祝杯の話



試合後、皆がてんでバラバラに休む中、バーというにはいささか騒がしいこの場所で私は祝杯をあげていた。なんたって、チャンピオンになれたのだ!しかもダメージだって、2000越え!念願のハンマーバッチが取れたと浴びるように酒を飲んでいた。

チームだったライフラインとバンガロールに「もう寝るわよ」と呆れられたが、寝てしまうとこの喜びが消えてしまいそうで。「コレを飲んだら寝るから、先に御開きにしよっか。今日はありがとう!」と帰らせたのが数時間前だ。寝るなんて勿体ない!まだまだ飲まなければいけないはずだ。

「ようチャンピオン。まだ飲んでるのかよ」

「あ、オクタン!そりゃもう、今夜はオール!だってほら、永遠と言い続けてきたハンマーバッチついに取れたんだし!」

私が紋所のように見せつけているというのに、オクタンは一瞥してため息をついた。

「ね!見て見て!ほら!ハンマーバッチ!ね!見てーっ!」

「アー見た見た。100万回見た。おめでとサン」

興味がゼロのオクタンに思わずムッとする。もっと褒めてくれたっていいはずだ。

「でもま!これで?中級者クラスと豪語しても?許されるってかんじ?」

「おいおい、あんまり調子乗ると痛い目みるぞ。」

お酒を頼みながら、オクタンは私の隣にあるスツールに腰かけた。相変わらずマスクを付けているせいで顔は見えないが、ゴーグル越しに見える目は気怠さを感じさせた。
なるほど。どうやら今は”キらして”いるらしい。
一緒にバカ騒ぎしたい気分だというのに、と1人ごちた。薬が入っていない時は割とまともなんだよな。でも今はアドレナリンをキメているオクタンが良かった。

「ロクに戦うことも出来なかったクソ雑魚ナメクジがチャンピオンとはなぁ」

「幼馴染みといえど言っていい事と悪いことが……あ!分かった!序盤で負けちゃったから嫉妬してるんだ!」

「嫉妬なんてしねぇよ。賞賛だ、賞賛」

鼻で笑いながらオクタンはマスクをずらし、一口でショット一杯を飲み干した。相変わらず酒を水みたいに飲む男だ。”楽しくなる”モノは全て使用限度を超えて使っているんだろう。

「ほら、おごりだ。飲めよチャンピオン」

すっと差し出される小さなグラスに、透明な液体がなみなみ注がれている。先程オクタンが飲んでいたお酒だろう。
ちらりと窺いみれば、オクタンはニヤニヤしながら私を見ていた。知っているんだ、ちょっとだけ飲んでグラスを置いたら「根性ナシだな」と馬鹿にしてくるということを。
グラスを掴むと、オクタンのように一口で飲み干した。強烈なアルコール臭がしたかと思えば、喉が焼けるように痛んで、最後は脳ミソに右フックが飛んできた。あ、ヤバ、しかいが  とん で


****


「まったく。これが”チャンピオン”か?」

直訳すると優勝者だぞ。どこがだ?耳まで赤くなってグラスを握りしめたまま、机に突っ伏している姿は、まぬけにしか見えなかった。
すうすうと寝息をあげるチャンピオンに溜息を零しつつ、オクタンはもう一杯酒を頼んだ。仕方がない。これを飲んだら部屋まで連れて行ってやるか。

硬い机の寝心地が悪いらしく、ナマエが身じろぎする。瞬間、ほのかに火薬の匂いがした。
数時間前の戦いが、オクタンの中で蘇る。血に硝煙の香り、何人も屠り倒した時の、銃器の熱。思い出しただけで背中にゾクゾクとした感覚が走る。

アリーナは最高だ。常に刺激で溢れている。

だがそれは、勝ってるヤツしか味わえない。
だからこそ、正直ナマエがチャンピオンになるとは、ましてはハンマーまで取った事に驚いた。銃を自分に向けて撃ってるのかと思うほど即死していたからな。楽しくない事を続けるだなんて俺には無理だ。

「ね……おくたん。わたし、がんばった、よ」

「!……なんだ、起きてたのかよ」

「うーっ……あたまいた……。こんなつよいの、よくのめるね」

「おいおい、無理すんなって。寝てろよ。運んでやるから」

左右に振れるナマエが、どうにか椅子から降りるが、このままだと何処かで野垂れるのは明白だった。カウンターに多めの料金を置くと、オクタンは椅子から降りてナマエの元へ向かった。

隣に並び、肩を貸そうかと思ったが、明らかに肩の位置が合わない。

「チビ」

思ったままに言った。隣の女が顔を顰めて「オクタンきらーい!」と言いながら殴ってくる。
仕方がないのでナマエの膝の下に腕を通して抱きかかえると、パンチの雨がピタリと止まる。代わりに足がバタバタと揺れる。

「おい、持ちづらいだろ。大人しくしろよ」

「や、これ……恥ずかし……」

腕の中で声も体も縮こまっていくナマエに、努めて思わないようにしていた感情が滲み出る。
あー、くそ。これは俺の方がヤバそうだ。無心で歩みを早めて、部屋につくや否やナマエをベッドの上に転がした。

「水飲んでさっさと寝ろよ。じゃーな」

ナマエが何か言おうとしていたが、それを聞く前に俺は扉を閉めた。
そこでやっと”褒めてない”事にオクタンは気が付いた。グッと握りこぶしを作り、しばしの間考え込む。

まったくもって、やり辛いぜ。いつか言っちまいそうな自分が嫌なもんだな。「アリーナに出ないでくれ」だなんて。間違いなく喧嘩になるだろうしな。

「負けるのが嫌になってそのうち辞めると思っていたんだがなぁ。ったく、誰に似たんだか」

ガシガシと頭を掻きながら、オクタンは自室へ足を進めた。ま、明日気が向いたら褒めてやろう。寝たら気が変わるかもしれないしな。



(20190811)
明日も褒めませんでした。

プラチナ行けた記念。








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