あいつきらい


(お妙←夢主←坂田前提)


わたしの唯一にして最大のライバルは、この坂田銀時という男なのかもしれない――と、今更ながらに思うのだ。
以前のわたしであれば、どっかの警察ストーカーゴリラがわたしの中で最大のライバルであったと思っていたし、もっと言えば柳生九兵衛ちゃんなんてわたしよりもカースト上位に組み込むお妙ちゃんの大親友であると思っていた。
だけど、その域を過ぎないのだ。あの二人は。

しかし、この坂田銀時という男。
事あるごとにお妙ちゃんに頼られ、お妙ちゃんに心配され、とまぁそれなりに美味しい位置についていやがる。
お妙ちゃんの弟である新八くんが本意にしているというのだから、当然っちゃ当然なのかもしれないが。――しれないけれど!わたしは正直言って納得がいっていないどころか寧ろこの男に対して嫌悪感すら抱いているのだ。

だのに、この男ときたら自分が経営している万事屋のメンバーを引き連れてわたしとお妙ちゃんのお出かけの邪魔はするし、現在ときたらお妙ちゃんの隣でパフェに食らいついてる始末。
お妙ちゃんの弟である新八くんや、万事屋メンバーの中でも至上最高最大級に可愛らしいと形容してもいいくらいの神楽ちゃんが居るなら話は別だ。わたしもこんな大人気ないことは言えないし言いたくもない。
問題はコイツだ。この男。この、銀髪でだらしがないと言ってもいいぐらいの、この憎たらしい男。やる気がなくて死んだ魚のような目をした、この男!

コイツがわたしの中では一番の問題なのである。

因みにコイツが食べているパフェは後々わたしとお妙ちゃんが出すことになるし、わたしは正直言って結構な収入もあって尚且つこのメンバーにはそれが(何故か!!)バレているもんだから、多分わたしが一番出すことになるだろう。
新八くん、神楽ちゃんの分ならぶっちゃけ出すことも吝かではないしお妙ちゃんに至っては出す気でいたからこの三人は良しとしても問題はこの男である。
なんでわたしがこの男のパフェ代まで出さにゃならんのだ!?かーっ、パフェ食う時だけ目を輝かせやがって!普段から輝かせろ、そしてわたしとお妙ちゃんの邪魔をしたことをここで土下座して謝れ。

「あらあら、そんなに銀さんのパフェを凝視して、どうしたの?名前ちゃん」
「パフェ食べたいアルか?銀ちゃん、名前に一口寄越せヨ。どうせ、それ名前が払うアル」
「いや何勝手なこと言ってんの神楽ちゃん。流石に銀さんもそこまでじゃないよ、パフェ代くらい出しますよね?」
「え、なになに。名前ちゃん俺のパフェ欲しいの?ぜっってーー無理、やらねぇからな」

上からお妙ちゃん、神楽ちゃん、新八くん――そして、憎いあんちきしょーの坂田銀時がわたしに言う。
パフェというか睨みつけていたのはこの根性すらもひん曲がってそうなくらいの天然パーマをもつ男なのであったが、三人の目に映ったのはどうやら違ったらしい。まるでわたしがパフェを食べたかったのに食べられなかったと言われてるみたいだ。いや、食べたかったら普通に自分で頼むわ!

何よりもわたしが気にくわないのが、この男がお妙ちゃんの隣に座るということである。
この男を挟んで、またその隣には新八くんが座っているとは言え、めちゃくちゃ気にくわない。もう、それはもう、べらぼうに気にくわないのだ。
なんなら可愛らしいと言ってもいいくらいの志村姉弟に挟まれているのが気に食わない。
だからと言って、お妙ちゃんの隣はわたしの特等席だぞ!なんて言えるはずもなく。ていうかそんなことお妙ちゃんの前で言えるか。絶対無理。恥ずかしいとかそんなことより気まずくなるのが嫌。

渋々お妙ちゃんの対面に座り、可愛いと言っても過言ではないくらいの神楽ちゃんをお隣にお迎えしたのだが、正直言ってこの並びに納得なんていってるはずもない。
ここでわたしが素直に言える立場であるなら、わたしも悶々とせず九兵衛ちゃんと同じようにお妙ちゃんのお隣をさりげなーく陣取ることが出来るだろう。
しかしながら、わたしは多分それをしていいほどカースト上位に組み込んでない気がするのだ。お妙ちゃんにとって“九兵衛ちゃんの次の大親友”を自称してはいるものの、そこまで図々しい人間ではない。

「そう?パフェ、食べたいなら銀さんから奪い取ってもいいのよ?」
「え、なんで奪い取る前提なの。おかしくない?これ俺が食べてんだけど?」
「もう、神楽ちゃんの言う通り 銀さん一口ぐらいあげたらどうですか?」
「一口と言わず全部名前と私に寄越せヨ、このダメもじゃが」
「おォーい、なんで俺がコイツにあげる感じになってんの??これ俺が食べてるよね。これ銀さんが頼んだパフェだよね」

いや何でそうパフェに拘るの?別にパフェが欲しいんじゃなくて、わたしはお妙ちゃんの隣がほしいの。
もっと言えばお妙ちゃんをわたしのにしたいの。わたしだけのお妙ちゃんになってほしいの!!

