笑顔が似合う
※幼少坂田
「お前、こんなところでピーピーピーピー泣いてんじゃねぇよ」
誰にも見られない、誰も来ないはずの池の前。ある秋の夕暮れ時だったと覚えている。
なんに関しても鈍臭いわたしは、寺子屋の男の子達からよく揶揄われコケにされていたのだ。それでも泣くものかと堪えていたものが、その日は我慢も出来なかった。
一人になった途端、わたしの目から大量に溢れる水滴を止めることなく流していると、見知った顔の男の子がわたしの前に現れた。銀色の髪を橙色に染めながら、ふあぁとだらしない欠伸をする。
そして、彼はわたしの隣に座った。「どうしてここにいるの」嗚咽混じりの言葉を漏らしながら、涙の浮かばせた瞳で睨み付ければ、興味もないといった表情でわたしに言う。
「寝てたんだよ。そしたら、お前が来たの」
「……ごめん、なさい……邪魔したね」
「うん」
「……ごめんなさい」
「謝んなくていいよ、別に。俺が泣かしてるみたいになるじゃん」
止まらない涙を無理矢理腕で拭い去ろうとすれば、その手を止められて。存外、態度や言葉に反して優しいその指先が、わたしの目尻をゆるりと撫でる。涙を奪い取るように、ゆっくりと。
その何気ない仕草がひどくわたしの胸を締め付けて。
気まずさに顔を逸らせば、まだ成長もし切ってない幼い掌がわたしの頭に乗っかった。
「一人で泣くなよ」
「ッ……」
またポロポロと溢れ出す涙が、わたしの頬を伝っていく。
「別に俺以外でもいいし、ヅラとか。優しいだろ、アイツ。お前のこと揶揄ったりなんてしねぇよ」
「……うん」
「こんなとこで一人でメソメソ泣くくれーなら、誰かの側で泣けよ」
「ん……っ」
ぽんぽんと頭を優しく叩いてくれるその手は、まだ大きくもないのに。わたしと同じくらいの齢のくせして、この少年はひどく大人びていた。
寺子屋の少年達と一緒になってわたしを揶揄ったりなんてしない。それどころか、偶にその騒ぎを止めてくれるときだってあったのだ。
わたしにとって、彼は正義のヒーローにも近かった。
「なんか、銀時って……ヒーローみたい」
「ああ?」
「だって、女だからって……わたしを揶揄ったり、しないし。なんなら助けてくれるもの」
「……別に。そういうのバカみてぇだし」
途切れ途切れながらもポツポツと話し出すわたしに、銀時は照れ臭そうに頭を掻いた。
わたしを助けてくれた時、泣きそうな時、お礼を言えばこうして頭を掻くのをよく見る。
それで、「別に」って、毎回言うんだ。
「……銀時の側にいると、落ち着く」
「じゃあ、お前がまた泣きたくなったら――」
「?」
「その時は、俺がそばに居てやるよ」
「へ、」
「それで、俺の前で泣け。溜め込んだモン全部吐き出しやがれ」
胸の内が温かくなるのを感じた。
いつも以上に大人びた表情で、いつも以上に大人びたその言葉で、わたしの心を震わせる。ピタリと止まった涙に、彼が優しく笑った。
「で、また笑った顔見せてくれよ」
20180731
(幼少銀時にしては大人びてしまった……)