愛しい者と引き換えに





腹部の傷に手を当ててやると、どくどくと私の中から液体が流れ出て行くのが分かった。視界がぼやけ、全てが白黒に見える。自分の息遣いも荒々しく、呼吸をするたびに傷に鋭い痛みが走った。一瞬なぜ私がこんな傷を負っているのか分からなかったが、視点が定まり、仰向けになっている私の目の前に居る魔王の顔を見て何が起こったのかを思い出した。魔王は、今にも泣きだしそうな顔で私を見ていた。
顔が近いので体を動かして距離を取ろうとした時だった、魔王が涙声で「動かないで下さい!」と私の肩を押して止めさせた。少ししか体を動かしてないのに、うめき声が出てしまう程痛かった。起き上がらせた頭を落とし、私は今魔王に膝枕をして貰っている状態だという事に気付いた。何時もなら声を荒げながらすぐにも退くのだが、如何せん体がこうも言う事を聞かないのでそれは叶わなかった。ふと横を見ると勇者の屍と血のついた聖剣が落ちていた。そうだ、数分前、確か私はこの地にいる勇者を全員倒したと、奥にいる魔王に報告しに行ったのだ。最後の勇者は魔王を囮に使って勇者が油断している間に、横からトカゲ達に攻撃させるといった画期的な作戦で、結果勇者はまんまとその作戦にはまり命を落とした。最後に倒れた勇者を左程どうとも思わず近寄ったのがいけなかったのかもしれない。魔王に話しかけようと近寄った時だった、魔王が静止の声を荒上げるのと同時に、死んだと思っていた勇者が起き上がり、最後の一撃を私に食らわせたのだ。結果、勇者は自分の命と引き換えに本命の魔王の命まではいかなかったものの、私を道づれにする事が出来た。
まさか最後の最後でこんな目に遭うとは、と苦笑いを零す。そんな私の表情を見て魔王は顔を歪め、ついに涙を零した。正直、泣かれるのは好きではない。罪悪感が心にはびこるからだ。どうにか泣きやんで欲しく、血のついてない方の手を魔王へとのばす。不思議と、腹部の痛みは薄れてきていた。私の命が、もうすぐ終わるからかもしれない。
魔王は泣きながらも「動かないで下さいってば!」と声を荒上げながらも私の伸ばした手を握った。そんな魔王に微笑みながら、「泣かないでよ、せっかく世界征服出来たのに」と声をかける。その言葉に、魔王は何かを言い返えそうとして、だが、もう一度顔を歪ませ、私の手を両手で握り直し、涙を流した。ふいに、瞼が私の意志に反して閉じようとしていた。魔王が必死に私の名前を呼んでいるが、聞こえる声はどんどん小さくなっていく。魔王が最後に何か言っていたが、今の私にはもう届かなかった。


(望んだ物は手に入った)
(望んだ者は失った)






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