甘く蕩けて溺死
「どうしたの、その背中」
「んあ?」
ぼーっと銀時の着替えを眺めていた。その時、ふと、ある違和感を覚えて小首を傾げる。どうにもミミズ腫れのような。赤く染まったそれに指を伸ばして銀時に聞けば、間の抜けた顔で振り返った。
「なにこれ。引っ掻き傷?」
「……あぁ、それ」
痛そう。簡単な言葉を吐いて、指を這わせる。そこは別にもう熱も持っていなくて。ただただ指に感じるのは、銀時の肌の温かさだけだった。
「それなあ、あー……猫に引っかかれた」
「猫?猫だったらもっと……」
「ほそい」と続けようとした言葉は、銀時によって遮られた。ギュッと抱きしめられて、わけがわからない。
「抱きしめ返してみ」
「え?……こう?」
言われた通りに背中に腕を回せば、「違う」と言われて。違うって?どういうこと?と銀時を見やれば、わたしの腕を掴んで、彼自身の肩に持っていかれる。「え?え?」声をあげて聞いてみても、銀時はただニヤリと笑うだけだった。
「なあに、どういうこと?」
「そのまま背中に手ェやってみ」
更に身体を寄せて密着すれば、またも指示通りに背中に手をやる。
「これがどうしたの」
「マジで気付かねーの、名前ちゃん」
「ええ?」
要領を得ない言葉に眉を寄せた。はっきり言ってくれなきゃ、さすがのわたしもわからない。
唐突に、わたしの首元に銀時の唇が触れた。ピクリと軽く反応する身体に、悔しさが増す。
そのままその唇を上に這わせて、わたしの耳たぶに甘噛みをした。
「ちょっと」
胸を押して拒絶の意を示せば、くつくつと喉の奥で笑う。いやらしい人。
わたしの耳元で吐息交じりに低く囁かれる言葉。わたしは顔を赤くすることになる。
「これ、お前の」
「は……!?」
「猫って、お前のことだよ。名前」
そんな、どうして。だって、この前そういうことしたのは、一週間くらい前のことだし。
なのに、なんで残っているの?
「意味わかった?」
「わ、わかったけど。そんな残るもんなの?」
「結構痛かったしなァ」
「う……」
悔し紛れにわたしを抱きしめたまま離さない彼の肩に手を這わせれば、また軽く爪を立ててやった。「いって」なんて、然程痛そうにも聞こえない声を小さくあげる。そんなに力入れてないじゃない、批難の目を相手に向ければそれでも変わらないニヒルな笑み。悔しい。
「なあに、これ。抱いてもいいの」
「……調子に乗るんじゃ、」
最後まで言わせるかと言わんばかりにわたしの言葉を食べた銀時。甘やかしてる自覚はあれど、それを嫌だと思えない自分にほとほと呆れてしまった。
title:浮世座
20180724