よりも甘い、


※前の話のオマケ

早くもアイスを食べ終えて片付けまで終わらせた銀時が襖を忙しなく開ける。予想よりも大きな音を立てるものだから、つい眉間に皺を寄せてしまった。

「そういう煽り方は心臓に悪いからやめろや!」
「うるさいよー銀時。神楽ちゃんも寝てるんだから、静かにして」
「お、おま、お前マジ……ああもう!」
「コラ、うるさいって」

敷かれてる布団に入り込んで、座りながら枕の位置を正しつつ寝る準備に勤しむわたしに、仄かに赤らめた頬を隠しもせず、普段見せない動揺をそのままで銀時がわたしの横にしゃがみこむ。僅かばかり声を大きくした銀時の額を痛くない程度に軽く叩けば、その手をしっかり掴まれた。

「なあに」

なんて、今度はわたしの番。本当はわかってるけど、何もなかったフリをして薄く笑って白々しく聞いてみる。
だけれど、銀時は質問に答えることもせずに掴んでいたその手を強く握った。

「銀ちゃん」

何も言わずにジッとわたしを見つめてくる銀時の口元に、握られてない方の手の人差し指を当てる。

「握り方、違うよ」

小さく囁くように漏らせば、さっきまでの緊張したような硬い表情はなくなって。フッと優しく笑った銀時が、「ハイハイ」と言いながら握られた手の力を緩めた。そして、指と指を絡めるようにして繋ぎ直せば、自然と流れるようにわたしの顔と銀時の顔が近付いていく。流れに身を任せて瞼を閉じれば、銀時の唇がわたしの唇に触れたのがわかった。仄かに、バニラの香りが漂う。熱くなる頬に、自分の顔も赤くなっているのだろうと容易に想像できた。

触れ合う唇のなんと優しいことか。言葉だけは乱暴だったり、態度だけは横暴ともとれそうな人だけど、わたしに触れる手や唇が優しいことは、わたしだけが知っている。わたしだけの特権だ。

どれだけの時間が経ったのだろう、何度か繰り返しされた口付けは、さっきまで二人で食べていたバニラアイスのように甘く感じて。
名残惜しげに離された唇に、ゆっくりと瞼を開けば、銀時の臙脂色の瞳がわたしを射抜いた。吸い込まれそうなその瞳に綺麗なんて的外れなことを思っていたら、頭を引き寄せられる。それから緩く抱きしめられて、そのまま銀時に身を寄せた。

照れ臭そうに「甘ェな」なんて耳元で言うのが、なんだかひどくくすぐったくて。くすりと笑みが零れたのだった。


20180717


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