「あ、」

家にストックしてあったものが徐々に無くなっていたことに今更気づく。朝ごはんのシリアルや牛乳、わたしが疲れて帰ってきた時用のカップ麺やカップスープ類、飲み物なんかも欲しい。ついでに言うと、ちょっと小腹も空いてるからお菓子も欲しいな。甘いものが食べたい。ちょっとした贅沢だ。
ストックしていたものを忘れないように携帯のアプリとして入れてたToDoリストに入力していく。
正直、コンビニじゃなくてスーパーで買った方が安くて種類もあるのだが、コレに関してはわたしの好みでコンビニのものを選んで買っていた。

それじゃあ、ちょっと買い出しにでも行こうか。上着を手に取り、エコバッグに財布を入れて、ソファーに座ってテレビを見ている百之助に声をかける。

「コンビニ行くけど、百ちゃん、なにかいるものある?」
「あ?……あぁ、タバコ。……いや、ちょっと待て。俺も行く」

珍しいこともある。このワガママ小僧は、普段なら寒いからと言って着いてくることもないのに、今日は一緒に来てくれるみたいだ。これなら普通にスーパーに買い出しに行ってもいいかもしれない。打算的なことを思い浮かべるも、すぐに怠惰な自分が顔を現すのもわかった。
まぁ、いいか。結局、コンビニに行くことにしよう。ついでに百之助の飲み物も買ってあげよう。お菓子、いるかな。

近所に行くためだけの上着を羽織ったわたしと百之助は、それぞれ靴を履いて外に出た。う、やっぱり寒い。この季節は、家の中の温さと外気温の差で困りものだ。
鍵を閉めて「行こっか」と百之助に声をかける。「ん」短い返答。
家からすぐの距離にあるコンビニでも、わたしは百之助と手を繋ぐのが好きだった。百之助もそれがわかっているからか、どちらからともなく手を繋ぐ。勿論、指を絡めて。所謂、恋人繋ぎ。
ぶらぶらとわたしが腕を動かすと「子供かよ」と憎まれ口が聞こえる。「いいでしょ」笑って答えた。
デートじゃなくても、この短距離を二人で歩くのが好きだ。デートだともっと嬉しいけど。

コンビニに着くと、自動ドアがわたしたち二人を出迎えてくれる。あーあ、終わっちゃった。名残惜しい気持ちを仕舞い込んで繋いでいた手を離し、オレンジ色のカゴを手にとった。目的のものを携帯片手に入れていく。牛乳二本……と、シリアルが二袋。あと、適当なカップ麺やスープ。どうせ気に入ったものしか買わないスルメタイプなのだから、ここら辺は脳死でカゴに入れていった。
コンビニに入った否や、わたしから離れて行った百之助の様子を見に行くために店内を適当にブラつく。飲み物かお酒でも取りに行ってんのかな、と思って飲み物コーナーを見てもいなかった。ふむ、一体何を見てんだか。
適当にほうじ茶と、たった今呑みたくなったお酒を吟味していると、百之助が歩いてきた。「名前」とわたしの名前を呼ぶ声に振り向く。

「酒か」
「呑みたくなったから」
「ビール」
「サッポロ?」
「いや、今日は麒麟」
「じゃあわたしもそれにしよ」

適当に旬のビールを二缶カゴに入れる。

「他なんか飲み物いらない?」
「茶」
「ほうじ茶でいい?」
「名前と同じのでいい」
「そっか」

カゴに入れてたほうじ茶と同じのを一本追加。ちょっと、重たくなってきたカゴの中身を見る。こんなもんかな、と考えていると間違いなくわたしは入れていない黒い箱が二箱見えて、眉根を寄せた。0.01の白い字が大きくで書かれたソレは、考えなくてもわかる。コンドームだ。ジトッとした目を百之助に向けると、彼は嫌な笑顔を貼り付けていた。この顔、正直怖い。

