哀悼





(本誌ネタバレあり)



牛山さんの完成された筋肉が好きだった。逞しすぎて、抱きしめた時、背中に腕が回らないのがとても好きだった。わたしですらも優に姫抱っこ出来るその腕も力も。
それに加えて紳士的な性格も、それに反して夜は激しく猛獣のようになるその姿も全てが愛おしかった。
わたし以外の女性にすらも優しく気の回るその性格は偶に瑕だったけれど、彼の固体距離の許容範囲内に入ることを許された女は、後にも先にもわたしだけだと思いたい。
気分屋なわたしに振り回されてくれるその姿に、何度優越感を抱いたことか。

彼の金塊争奪戦は、悲惨を極めたらしく、牛山さんの姿が見えることは一度としてなかった。全てを終わらせた頃に戻ってきたのは、以前よりも些か逞しい顔つきになった、未だ幼さの残る女の子とその相棒。わたしにことの顛末を聞かせた彼女達は、泣きそうな顔をしてわたしに言って聞かせた。

不思議とその時、涙は出なかった。彼の人が誰かを護るために命を賭けたというのであれば、それが正解だと思ったからだ。「話してくれてありがとう」震えもしない自分の声に、冷徹ささえも感じてしまう。

帰っていく2人の小さな背中に手を振って見送った。1人になった家に入ると、彼が殊更好いていた縁側に真っ直ぐと歩を進める。夕日の差し込む縁側には、わたしが思い描く男は居ない。

——一般市民過ぎるわたしは、終ぞ彼の死に目に遭うことはなかった。

この縁側に座って野良猫と戯れる姿のその愛らしさたるや。それを知るのは、後にも先にもわたしだけ。
その場に寝転んで牛山辰馬という男の温もりに思いを馳せる。わたしの頭を撫でる大きな掌を回顧した。
徐々に薄暗くなっていく空、彼の人の背中を思い返す。

縁側を濡らす雫を、優しく拭ってくれる人はもういない。
追憶に在る、今や何処にも居ない彼の人の影。独りで身体を震わせて、外気温の下がっていく縁側で、尊い彼の命を思い偲んだ。今後、明けることのない夜は一生わたしに付き纏う。


2022/02/24



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