「タバコ切れてる」

さっきまでゲームをしていた百之助が舌打ちをして言う。わたしにはよくわからないFPSゲーム。銃をバンバン撃って相手の軍人を倒す。他にも数多あるFPSの中で彼は殊更そのゲームを好いていた気がする。一度他のゲームはしないのかと聞いたこともあるが、「俺には合わん」というだけだった。ゲームの違いもよくわからない此方からすれば、FPSなら何でも同じじゃないのかと思うのだけれど、彼にとっては違うらしい。画面にはちゃっかり勝利の文字。迎撃数だかキル数だかなんだかわからないけど、数字も出てる。慣れた手付きでコントローラーを弄ってリザルト画面から選択画面に切り替わった。感慨というものはないのかこの男。
ぼうっとソファーの上でクッションと戯れていたわたしはそれを眺めながら「あっそ」と言葉を吐いた。

「名前のタバコくれ」
「メンソールだけど」
「……ッチ、それでいい」

もらいタバコするくせになんでそんな偉そうに舌打ちするんだこの男。そう思いながらも「勝手に取れば」と返すと無遠慮にわたしのタバコに手が伸びる。同じ銘柄とは言えど、わたしはメンソールだから、この人には合わない。普通のタバコが欲しいならコンビニへ行ってらっしゃい。

「後でコンビニ行くぞ」
「えぇ?わたしも?一人でいってらっしゃ〜い」
「好きなもん買ってやる」
「行きます」

ちゃっかりとしているのはわたしの方だったか。寒空の下、この寂しがりに着いていくのも悪くはないだろう。好きなものを買ってくれるなら尚更だ。シュークリームとほうじ茶買ってもらお。ついでにお酒でも買ってやろうかな。図々しいことを考えるわたし。お財布と上着準備しなきゃ。
先の白いタバコにライターで火を点けようとする姿を見ていると、わたしも吸いたくなってきた。風もないのに片手で風よけをして、ライターで火を点けようとするその姿はとてもよく似合っている。普段見慣れている分、こうしてしっかり見てみると中々どうしてかっこいいものだ。うん、百之助はかっこいい。

「オイ、火点かねぇぞ」
「やだ、嘘?じゃあもうそれ棄てちゃって」
「新しいライター何処だ」
「そこの引き出し」
「どこ」
「だから、そこ」

わたしが指差すところがよくわかっていないのか、百之助は眉間に皺を寄せる。はぁ。これみよがしに大きな溜息を吐いて、仕方なくソファーから立ち上がって、言った通りの引き出しを開けて新しいライターを取ってあげる。

「はい」
「……点けろ」
「どこまでワガママなのこの子は……」

やれやれ、と呆れる。つい癖で風もないのに片手で風よけをして、ライターの着火部を押すと一回で火は点いた。じりじりとタバコの先が燃えていく。タバコに火が点いたのを確認すると、その手を止めて、わたしも自分のタバコに手を伸ばす。本数の少なくなったタバコ。わたしも買わなきゃならないから、結局この後コンビニに着いていかなきゃならなくなった。
白いタバコを取って、フィルター部分を咥える。匂いをより強くするカプセルを口で潰して、同様に火を点けた。肺に入り込んでくる毒煙をすぐに吐き出した。

「カプセル潰さないの」
「いらん」
「あっそ」

口にタバコを挟み込み、器用に吸いながらゲーム機のコントローラーを弄る姿をじっと見る。完全に家着だし、何ならゲームしてる姿だし、もっと言えばタバコも吸ってるのに、なんでこの人はそれすらも様になるのだろうか。
じりじりとタバコの爆ぜる音が聞こえる。片手の人差し指と中指でタバコを挟んで紫煙を吐き出せば、コントローラーをテーブルに置く音が聞こえた。

「ゲームやめんの?」
「休憩」

正直、このゲーム機も買ってきた時はすぐに飽きるかと思ったけれど、意外と彼は熱中してたくさんのゲームを遊んでいる。何ならわたしのことも放ったらかしの時だってあるくらいだ。ゲームをしている姿や手、ゲーム画面を見るのは文句言わず好きなタイプのわたしだから良かったものの、他の女性ならこうはいかないだろうに。百之助はわたしのありがたさを身を以て知るといい。

お互いのタバコが小さく爆ぜる音がする。灰皿に灰を指で落とす姿を眺めた。男性特有の節くれだった、思ったよりもしっかりとした太い指に挟まれるタバコがひどく細く見える。この男は一見して線が細いように見えるが、実際は結構逞しい。脱いだらすごいタイプ。今は長袖で隠れているその腕には、しっかりと筋肉がついていて、抱きしめられると安心するのだ。

「なんだよ」
「え?」
「そんな物欲しそうな顔して」
「え、やだ。嘘。そんな顔してない」
「ッハ、冗談だ」
「アンタね……」

戯けてみせる百之助に頬が引き攣る。最後の煙を吐き出す横顔を眺めて、わたしも灰を灰皿に落とした。火を指で押し潰して、百之助が立ち上がる。

「名前」
「ん?」
「お前、タバコやめろ」
「何、いきなり」
「似合わん」
「……アンタがやめんならやめるわよ」

じろじろ見ていたのはわたしだけじゃなかったのか。わたしも自分にタバコが合わないことぐらいわかってる。そういえば、最初に職場でタバコを吸う姿を見せた時に意外そうな声を出してたっけ。「意外だな、お前さん吸うのか」同じ課の上司。それだけの記憶しかなかったけど、そう話しかけられて驚いた記憶がある。その時も、「似合わんな」と鼻で笑われたっけ。

上着を羽織って財布を取った百之助が側に来る。律儀にわたしの上着も取ってきてくれたらしい。珍しいこともある。タバコの火を灰皿に押し潰し、立ち上がって、上着を受け取って羽織った。

「待って、財布とエコバック取る」
「いらんだろ」
「いや……わたしもタバコないし、お酒買いたいし」
「置いてけ。行くぞ」

わたしの手を掴んでさっさと歩いていく百之助の後ろ姿を眺める。自由な人だなぁ、なんて考えながら掴まれた手を握り返した。お金は後で返そう。多分、いらないって言われるけど、押し付けてやる。



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