美味しく頂かれました


「なんか甘い匂いする」

お風呂上がり、火照った身体。
新八くんのお姉さんで、わたしのお友達であるお妙ちゃんから貰った新商品のボディーローションのテスターを使ったあとだった。
隣に座った銀時が、わたしに身を寄せて首元の匂いを嗅ぎながら言う。首と頬に当たる彼のふわふわとした猫っ毛が少し擽ったくて、くすくすとつい笑ってしまった。

「お前からすんだよなア……」
「ふふ、そうだろうね」

仄かに自分から香るピーチの匂いに、銀時も気づいたと思えば少しだけ嬉しくて。
機嫌よく言葉を返せば、わたしの反応にきょとんと目を丸くした。

「なに、なんかあんの?甘いもんでも持ってんの?」
「お菓子は持ってないよ。強いて言うなら、この匂いは本当にわたしからしてるかな」
「えぇ?どういうこと?よくわかんねーんだけど」

わたしの手を緩く握る大きな手。硬くて、刀を握る男の人の手。
緩くそれを握り返せば、首を傾げてわたしを見る。
妙にそれが可愛らしく見えてしまうのは、わたしが彼に心底惚れてしまっているからだろうか。

「いいにおい?」
「ん、まぁ」

ふふ、と小さく笑えば今度は怪訝な顔をしてわたしを見る。
彼はいつもやる気がないような表情をしているけれど、結構表情豊かな人だと思うのだ。

「あのね、今、ボディークリーム塗ったんだ。お妙ちゃんから貰ったの」
「ボディークリーム?」
「うん。新商品の試供品らしいんだけど。わたし、乾燥肌だからそれを相談したらね。くれたの」
「ふーん、なるほどなぁ」

匂いの理由を銀時に話すと、やんわりとわたしの腕を触りだして、その肌の感触を確かめる。
いつもと違って今日のわたしの肌は違うと思うのだ。なんていうか、潤っているというか。瑞々しいというか。
自分でも感じるのだから、多分銀時でもわかるだろう。
ふふんと得意げに笑うわたしに、銀時は呆れた顔をして鼻で笑った。

「何よ」
「いや、お前の顔がおかしいから」
「唐突のディスがすぎるよ銀時くん」

そんな軽口の応酬を交わしてはいるものの、今日のわたしはこのボディークリームで心が満たされている。
故に銀時のディスに対してもイラっとしたりはしないのだ。
今日のわたしは鋼の心。つまり最強である。

「足とかもしてんの?」
「そりゃ、まぁ。全身してるよ」
「はー、女子って大変ね」

わたしの腕を触っていた銀時の手が太ももにいく。いつものカサカサ肌に潤いがあるだろう。わかるぞ、銀時。うんうん、珍しいよね。
一体何に納得しているのか自分でもよくわからないけれど、銀時の行動に疑問を抱かないこの時点で間違っていたのだ。

「……なーんか甘いもん食いたくなってくんな」
「は?」

どことなく、嫌な予感がしてくる。冷や汗をかいて頬を引き攣らせるわたしに、銀時が嫌な笑みを浮かべる。

「これは、うん。お前が悪いよね。うんうん、俺は何も悪くないね」
「いや、意味がわからないんだけど?」
「いやだから。俺は今無性に甘いものが食いたいわけですよ」

段々と変わっていく景色にぱちくりとまばたきをするものの、状況は何も変わらない。むしろ、あの、悪くなってませんかね?

「それって、お前の所為だと思うんですよね。銀さんは」
「いや、あの」

いつの間にか、わたしから見えるのは天井と銀時の顔だけになっていて。
あれ?待って?なんで?

「ま、まままままま待って?なんで?なに?どういうこと?」

太ももを触る手付きが妙にいやらしい。え、いやいや。おかしいよね。これおかしいよね!?どういうこと!?

「イタダキマス」


20181010


(ぶつ切り感。銀ちゃんハピバ!)


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