誉れ




今の時刻は大体深夜の3時位。ギルドは勿論、きっとオレインも寝ているだろう。もしも扉が閉まっていたらどうしようか。うーんと不安を抱えながらとりあえずオレインの家へ向かう。
だがラトの不安は杞憂に終わった。

「あれ?」

ラトは意外そうに呟く。扉の前に立つラトの足元には扉から光が漏れていた。ということは起きているのだろうか。珍しい。と思いながらラトは扉を引いた。

「こんばんは…いや、おはようかな?」

思った通り、オレインは家の中で何やら一生懸命書類と戦っていた。ラトの先程の言葉でやっとこちらに気づいたようだった。オレインはいぶかしそうにラトを一瞥する。

「お前…何で居るんだよ。もしかして依頼を蹴ったんじゃ」

「違いますー。というかいくらサボり魔だからって依頼を蹴ったりはしないからね?全く失礼な…」

何故早めに依頼を終えて帰ってきたというのに、こんな事を言われなければならないのだ。と若干腹を立てながら言う。
まぁ日ごろの行いからすればそう思われても仕方のない事なのだろう。

「珍しい事もあるんだな…。こりゃあ明日は槍が降るな!!がっはっはは」

豪快に笑うオレイン。ラトはこのやろう…と心の中で悪態を吐く。もう絶対に早めに依頼なんてこなさないと心に決め、ラトは一度ゴホンと咳払いをし、本題に入る事にした。

「そういえば、この依頼おかしかったんだ。」

オレインはさほど気にしていない様子で「それで?」と相槌をうつ。ラトは自分が感じたおかしかった点を順を追って言う。
洞窟にトロールが一匹もいなかった事や、謎のトラップがあった事など、矢継ぎ早に言っていく。
一通り話し終え、最後に奇襲を食らった事を話した。オレインは神妙な顔つきでそれを聞いた。
ラトは全てを話し終えた後、オレインは口に手を当て、何かを考えているようだった。もしかしたらオレインも兄さん達の事と関係あると思ったのかも知れない。

「ねぇオレイン…もしかしたら、兄さん達は誰かに殺されたんじゃないかな。もしかしたら戦士ギルドの人間を、憎んでいる組織みたいのがあって、そこの奴等が兄さん達や仲間を殺したんだよ。きっと、そうに決まってるよ!!」

思わず熱がこもり、語尾が強くなる。きっとオレインもこの考えを肯定してくれる。
だが、オレインからはラトの思ったような答えは返ってこなかった。オレインはラトのその考えに首を振って答えた。

「なぁラト、それはお前の勝手な願望だ。ヴィテラスはアザニとの戦いで殿をつとめ、戦死した。名誉ある、戦死だ。お前の言い分だと、まるでヴィテラスは無様に死んでいったみたいじゃねえか。」

オレインの言っていることに思わずはっとした。私はギルドの誉れである事を侮辱してしまったのだ。自分の愚かさに、下唇を噛みしめる。

「…ごめん。どうしても、兄さん達がアザニにやられたとは、思えなくて…」

思わず拳に力が入る。俯いて先程の事を反省していると、オレインが声を和らげて明後日の方を向きながら言った。

「まぁ…お前にとって、ヴィテラスは兄貴みたいに懐いていたからな。ヴィテラスも妹のように可愛がっていたしな。そう思うのは、仕方がないのかもな」

オレインの言葉に、何も言えずただ俯いていると、オレインはそっぽを向きながら手をラトの頭の上に乗せてワシャワシャと不器用になでた。
そんな不器用な優しさに、ラトは少し照れながら笑った。

「…子供扱いしないでよー」

「うるせぇ。十分子供だろ」

オレインはそう言うと、頭から手を離し、かわりにラトの頭をペシンと叩いた。
その衝撃からか、ラトはすっかり忘れていた依頼の事を思い出した。とりあえずこの依頼をどう対応するのかオレインに聞いてみる。

「ねぇ、オレイン。この依頼の事マスターに話すの?」

「今はまだ話さないつもりだ。この事をヴィレナに話せばヴィラヌスへの過保護さが輪にかけて酷くなるだろうからな。」

つまり、今回の依頼は無事何事も無く、こなされた事にするつもりなのだ。ヴィラヌスの事を思っての判断なのだろう。
マスターには悪いと思いながらも、ラトもオレインの意見に賛成をした。
突如、オレインが何かを思い出したように声をあげた。

「そうだ、お前早く終わって暇なんだろ?ちょっと手伝ってくれ」

「え」

「シェイディンハルの方から人手が足りないとの書類が来てな。丁度いい、受けてこい」

オレインは先程まで戦っていた書類の中を探し、一枚の紙をラトに渡した。ラトは冗談じゃないと声を荒上げようとした時、オレインは報酬の金貨を見せる。
コレが欲しければ、依頼を受けろと言いたいのだろう。相変わらずな非道っぷりに成すすべがなく、仕方がなく依頼を受けたのだった。
もう絶対に早めに依頼なんてこなさないと神に誓ったのは言うまでもない。



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