四月馬鹿





カチリ、という音と共にライターに火がついた。慣れない手つきで煙草に火をつけ、肺に煙が行かないように気をつけながら煙草を吹かす。ふう、と紫煙を吐きだすと煙草の匂いが辺りに広がった。慣れない匂いに思わず眉をひそめてしまったが、これも魔王を驚かすためだ、と自分に言い聞かせて我慢をする。
ふふふ、と今日の計画を思いだし、思わす笑みがこぼれる。今日は待ちに待った日、エイプリルフール。つまり嘘が許される日なのだ。せっかくこんな素晴らしい日があるのに無下にするのは勿体無い。だから、今日はこの煙草を使って魔王を騙そうという魂胆だ。簡単な事だ、ただ煙草を魔王の前で吸って「実は喫煙者なんだ」と嘘を吐く。それだけできっと魔王は騙されてしまうだろう。いとも簡単に騙される魔王が目に浮かび、思わず笑みが広がる。早く来ないかな、とわくわくしながら魔王を待ちわびる。そして、丁度一本目の煙草が吸い終わり、二本目に火を点けた時だった。扉の開く音と共に目当ての人物が入ってきた。そして、私の手に持っている物を見て目を見開き、「な……!?ちょ破壊神さ…まソレ…」と驚きを隠せないといった表情でこちらを見た。
気持ちいい位簡単に騙されてくれるので思わず笑いそうになったが、ぐっと堪えて二本目の煙草を吹かし、魔王に見せつけるかのように紫煙を吐く。

「実は私……喫煙者なんだよね。ずっと黙ってたけど」

「だだだ駄目ですよ!!煙草なんて吸ってはいけません!」

「別に良いじゃん、これぐらい」

そう言いながら煙草の灰を灰皿にトントン、と落とす。そんな私を見て魔王は「発癌物質が沢山入ってるんですぞ!?お願いですからおやめ下さい!」と目に涙を溜めて懇願してきた。ここまで魔王が必死になって止めるなんて珍しいな、と心の片隅で思いながらもせっかく、此処まで上手く騙せてるのだからもう少し騙してみたいという気持ちが膨らむ。もう少し、もう少しだけ騙してからカミングアウトしようと思い、続けて煙草を口へ含む。
すぅ、と吹かしながら「いやよ。……大体何で止めて欲しいのよ」と聞いてみる。そうすると魔王は先程言っていた事と同じ事をもう一度言うと、「…それに、」と付け足してきた。私は一度紫煙を吐いて、煙草を吸い直しながら「それに?」と聞き返す。どうせ肺がんのリスクが非喫煙者に比べて5倍も上がるんですぞ!とか言うのだろうな、と心の中であざけ笑う。

「老後もずっと一緒に居たいじゃないですか!!!」


思ってもいなかった返答に思わず固まる。あまりに予想外な答えに頭の中に有った事が全て吹き飛んだ。それがいけなかった、紫煙を口に含んでいる状態なのに息を吸ってしまい、肺に煙が通ってしまった。慣れない異物に肺が全力で拒否反応を起こし、ごふぅ!と勢いよく咽返る。ついでに先程言われた言葉が地味に恥ずかしく、顔に熱がこもる。顔を赤らめながら全力で咽ている自分に恥ずかしいやら、悲しいやら情けないやらと気持ちが高ぶって思わず泣きたくなった。こんな事になるならば何もしなければ良かった。最悪だ。


(ちょ破壊神さま死なないで!一緒に長生きして下さいよ!!)

(まだ…ごふぅっ!言う…か…げふっごふ!ごふ……ぐふっ)

(ちょ破壊神さま!?破壊神さまあああああ!)


補足

吹かす→タバコを吸う。また特に、タバコの煙を深く吸わずに吐き出す。







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