陽だまり


――何をどうしたら、ここまでの素敵な天然パーマができるのだろう。

ふと頭に浮かび上がった疑問は、頭を撫でていた手を簡単に止めた。小首を傾げて銀時をみやれば、目を瞑ったままの彼はすやすやと安らかな寝息を立てている。

彼のご両親は、天然パーマだったのだろうか。それとも片方の親御さんが天然パーマで、その血を強く受け継いだのか。はたまた、ご両親なんて全く関係なくサラッサラのストレートだったとか。だとしたら、劣性遺伝とかかな。
勝手な推測だけが、わたしの頭の中を駆け巡る。

わたしの膝の上に頭を乗せた銀髪をもう一度優しく撫でてみた。フワフワしていて、少し髪質が固いのか撫で付けた箇所がすぐにピョンと跳ね上がる。重力に逆らう髪の毛がなんだか可愛らしくて、くすくすと小さく笑ってしまった。
そんなわたしが鬱陶しいのか、はたまたわたしが考えていることが夢にでも現れているのか、眉間に皺を寄せて唸りだす彼。わけもなく怒られたような気持ちになって、少しだけしょんぼりしてみたりして。

そんな何気ない時間を過ごしていると、陽が傾き出しているのが目に入った。
もうそんな時間なのかと時計を確認したくて、テレビをつける。夕方にはお決まりのニュース番組が画面に映し出されて、仕方なく「夕飯の支度するよ」と寝ている彼に声をかけた。
それでも目覚めない銀時に、神楽ちゃんに怒られるぞという気持ちを表すように身体を揺さぶる。それでも全く起きる気配はない。更には顔まで顰められて。
どうしたものかと頭を掻く。

「銀ちゃん、起きて。夕飯の支度するから起ーきーてー」
「んー……」

んーってなんだ、可愛くねーよ。起きてよ。
内心毒吐きながら、そのやらかい頭を軽く叩いてみる。それでもやっぱり鬱陶しそうにするもんだから、些かながらイラッとしてしまって。
このままソファーから落としてやろうかとまで思ってしまった。そんなことは、しないのだけれども。

時間だけは無情に刻一刻と進んでいき、神楽ちゃんと新八くんが買い物から帰ってきた。スーパーの袋をガサガサと音立てながら居間へとやってきた二人に苦笑い。
「あはは」と力なく笑ってみせれば、新八くんは呆れたように溜め息を吐いてお台所へと向かっていった。スーパーの袋を持っていったのを見る限り、冷蔵庫に物を入れに行ってくれたのだろう。よく出来た子である。
少しだけ、銀時も見習ってもらいたい。

しかしながら、神楽ちゃんがそんな悠長なことを許すわけもなく。額に青筋を浮かべながら気持ち良さげに眠る彼に「お腹空いたヨ!!」なんて大きな声で喚き出す始末で。
多分、これは本当にお腹空いてるんだろうなぁ。
他人事みたいに様子を伺っていれば、わたしの膝からもソファーからでさえも無理矢理その身体を叩き落とされ「い"っ……てェ!」と声を荒げて起き上がった。

ようやく解放されたわたしは二人の喧嘩をそのままにしていそいそとお台所に直行。
冷蔵庫に物を詰め終わったのであろう、袋を綺麗に畳む新八くんと目が合えば、二人で苦笑いを零しつつくすくすと面白おかしく笑ってしまった。


――その後、銀時は神楽ちゃん達と少しだけ遊んでいて。それがなんだか「親子みたい」。小さく呟いて三人を見やれば、きょとんと目を丸くしてわたしを見た。
そんなに可笑しなことを言ったのかな。
首を傾げたわたしに銀時は、「じゃあ、お前は俺の嫁さんってか?」なんて冗談交じりに言い出して。
火照る頬を隠しもせずにポカンとだらしなく口を開けて驚いてみせれば、いたずらっ子みたいな笑みを銀時は溢した。
神楽ちゃんや新八くんは、それに呆れたように溜め息をつくものの、笑みだけは絶やすことがなかった。
二人の前で、ああもう、恥ずかしいったらないじゃない!


加筆修正前「こんな一日が、大好き」2007
加筆修正後 20180722


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