※美津が高校卒業するとても短いお話。
 ※七瀬と付き合っている。
 ※三人称視点


 「卒業おめでとう、美津。」

 テーブルの上に置かれた卒業証書と卒業アルバム。時刻は午後2時の昼下がりに差し掛かり、かれこれもう1時間ほど美津と七瀬はソファーで抱きしめあっていた。元々は肩を並べて座っていたが、美津がそのまま七瀬を押し倒して、七瀬も拒むことなくそれを受け入れたため、こうして抱き合ったまま七瀬は美津に話しかける。

 卒業式当日の今日、美津は式を終えてから友人たちと写真を撮り、寄せ書きも書きあってから七瀬のマンションへと向かった。二人で一緒に座りながら七瀬は美津に「卒業式どうだった?泣いちゃった?」といろいろ聞いてみた。美津はそれに「泣きそうになった。」と真っ赤目をしながら嘘をつき、七瀬が彼の身体を抱き寄せた途端、美津はそのまま彼を押し倒して今に至る。
 もう一時間も経ってしまったということは寝てしまったのかな。そう七瀬が自分の腹に頭を埋めている彼の名前を呼びかけようとしたとき、美津は口を開いた。

 「…卒業生代表に選ばれました。」
 「いい役を貰ったね。」
 「卒業式は、泣かなかったけど…最後みんなで寄せ書きを書き終えた時、友達たちと一緒に最後に写真を撮り合っていたんです。何人かは同じ大学に進むけど、ほとんどがもうそれぞれ違う場所に行くんだって初めて実感して泣きました。」

 そう語る美津の声がすでに震えている。
 七瀬は何も答えず、今は美津の言葉だけを聞こうと彼の頭に手を乗せた。

 「…みんないい友人なんです。何とか泣いてることをバレないようにしたんですけど、やっぱり気付かれてしまって。…本当は自分がゲイだっていうことも打ち明けようと思いました。カミングアウトして嫌われたとしても、隠し事をしている今よりもずっといいと思ったんです。」

 でも、とそこで美津の言葉が途切れた。小さく嗚咽を繰り返しながら泣きだした彼を七瀬は体を起こし、彼の身体をギュッと抱きしめながらその背中を何度も撫でた。きっと美津のことだから、打ち明けて嫌われるのも嫌だと思ってしまったんだろう。結局嘘をついたままになってしまったことに嫌気が差して泣きだしたんだろう。

 「大丈夫、泣かないで。今日は打ち明けられなかっただけで、これからもまたきっと打ち明ける機会は来るよ。今日は卒業式だったし、美津は卒業生代表に選ばれて、一日だけで多くのことが起きたんだからカミングアウト出来なかったことを責める人間なんていないよ。」

 むしろ打ち明けようと少しでも思えたことは凄いことなんだから。
 七瀬の優しい励ましの言葉に美津もコクコクと頷き、それから小さな声で「七瀬さん、好きです。」と呟き、それを聞いた七瀬は少し頬を染めながらこうして頼ってくる彼が可愛くて堪らない気持ちにさせられた。

優しい人だから

back
毒入り苺。