どっちが夢中なんだか


――嗚呼、殺したくて仕方ない。
胸中を占める物騒な考えは、俺にとっては当たり前で。だけれど、きっと彼女にとっては当たり前のことなんかじゃないんだろう。

殺してしまえば、この子は俺から離れてしまう。俺のそばから居なくなってしまう。
それは、なんとなく嫌だ。なんていうか、腹が立つ。
この子がいなくなれば、俺はおかしくなるのかな。いいや、そんなことはないと思うんだけれど。……でも、それだけは勘弁だな。

俺の隣で眠る幼子のように眠る彼女は、誰に襲われてもおかしくないくらい無防備で。且つ、健やかな寝顔をしていた。今は、一体どんな夢を見ているんだろう。
だけど、その健やかな寝顔に相反して残る涙の跡は、一体彼女をどんな風に苦しめどんな風に苛んだのだろうか。

「……すぐ泣くね、君は」

正直言って、すぐ泣いたり拗ねたり怒ったりするような子供ってのは、嫌いだ。あぁ、あと弱い子供も嫌いだ。いやでも頭に浮かぶ顔があるから。忘れたくても忘れられない、顔があるから。

だけど、可笑しいんだ。この子供を、心底嫌うことが出来なかった。自分の心がよくわからなくて、全然面白くなくて。……わけわかんないなぁ、ほんと。

どんなにひどいことをしたのだろう。いや、ひどいことって言っても、俺からしたらあんなの全然なんだけど。でも、まあ、この子供からしたらひどいことに変わりない。だけど、この子はずっと俺についてくる。
まるで親を求める子犬。……いや、ひよこ?重なる面影に振り払うことも出来やしない。

「しかし、まぁ……」

これがどっちが夢中なんだか、よくわかんないや。


加筆修正前2009
加筆修正後20180725


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