太陽を独り占めしたかった





4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。

私は教室を飛び出して、購買へ向かう。

購買は3年棟が一番遠い距離。

早くしないと時間が掛かってしまう。

足早に向かったのに案の定人でごった返していた。

人混みを掻き分けてパンが積まれているケースの前に辿り着く。

適当にクリームパンとりんごのパックジュースを掴んだ。

代金を支払おうとしたところで焼きそばパンが目に留まった。

ついでにそれも取って、購買のおばちゃんに代金を支払う。

パン2つとジュースの入った袋を持って再び3年棟へ。

教室を通りすぎ、階段を上がる。

重い鉄の扉を開ければそこには青空が広がっていた。

季節は初夏。

だんだん暑さは厳しくなってくるが、5月の屋上への日差しはまだ心地よい。

そこに寝転ぶ一つの影。

ゆっくりそこへ近付いた。



「遅せぇぞ」



そのままの体勢で聞こえた声。



「寿が早すぎるの」



隣に腰掛ければそこには空になったお弁当箱。



「え、流石に早くない?」

「4限が体育だったからな。途中で抜けた」

「もう…」



それが全国制覇を目標としてる部活の部員がすることか。

呆れて返す言葉が出ない。

しかし、私は寿に甘いのだ。

持っていた袋から焼きそばパンを取り出した。



「はい」

「お!サンキュ」



目の前にチラつかせれば、寿は勢いよく起き上がる。

焼きそばパンが奪われたのを確認してもう1つ。

自分の分のクリームパンを取り出して封を開ける。

一口ずつそれを食べてもなくなるのにそう時間は掛からない。



「よくそれで足りるな」



焼きそばパンの最後の一口を放り込みながら寿が言った。



「女の子ですから」

「…」

「何よ!その目!」



じとっとした目に思わず、眉間をツンとつついてやる。



「乃亜は別に体型気にする必要ないだろ」



そう言うと、いきなり顔を近づけてきて。

ほっぺに軽く唇が触れる。



「なっ…!」



不意打ちだ。

しかもこの三井寿という男はこういうことをさらっとやる。

一気に喉が乾いてきて、りんごジュースを口に含んだ。



「ははは!顔真っ赤だぞ!」

「わ、笑わないで!!」



尚もケラケラ笑う。

このままやられっぱなしでは気が済まない。

こうなったら…。



「寿」

「ん?」



今度は私から。

ほっぺにしてやった。

真っ赤になるのは寿の番。

目が点になっている。

静かな空気が流れた。



「寿?…わっ!ちょっと!?」



どさり、とその場に押し倒された。

目の前いっぱいに映る空をバックにした整った顔。

それがだんだん近づいてきて。



「んっ」



唇が塞がれた。

それと同時になる予鈴。

あと5分で5時間目が始まる合図。

軽く肩を押してみたけどびくりともしない。



「んんっ…ひさ…っ」



なんとか空気を吸い込んで名前らしきものを呼べば、名残惜しそうに唇が離れていく。



「 はぁ…もう、ここ学校」

「見えねぇだろ」

「そういう問題じゃない」



依然として私の背中には屋上の床。

目の前には寿。



「5時間目行かないと…って、寿!」



ごろごろ猫のように肩に頭を寄せてくる。



「もうこのままサボっちまおうぜ」

「バカ言わないで」

「乃亜…」



甘ったるい声。

私はこの声に滅法弱い。

腕を回して、頭を撫でる。

しばらくすると体に感じる重さが少し重くなって、寝息が聞こえてきた。

あぁ、もうだめだ。

これは私もサボるパターンだ。

なんて思いながら、心地よい風に瞳を閉じる。

寿が赤木くんにこっぴどく怒られるのは2時間後の話。