「……百之助ェ?」
「無くなりそうだったから」
「だからって何も今買う?」
「今だから買う」
「……しかも二箱」
「いるだろ」
「一箱でいいでしょ」
「足りんだろ」
「あーもうわかった」

これじゃ埒が明かない。諦めるのはいつもわたしの方。まぁ、確かになくてはならないものではある。ただ、タイミングが悪いだけだ。本来ならこういうのって男一人で買うものじゃないのお?なんでよりによってわたしと一緒に来た時に買うのか、この人は。……いいや、聞くだけ無駄だ。多分、わたしが予想してる通りのことだろう。
その手に乗ってやるもんか、と表情にも態度にも動揺を悟られないよう百之助に目を向けないでスイーツコーナに歩を進めた。
今日はどれにしようかな。スイーツを吟味していると、百之助がまた何かをカゴに入れるのが見えた。今度はなんだと目を向けると、酒のツマミ。

「お菓子いらない?」
「いらん」
「そう言ってわたしの食べるくせに」
「一口でいいんだよ」

その一口が大きいくせに。心の中で悪態をつきながら、普段ならシュークリームを選んでいたところ、今日のお菓子はエクレアに決める。コンビニスイーツってなんでこんな誘惑が大きいんだろう。なんでも美味しそうに見えて悩んじゃう。

「コンビニのお菓子ってなんでこんな悩んじゃうんだろう」
「知るか」
「美味しくない?」
「……肥えるぞ」
「あ!そういうこと言っちゃうんだ!」

サイテー!と百之助の肩を叩けば、憎たらしい笑い声を上げる。コンビニで何を騒いでるんだ、わたしは。いかんいかん、この男のペースに乗せられている。

「レジ行くけど、もういるものない?」
「いるもんは入れた」

またじとりとした目つきで百之助を見やり「いるもの?」と聞く。飄々と「いるもの」と答える彼に溜息を吐いた。なんだか結局この男のペースに乗せられてるぞ。
レジまで行くとタイミング良く、前の人が精算を終わらせた後だった。「タバコは?」と背後に立ってる百之助に聞くと、普段吸っているタバコの番号と個数を言う。二箱。普段そんなに吸わないこちらからすれば、十分ヘビースモーカーだ。もうこの際カートンで買えば楽でいいのに。
レジの店員さんは女性で、わざわざコンドームを紙袋に入れてくれるあたり、よく気の利く人だなと思った。ただ、コンドームの箱をレジに通す時、チラッとわたしと百之助を見たのをわたしは見逃してないぞ。少しばかり気まずく感じたし、次から行くのちょっと遠慮しそうだな……。
二人で現金を出し合って――というかほぼ百之助が出してくれたんだけど――、精算を終わらす。荷物を受け取ろうとしたら百之助がもう手を出していた。

「重くない?」
「別に」

二人でコンビニを出て、また手を繋いだ。今度はわたしから手を絡める。

「あの店員さん優しいね」
「あぁ?」
「わざわざ紙袋に入れてくれたよ」
「……あぁ、な」
「でも見てたよね」
「見てたな」
「次から行きにくくなる」
「わざわざ顔なんざ覚えちゃいねぇよ。気にすんな」

行き道と同じように帰り道も腕をぶらぶらさせて二人で他愛もない話をしながら帰る。「寒いね」「そうだな」なんて言いながら。短い時間だけど、この瞬間がやっぱり好きだ。
百之助は、なんだかんだ言っても優しい。体格差のあるわたしの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれてる。寒いから早く帰りたいだろうに。
意地が悪いから、さっきみたいな困ったこともするけど。

「わたし、百ちゃんとこうして歩くの好き」
「なんだいきなり」
「何となく。……あー寒!早く帰ってご飯食べてビール呑も!」
「……ちょっと照れてんだろ」
「聞こえなーい」

わたしが笑って答えたら、百之助は鼻で笑った。わたししか知らない柔和な雰囲気の百之助。それが、どれだけ特別なものなのかを彼は知らない。今後も、誰にも教える気はない。
わたしだけが知っていればいいことだもの。



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