お返しのお返し




「破壊神さま、これ前のお返しです。」

私の部屋のソファに膝を抱えて、テレビを見ている破壊神様に唐突にそう言えば「へ?」と間の抜けた声が返ってきた。そしてテレビから目を離し、此方に振り返って「何の事?」と顔をしかめながら言ってきた。
今日は何の日なのか忘れたのだろうか。まぁ確かに先月のイベントに比べると、あまり盛り上がっておらず、テレビのCMなどでも左程この日の事を取り上げたりしていない所を見ると、忘れられていても仕方が無いのかも知れない。自分からこの日の事を言うのは何だか恩着せがましく聞こえそうなので、「ほら、あれですよ」と適当にぼかしながら破壊神さまと向かいの椅子に座り、テーブルの上にお返しの入った箱を置く。破壊神さまはその箱を一瞥すると「あぁ、そう言えば今日だったわね」と何の日か思いだしたようだった。そして照れくさそうに頬を掻きながら、横目をやりつつ、口をとがらせながら、・・・ありがと。と感謝の言葉を述べた。そんな禍々しくも不器用な破壊神さまを見て自然に頬が綻んでしまった。そんな私の表情を見て破壊神さまは「何笑っているのよ」と眉をしかめながら言うと、軽くため息を吐き、箱に目線を移動させた。そして興味が湧いたのか「これ、開けてもいいの?」と箱に手をやり、リボンを引っ張りながら言った。答える前から開ける気満々じゃないですか、と心の中で言いつつも、箱の中身が気になるのか先程から振ったり揺らしたりしている破壊神さまを見て、とがめる気は無くなった。むしろ変なところは子供な破壊神さまを、かわいいなぁと胸を高鳴らせながら思った。「開けてもいですよ」と許可を出すと丁度リボンがほどけ、破壊神さまは箱の蓋を取り、驚いた声を上げた。

「こ、これ・・・ゴディ魔の幻と言われているチョコじゃない!」

「おお、良く分かりましたな!いやーコレを手に入れるの大変だったんですぞ」

そう言うと破壊神さまは穴が開くかと思う程見つめていたチョコ達から目を離し、私に顔を向け、「よく私の欲しかったものが分かったわね」と不思議そうな声を上げた。その問いかけに笑いながら「愛のパワーのおかげですな!」と茶化すと破壊神さまは「はいはい」と呆れながらため息をついていた。あからさまに信じて無い破壊神さまの様子に異議を唱えようとした時だった、破壊神さまが「魔王も一緒に食べる?」とチョコを指差しながら聞いてきた。

「私に遠慮せずに食べて下さい」

「私こんなに食べられないわよ。せっかくなんだからほら、一緒に食べるわよ」

「・・・なら、お言葉に甘えさせていただきますぞ」

そう言うと破壊神さまは満足そうに笑い、そうこなくっちゃ、と言った。そんなご機嫌そうな破壊神さまを見て、改めてプレゼントして良かったと思った。ここまでご機嫌な破壊神さまは、そう見た事がない。嬉しそうな顔でチョコを頬張る破壊神さまにつられて、一つ私もチョコを食べる。さすが幻のチョコと言った所か、かなり美味い。ウィスキーと合いそうだな、とふと思った。そういえば確かとっておきのウィスキーがあったはず、と昔の記憶の糸を手繰り寄せ、ごそごそと酒棚を漁っていると、破壊神さまは不審に思ったのか「何してるのよ」と声を上げた。それと同時に私のお目当ての物が見つかり、「おお!ありましたぞ!」と思わず声をだす。

「なにそれ・・・?ウィスキー?」

「おお、良く分かりましたな!せっかくですし、一緒に合わせて飲みましょうよ」

そこまで言って破壊神さまのグラスに少し注ぐ。破壊神さまは私に一言お礼を言うと、ほんの少しだけ口に入れ、途端に顔を曇らせた。

「これ、美味しいけどだいぶ濃度高い・・・」

「そうですか?私は別に大丈夫ですが・・・」

「・・・水割りで飲むわ」

そう破壊神さまは言うと水の準備をし始めた。そんな破壊神さまを横目に「神のくせに酒には弱いんですなぁー」と小さな声で呟く。聞こえないように言ったつもりだったが、どうらや聞こえていたようで「聞こえているわよ」と声が返ってきた。そして「胃痛めても知らないからね」と此方に戻ってきながら言った。その言葉にけらけら笑いながら「私ぁ魔界のまおーですから心配ご無用ですぞ!」と高らかに言うと破壊神さまは呆れ顔で、もう酔って来てるじゃない、とため息交じりに呟いた。