「い、いいですよ。パフェは別に欲しくないです」
「ほらー!銀さんがそういうこと言うから名前さん遠慮しちゃったじゃないですか!」
「そうですよ、ちょっと一口名前ちゃんにあげるだけなんだから」
「いや、やだよ。つーか別に欲しくないって言ってんなら無理にやらなくてもいいって、余計なお世話だってそれは」
「銀ちゃんみっともないヨ!!パフェの一口くらい名前に寄越すこともできないアルか!?それなら私に一口くれヨ!!」
「オメーは自分が食いてーだけだろーが!!」

なんでわたしにパフェを一口寄越す寄越さないで口論になってるんだ。なんでわたしがパフェを食べたい前提で話を進めてるんだ。なんでそんなみんな熱くなってまでわたしにパフェを食わせようとしてるんだ。
ただわたしはお妙ちゃんと一緒に――二人で――居たかっただけなのに。なんでこんなしょーもない話になっているんだ。
頭を抱えて悩んでみても、勝手にヒートアップしてる四人を止めることは、ハイパー弩級の一般人であるわたしには無理で。
それどころか炎が湧き上がるんじゃないかと言うくらいの三人は、この男の返答に更に憤って喚き散らす始末。

他の客が何人か此方をチラチラみているし、店員なんて迷惑そうに顔を歪めているじゃないか。もうやめてくれ、これ以上わたしの肩身を狭くしないでくれ。

「ん」

途端、頭を悩ますわたしの前に差し出されたパフェ用のロングスプーン。 そのスプーンには生クリームとプリンがいちごソースを絡めて乗せられている。
「え」と短く声を出すわたしに「欲しいんじゃねぇの?」なんて眉間に皺を寄せて御機嫌斜めに聞いてくるこの男にわけがわからず、不躾にも顔をガン見してしまった。

「コイツらうっせェから。もう、早く食べて、頼むから」
「は、?いや、だから別に」

言い返そうと開いた口に無理矢理スプーンを突っ込まれ、最後まで言葉は出なかった。
この男、何を考えているのか。ていうかこれアンタが口つけたスプーンでしょ。
色々と言いたいことは山ほどあったが、口の中で溶ける生クリームの胸焼けを起こすような甘さに辟易して何も言う気が起きなくなってしまう。

お妙ちゃんは相変わらずニコニコ顔だし(なんならちょっと笑みを深めてるし)、神楽ちゃんは「私にもくれヨー」なんて食い意地張ってるし。新八くんだけは、気付いてくれているのでは?なんて思って彼を見れば、こんな状況彼にとっては割と日常茶飯事なのか平気な顔をしているもんで、わたしだけが可笑しいのか?なんて。
変に意識してるわたしが可笑しいというのであればもうそれでいいというか、この男に何も言う気はないのだけれど、出来ればこんな甘酸っぱいはずのイベントはお妙ちゃんとしてみたかったというのが本音である。

「あ」

唐突に声をあげた坂田銀時にわたしの目線が再度そちらに向く。三人も「え?」と短い言葉を漏らしながら彼奴の顔を見れば、やる気のない瞳がスプーンを見て呟いた。

「間接チューじゃん。お前よかったの?」

目を丸くして男を見れば、なんでもない顔でわたしを見る。
気にしないようにしてたのに、この男蒸し返すというのか。デリカシー無さすぎ。無神経すぎ!
お妙ちゃんならこんなことないのに!お妙ちゃんなら優しく笑ってくれるのに!

三人同様ガッチガチに硬くなるわたしに「まぁ俺は別にいいけどね」なんて言葉を漏らしては、パフェに食らいついた。わたしがこの口に含んだ、スプーンを使って。

次第に熱くなっていく顔に自分が真っ赤になっていることがわかる。ジワジワと視界が滲んで、歪んでいく。ドキドキと高鳴る心臓が嫌で、今すぐにでも心臓発作で死んでしまいたい。ていうか殺せ、殺してくれ。

「まぁまぁ」なんて嬉しそうに漏らすお妙ちゃんに言い返す気も起きずただただ俯いてテーブルにある空になった皿を眺めているだけだった。


title:キリン

20180722


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