おやすみ


「眠れないアル」

深夜。布団を二つ並べてわたしと銀時は気持ちよく微睡み、今にも夢の世界に飛び立とうという時だった。
押入れの襖を薄っすらと開けて薄暗い中からかっ開いた青い瞳で神楽ちゃんがわたしたち二人を見つめている。
あまりの恐怖で「ヒッ」と小さくか細い悲鳴をあげてしまった。怖すぎる。

「おっ前またァ!?」
「眠れないアル。今度こそ眠れないアル。どうして眠れないネ」
「知らねェよ、知りたくもねェよ!頼むからもう勘弁してくれよ、この前それで散々な目に遭ってんだよ俺ァよォ」

心地よい睡魔は、神楽ちゃんのせいで一瞬だけ吹き飛ぶこととなるのだが、それも束の間のことだった。二人の会話を聞きながら横になっていると、矢張りまたわたしは眠くなっていく。睡魔が手を振って「待った?」なんて彼氏面して向かってきているみたいだ。いいぞ、そのまま来い。30分も待っちゃいないから、さっさとわたしと一緒に夢の中にランデブーと洒落込ませてくれ。

「ねぇ〜銀ちゃん、名前。……眠れないヨ」
「おいやめてやれよ、ソイツを巻き込むな」
「んん〜……」
「でも、銀ちゃん。名前眠そうアル。私の睡魔を盗んでいるのは名前ネ」
「ん〜……」
「この泥棒猫!私の睡魔を返す代わりにその布団寄越せ!」
「ンなわけねェだろ!!」

相変わらずの親子コントを見せてるけど、わたしはそれどころではない。
つーか、うるさい。

「神楽ちゃん」
「何アルか?」

神楽ちゃんの入れるスペースを作り、被っていた布団を少し上げる。
小首を傾げる神楽ちゃんに「おいで」。ポンポンと布団を叩き、優しく言った。

「ハ?何、なんで神楽だけ?じゃあ俺もい……」
「銀時、うるさい。神楽ちゃん、一緒に寝よう」
「……、……うん!」

嬉々として、わたしの布団に入り込んでくる神楽ちゃんを抱き枕代わりに抱き締めれば、背中に回ってくる温かな体温に思わず頬が緩む。この体温といい、抱き枕というか湯たんぽに近い。あったかくて気持ちいい。
優しく、子供をあやすように背中をポンポンと叩くと、彼女は少しだけムッと顔を顰めた。

「……そんなんじゃ眠れないヨ」
「だいじょーぶ、すぐ眠くなるよ」

口では文句を言いつつも、微睡んでいるのがすぐにわかった。眠たそうに瞬きを繰り返していて、可愛らしい。
暫くポンポンと叩き続けていると、わたしの胸元から小さな寝息が聞こえてくる。可愛らしい子。なんだか母親になった気分だ。

「おやすみ、神楽ちゃん」
「……お前すげーな」
「子供ってこういうものよ」
「ふぅ〜ん?じゃあ、ま、銀さんもあやしてもらおうかな〜」
「は?」

眉根を寄せて銀時を見やれば、自分の布団を近づける姿が見える。何してんのこの人。訝しがるわたしを余所に、背中を包むように抱きしめてきた。

「……暑苦しい」
「照れんなって」

はぁ、と小さく溜息を吐く。

「このガキのせいで寝れなくなったの、俺も」
「嘘つき。枕に頭つけたら3秒で寝られるくせに」
「のび太か俺ァ」
「似たようなもんでしょ、わたしよりも寝付きいいの知ってるんだからね」
「まぁそう言うなって。俺のことも寝かしつけてくれや」
「そんな歳でもないでしょーが……」

呆れつつも背後から感じる温もりに、徐々に徐々に睡魔が近づいてくるのを感じる。腕の中の温もりと背中の温もり。

「……なんか、ほんとにおやこみたいね」

わたしを背後から抱きしめる銀時がくすりを笑うのを感じる。釣られてわたしもくすりと笑った。

「そーだな」

首筋に当たる銀時の猫毛がくすぐったい。うーん、もう限界。


20201118


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