寝正月だって


ふと寒さに眠気が覚めて、閉じていた瞼を開く。我ながら天才的な寝相だと思いながら、我が家にはそれをさらに上回る芸術的寝相の女の子がいることを、再び訪れた眠気の残る頭で思い出した。わたしはまだマシな方だろうか。
更に厳しくなる冬の寒さに身震い。掛け布団を蹴るのいい加減やめたいところだ。

世間様は、正月ムード一色。当然のように、この万事屋も正月らしく、昨年の暮れにはしっかり大掃除も終わらせた。普段から休みが多い自由な場所ではあるものの、正月はそれとはまた違った休みの様合いを見せている。

そういえば、昨日は炬燵で銀時と神楽ちゃんと紅白歌合戦を見るか別チャンネルのバラエティ番組を見るかのくだらない争いをぼうっと眺めていた気がする。炬燵の中はぬくぬくで、隣の銀時は蜜柑を剥いてくれたりで、至れり尽くせりだった。
徐々に襲いくる睡魔にコクコクと舟を漕いだのもまだ覚えてる。額を炬燵机にぶつけて一瞬眠気が飛んだのも覚えてる。炬燵で寝てはいけないと何度か己を叱責したものの、後の記憶がないあたり眠ってしまったのだろう。額の痛みなんて、銀時の手が冷たくてすぐに飛んでった気さえしていた。
結局、2人が何を見ることに落ち着いて年越しをしたのか知らないまま、年越し蕎麦も食べれてない。2人と年越しが出来なかったのが、わたしとしては非常に残念である。

しかし、わたしが今現在布団で横になっているのは何故だろうか。記憶がないけど、わたしはもしかして起きて一人で布団に入ったのだろうか。いいや、そんなことはない。だって、何時だったか覚えてはいないが、銀時に起こされたのを薄らとは覚えているもの。
だとしたら、銀時がわたしを布団に入れてくれた?わざわざ炬燵を退けて、自分の布団とわたしの布団まで敷いて?
なんとも律儀な男だ。自分も炬燵で寝そうなものなのに。

銀時が眠る布団を見るように、寝返りを打った。布団の擦れる音が部屋に小さく木霊する。 小さく寝息を立てる銀時の寝顔が、思ってたよりも近くにあってギョッとした。まさかこっちを向いてるとも思わなかったから、ちょっと心臓に悪い。
左手を布団から出して、銀時の頬に手を伸ばした。そっと、壊物でも扱うように触れてみる。
寝顔が可愛いと思うのは、惚れた弱みというものだろうか。
親指を小さく動かして頬を撫でる。それから、力をいれずに軽く頬を抓んだ。

「んン"〜……」
「ぶはっ」

眉間に皺を寄せて身動ぎする銀時に、ついつい吹き出してくすくすと笑ってしまった。ちょっと、楽しいかもしれない。

「……何してんの……」

わたしの小さな小さな悪戯に、銀時が煩わしそうに瞼を開いた。どうやら起きてしまったようである。つまんないの、なんて思いつつも起こしたことに謝罪の言葉を述べた。

「今何時……」

寝起きの低く掠れた声、眠気の残る目。きっと、今の時間を銀時に伝えてもどうせまた寝るのだろう。でも、わたしも時間は少し気になったから、銀時の布団の頭上に置かれた時計を見やった。「6時半くらいだよ」短く伝える。

「まだ寝れんじゃん」
「朝だよ」
「まだ早い……」
「お正月だよ」
「……寝正月って言葉もあるだろ」

再び眠りに就こうとする銀時に、わかってはいたけれど呆れてしまう。正月くらい、早く起きようとしないものか。……わたしも二度寝しようと思ってたけど。

「……銀時」
「……」
「ねえってば」
「……なんだよ」

さも鬱陶しげに返答されるとムッとしてしまうが、でもきっとわたしの次の言葉で銀時は何も言わずに自らの隣を空けてくれるのだろうと思うのだ。この人は、わたしを甘やかしてくれるから。

「隣で寝たい」

一拍おいて、銀時が「へぇへぇ」と低い声で返事する。それから、布団の擦れる音が聞こえて、彼が動くのを見ていた。
掛け布団を少し開くと、わたしの大好きな言葉。

「おいで」

「うん」短い返事。でも、嬉しさを隠せないのか、声音は明るかった。
そっと銀時の隣に潜り込む。彼の胸元に擦り寄るように、伸ばされた腕に頭を乗せた。布団の中で足も絡ませれば、わたしと銀時が一緒に寝る時の体勢が整う。
抱えるように背中に回る大きな手に安心して、瞼を閉じる。

「あけおめ、銀ちゃん」
「おー。あけおめ」

銀時の温もりと匂いを感じながら、とくとくと穏やかに脈打つ鼓動を耳にする。これが、ひどく安心するのだ。
この人の隣はひどく安心する。そしてそれを許されるのは、わたしだけの特権だ。

正月なんて、もうどうでもいいや。お雑煮の準備とか、起きてからすれば良いだけのことだし。今は、ただこの人とこうして眠れるなら、それでいい。
あ、でも。布団に寝かせてくれたことは、後でお礼を言っておこう。



2021.01.01


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