼用紙を受け取り、何も言わずにラトはギルドから出る。重たい空気の中、オレインは今は亡き彼らの名前を呟いていた…。
そんな事を思い出していたら、どうやらコロールに着いたよいだった。月の傾き具合からして3時頃だろうか。とりあえずクランフィアをあちら側に帰して城門にいるガードに門を開けてくれるように頼む。
時間帯のせいか、軽く血だらけのせいか、ガードの見る目はまるで不審者を見ているような眼差しだった。私は苦笑いをしながら「戦士ギルドの者ですよ」と言って称号書を見せる。途端にガードは慌てて扉を開けてくれた。私はガードに一礼をして門をくぐる。
この時間帯はギルドは運営していない。仕方がないと思いながらもオレインの家へ向かったのだった。