ワガママ猫にご注意





(猫の日に肖った話です。現パロ注意)

付き合った当初から、猫みたいな人だなとは思っていた。しかも、プライドの高い猫。自由奔放で気分屋。気に入らないと思ったら頑として譲らず、こっちに目も向けやしない。
何度も何度もその性格に振り回された。何なら、手を引っかかれて泣かされたこともある。
飼い猫になるまで時間のかかったこの男は今現在もその性格を隠しもせず、わたしの家を探索していた。

「……何してんの」

気になったらとことん。家に入ってきた最初こそは、借りてきた猫みたいにソファーの上から微動だにもしなかったくせに。わたしがメイクを落としている間に、リビングからすぐのわたしの寝室に上がりこんで様子を伺っている。別に見られて困るようなこともないから何も問題はないけど、暗い部屋の中でぬぼーっと何も言わず立っているのは不気味に思って当然だろう。

「これで何人目だ」
「は?何いきなり」
「お前の家に上がった男」
「二人かそこらへん」
「……このベッド使ったのも?」
「あー……うん、まぁ」
「そうか」

何を考えているのかわからない後ろ姿。ベッドに手を当てて何を考えているのやら。たまに不思議なことをする。

「気に食わん。ベッド変えろ」
「ナニソレナニソレナニソレ。いきなり?」
「ベッドだけじゃねぇ。何なら引っ越せ」
「ちょっと、何勝手なこと言ってんの」

ワガママなのはわかってたけど、ここまでとは。しかも結構時間も金もかかること言ってきてる。

「別に前の男と同棲してたわけでもないわよ」
「……前の男が残していったものとかないか」
「あったらどうすんの」
「捨てる。全部。なんなら燃やしてもいい」

突如として顔を出す独占欲に乾いた笑いが出た。燃やすって、何。強烈すぎて笑いしか出ない。やきもちというには十分過激だ。そんな生易しく可愛らしいものじゃない。嫉妬だ。これは、間違いなく。

「引っ越せったってそんな簡単なものじゃない」
「俺の家来い」
「そんなすぐに出来るものじゃないでしょ」

確かに、猫からしてみれば自分の家は安心感が強いだろう。そこに好いた番も居れば尚の事だ。好かれてる自覚はある。ていうか好いてないとこんなコト言ってこないだろう。
呆れたように声を上げるわたしの方に百之助が向き直る。今度はなんだと身構えれば「俺の家行くぞ」とこれまたいきなり言われて「はぁ!?」とまたしても声を上げた。メイク落とした後に何言ってんのこの男!
言うや否や、行動は早かった。わたしの手をがっしりとその逞しい手で掴む。「待って意味がわからない!」と叫ぶわたしに構うこともせず百之助はわたしを家から連れ出していく。どすっぴんで仕事終わりでよれによれきったわたしはされるがまま。
どうやらこの猫にわたしの家は合わなかったらしい。とんだワガママ猫を手懐けてしまった……とこの時ばかりは流石に自分を呪った。
近々、引っ越すことにもなるだろう。わたしは、有給何日残ってたかな……と呆れた頭で遠い目をしていた。


2022/02/22



top