「そもそもですね、ウィスキーの歴史を破壊神さま知ってますか?ウイスキーが歴史上はじめて文献に登場したのは、1405年の魔イルランドでなんですぞ。で、このときウイスキーは修道士たちによって製造されていたんです。スコット魔ンドでも1496年に記録が残っているみたいですが、実際はウィスキーはこれより数百年も前からあったものと考えられているそうです。初めてウィスキーが製造されたのがいつからで、それがどこでだったかはわかっておらず、この時期のアルコール飲料の製造記録は残っていないために推定することはむずかしいんですよ。またウィスキーは個別の集団によってそれぞれ独立に発明された可能性もあるそうですぞ。・・・って聞いてます?」

なんの反応も返ってこなかったので、一旦話を止めてチラリと破壊神さまを見る。てっきり興味が無いから無視をしているのかと思ったが、どうやら違うようだ。破壊神さまは若干頬を紅色に染めらせ、トロンとした目つきでひじをついていた。水で割っていたくせにもう酔ったのか、と改めて破壊神さまの酒の弱さに驚く。不意にテレビの音が大きく聞こえる。どうやら先程の番組が終わり、違う番組に変わったようだ。MCの威勢の良い挨拶と共に、今回の番組のテーマを言いだした。

『今回我が番組ではキスをすると女性は綺麗になるという理由を全面的に検証していきたいと思います!!』

さすが深夜番組と言ったところか、訳の分からない事をよくするなー、と心の中で笑った。酒の力を借りてか、少し怖いもの知らずになった私は破壊神さまををからかう事にした。

「キスをすると女性は綺麗になるそうですぞ、破壊神さま。・・・私で試して見ますか?なーん」

ちゃって、と言おうとした瞬間だった。破壊神さまは突如こちらに目を向けてかと思うと、テーブルに膝をつき私の服の襟をつかんだ。もしかして怒らせたのか?と思ったがどうやら違うようだ。破壊神さまは相変わらず頬を紅色に染めらせながら、トロリとした目つきで私を見ていた。そんな艶かしい破壊神さまとの顔との距離に思わず顔を真っ赤にさせる。破壊神さまの思いがけない行動や顔を見て、私は金縛りに遭ったかのように動けなかった。それを良い事に破壊神さまは襟から手を離し、すすす、と首をつたって私の頬に手の平を当てた。そして破壊神さまは顔を少し斜めらせ、目をつぶりながら、私の顔に近づける。破壊神さまの顔が近付くにつれて私の鼓動も早くなっていく。
ずる、という音と、ごん、という音がした瞬間、私と破壊神さまの距離はついに0になった。ほっぺが痛い。あまりに予想外すぎる出来ごとに固まってしまったが、私に倒れこんでいる破壊神さまを見て何となく何が起こったのかを理解した。つまり破壊神さまが酔っていたせいかバランスが悪かったらしく、テーブルに置いていた膝が滑り、私に激突したようだ。何もあんな良い雰囲気な時に滑らなくても・・・、と若干げんなりする。先程の衝撃でか、酔いが完全に回ったのか、破壊神さまは私の胸に寄りかかりながら寝ていた。滑った瞬間咄嗟に掴んだのか、私の服を握りながら規則正しい寝息を立てていた。あまりに予想外過ぎる出来事の連続で、完全に酔いは醒めていたが、こんな破壊神さまを見て酔った時のように顔を赤らめ、起こさないようにそっと抱きしめてやった。



ホワイトデーネ・・・タ?

魔王はきっと酔ったら怖いもの知らずになる気がします。

破壊神さまは言われた通りに動くようになるんだろうと思う。








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