この夜が続いてほしかった


耳を劈くような大きな音。視界に映り込む色とりどり花びら達は、暗い夜空に儚く散った。
まるで、わたしの心みたいだと思って。この切ない気持ちを湛えたまま、わたしは銀時の隣で花火をぼうっと見ているだけだった。

――「花火、見たくねぇ?」

昼間、突拍子もなく寄越された電話。まさか銀時から誘われると思わなくて、声を裏返させて誘いに乗った。
急なお誘いだったものだから、何も支度が出来てなくてあわあわと忙しなく準備をした昼間。お風呂に入ったり、去年買ったけれど結局使えなかった浴衣を引っ張り出してきたり。滅多としない化粧だって、薄くだけど施したりした。髪の毛は一番悩んだけれど、雑誌やネットの情報を頼りに不器用ながらにも綺麗に纏め上げたのだ。
それもこれも、少しでも銀時に可愛く思われたかったから。

だけど、いざ待ち合わせ場所に指定された時間通りに行ってみれば、銀時はわたしに何も言わなかった。それどころか、まともに目すら合わしてくれないもので。

――期待、していたのに。

去年買ったとは言え未だ見せたことのないこの浴衣姿。少しでも銀時から褒められたくて、慣れない化粧もヘアセットもして粧し込んできたっていうのに。

しょんぼりした気持ちを隠すことも出来ず、冒頭に戻る。
夜空で爆ぜる花火は綺麗で、儚くて。赤や黄や青緑、色んな色散っていく様は、どこか切ない。
それが、なんだかわたしの気持ちを表しているような気がして。目頭がじんわりと温かくなるのを感じた。

「綺麗だなあ」
「えっ、……あ、うん」

鼻声を悟られないように気を張って返事を返したけれど、隣で花火を見上げる銀時はわたしを見ない。
ただの気紛れに呼んだ、ただそれだけ。
それだけの事なのに、勝手に期待して気合まで勝手に入れて粧し込んだのはわたしだ。
だから、何を言われなくとも仕方ない。
それは、わかっている。わかっているけれど、やっぱり可愛いとか綺麗とか、そういう風に見られたかった。

女って、こういう時面倒くさい。

きっとこんな仕様もないわたしの心を知ったら、銀時は幻滅する。こんな面倒くさい気持ちをもっているなんて思われたらと考えると、わたしの心は一気にどんよりと重くなっていった。

「なあ」
「え?」
「わかってる?」
「は?」

ただボーッと花火を見ながら、涙が溢れそうになるのを堪えていた時。隣に佇む銀時が、ようやくわたしを見下ろした。
だけど、銀時が言ってる言葉がわたしにはよくわからず小首を傾げるだけで。そんなわたしに、彼はただ一つ大きな溜息をこれみよがしに寄越してみせた。

「綺麗って、お前のことだよ」

花火の音は大きかったけれど、はっきりと聞こえた銀時の声にわたしは目を見開いた。
だって、終始わたしなんて見てない素振りばかり見せてきたっていうのに。今になって、そんなことを言うなんて。

「な……んで、いま」

ヒューっと火花が空へ舞い上がる。ドォンと大きく鳴り響き、夜空に花を開かせたそれを見上げることは出来なかった。

――真っ直ぐ、銀時がわたしを見ていたから。

目尻を下げて口元に弧を描き、優しく笑う銀時は、贔屓目抜きでかっこよくて。さっきまでのどんよりとジメジメした気持ちが嘘のように、全ての景色が輝いて見えた。
女って、単純だ。

わたしって、本当に単純だ。

「会ってからずっと思ってたよ、当たり前だろ」

握られた手は、夏の暑さとはまた違った熱さを孕み、わたしを苛んだ。

20180810


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