
やっつめ
段々と色濃くなる世界に、今となっては疑問すらも浮かばない。
ここがわたしのいる場所なのだと錯覚すら覚えてしまうほどハッキリしだす世界が、夢の中だとは到底思えなかった。
ただ、いつもと違うのは、その夢の中はわたしの部屋であるということ。
だからこそ夢だとは思えなかった。ここはわたしの部屋で、わたしのいる場所なのだ。
「よォ、」
「へっ?」
わたしの部屋にいる、わたしじゃない誰かの存在。
夢の中で出会う彼が、今わたしの目の前にいる。
「なんで」
「なんでって、何が」
「だって、ここはわたしの部屋だよ」
「そうだな、お前の部屋だよ」
呆気羅漢と宣うその人に首を傾げる。いつも見知らぬ場所で出会うのに、どうしてわたしの部屋で会うのだろう。
「そろそろ行こうぜ」
「どこに」
「名前の好きな場所」
わたしの手を優しく、だがしっかりと握るその掌は温かい。
呆けたわたしを無理矢理ながらも立ち上がらせて、彼は歩く。
彼の歩幅は大きい。何かを急いている様子すら感じた。
「ま、待って」
「待たない」
様子がおかしい。この人はそんなに物事を急く人だったろうか。
こんなに、有無を言わさない雰囲気を出す人だったろうか。
玄関まで連れられて、ようやく自制の念がわたしに湧いてくる。
パタリと歩を止めた彼は、わたしの家の玄関のノブに手をかけていた。
「何。どうした」
「ま…って、待って。貴方は誰?」
「誰って」
「わたし、貴方のこと何も知らない。貴方と話したことは覚えてるけど、名前も、どこの誰かなのかも知らない」
「後でわかるって何度も言ってんだろ」
わたしの知ってる人じゃない。この人はあの人じゃない。
「貴方、どうしてわたしを連れて行こうとするの」
「……ハァ……」
恐怖で足が竦む。怖くてもう顔すら見れなかった。
「今日はここまでか」
諦めや呆れすら含めた声音でわたしの手を離した。弾かれたように顔を上げれば、もうそこに彼は居ない。銀色の髪をした男の人は、どこにもいない。
ただ、わたしの目に映るのは天井の木目だけだった。
嫌な汗が額を伝う。自分の掌を上にあげて、ぎゅっと握り拳を作ってみてもただ握るのは彼の手でもなければ、なんでもない宙を握るだけ。
妙な気持ち悪さを感じながら、水でも飲もうとベッドから出た。
違和感は何もなかったはずだった。その時までは何もおかしくないと思っていた。
なのに、わたしの体はその場で大きな音を立てて横転する。
言葉も出なかったし、何よりわけがわからない。
足に、力が入らないのだ。
「え、」
掠れ気味の声。脳みそが余計に混乱する。
パニックってこんな風になるんだ。と、どこか冷静な自分もいた。
息ができない。呼吸が乱れる。
どうしよう、どうしよう、どうしたらいいんだろう。
震える身体。段々と気分まで悪くなってきた。心臓の音がドクドクドクドクと嫌にうるさかった。
20201218