春恋ドルチェ





暖かい日差しが差し込む午後。

昼休み後の5時間目はお腹もいっぱいで眠さはピークに達している。

しかも今日は数学。

黒板に書かれる文字は数字よりも英語の方が多い。

本当にこれは数学なんだろうか?

瞼はだんだん重くなってくる。

それが一番後ろの窓際から2列目の席なら尚更だ。

授業開始早々、私は睡魔と戦っていた。

ふと左隣を見る。

窓際の一番後ろ。

誰もが席替えで狙う席。

そこに朝からずっと眠っている男。

三井寿。

昨日、バスケ部は試合だったみたいで、起きる気配はまるでない。

彼が唯一動いたのは昼休みだけだった。

4時間目が終わると赤木くんと木暮くんの声が聞こえ、鞄の中から水筒とお弁当を取り出すとあくびをしながら教室を出て行った。

次に現れたのは5時間目の予鈴の後。

教室に戻ってくるなりまた机に突っ伏してしまった。

お腹もいっぱいになったのか、午前中よりよく眠っている気がする。

授業中にこんな堂々と眠れるなんて羨ましいを通り越して尊敬してしまう。



「じゃあ、P.20の大問3をノートにやってみるぞ」



耳に届いたのは数学の先生の声。

私は慌てて教科書を捲る。

指定された大問3は設問が全部で8問。

なんとか耳の端に届いていた説明と黒板に書かれた例題の解き方を参考にして1問目から解いていく。

もちろん隣は相変わらず動きはない。



「解けたか?じゃあ1問ずつ当てるからな。この列から後ろにいって折り返すか」



先生は窓際の一番前の生徒を指名した。

問題は8問。

これは自分も当たるパターンだ。

私は7問目を確認した。

そこで気付く。

隣ですやすや寝ている三井ももちろん当たる。

というか三井が眠りこけているのが前から見えないハズはない。

寧ろわざとこの列を当てた可能性の方が高い。

これは…起こした方がいいのでは…?

一番前の生徒が答えを言うと、先生はそれに解説を入れ始めた。

一番後ろの三井は6番目。

順番が来るまで少し時間がある。



「み、三井…」



小さい声で話しかける。

だけど、やっぱり起きない。



「三井ってば…当たるよ」



今度はシャーペンで腕をつつく。



「…ん」



少しだけみじろいだけど…だめだ。

もう問4の解説が終わり、5番目の生徒が答えを言っている。

ど、どうしよう。

自分のことではないのに焦ってきた。

そうだ!

そこで思い付いた。

筆箱から付箋をひっぱり出して、それに問6の答えを書く。

そしてそれを三井の机に貼り付けた。



「次、問6」



先生の声が響く。

もちろん三井は起きない。

クラスメイトの視線が窓際の一番後ろの席に注がれる。

先生は軽く息を吐く。



「こぉら!!三井!いい加減起きんか!!」

「っ!?!?」



びくっとして起き上がる三井。



「なんだ?」

「なんだじゃない!問6だ問6!答えは!?」

「あ…?」



寝ぼけている感じの三井にクラスからはクスクスと笑い声が起きる。

尚も状況を把握していない三井がこちらを向いた。

私は必死で視線を付箋に移す。



「ん?あ〜〜〜…x=2?」



付箋の答えを三井が言うと先生は驚いたようだった。



「ったく。バスケ部はどうなっとるんだ」



一言そう言うと、問題の解説を入れ始める。

私はほっとした。



「次、問7。七海」

「あ!はい!」



すっかり自分の番を忘れてしまっていて慌てて答える。

答えは合っていて、今度こそ脱力した。

その時、隣から伸びる腕。

見れば机にさっき私が答えを書いた付箋が貼り付けてある。



『助かった』



答えの下にプラスされた文字。

びっくりして隣を見る。

申し訳なさそうに笑う三井とこの時間二度目の目が合った。

思わずブンブン首を振る。

すると三井は今度はへらっと笑う。

そして再び夢の中へ。

本当、今日は眠いんだな。

いつの間にか自分の眠気なんて吹っ飛んでしまった。

私はすやすや眠る三井を見てくすりと笑った。