※七瀬×美津
※七瀬はホスト時代、美津は高3時代。
ソファーでうとうとしていると玄関から聞こえた物音で目を覚ました。
咄嗟に見た時計は午前2時半ということは仕事から帰ってきたんだろうか、きっと客とアフターに行ったんだろう。リビングを出て玄関に向かうと珍しく酔っ払っているのか七瀬さんは玄関の鍵をかけてから靴を脱いで壁に背中を預けている。ズルズルと落ちていく彼に慌てて駆け寄ってその体を支えれば七瀬さんは「…美津?」と俺の名前を呼んだ。
「おかえりなさい。大丈夫ですか…?」
「…うん。ちょっと…飲みすぎた。」
いや、どう見てもちょっとじゃ済まない量を飲んだんだろ、と思いながらも彼の体を支えて寝室へと向かう。なんとか彼を寝室のベッドに寝かせ、「水を持ってきます。」と言ってからキッチンへと走った。キッチンでコップに水を入れ、それからついでに栄養ドリンクも一本手にしてからまた寝室へともどる。
もう寝てるかも知れないと思ったが、七瀬さんはベッドに座りながらぼんやりとどこかを見ているようだ。もうすぐ彼が寝るんだと思えば寝室の電気をつける気が引けて、彼に近づいてスタンドを付けてから水をそっと手渡した。
「一応栄養ドリンクも持ってきました。飲めるなら飲んだほうがいいです。」
ありがとう、と言って彼は水を口に運び、一口飲んだところでコップをスタンドの近くに置いた。どうしたんだろうと思えば急に俺の腰に腕を回して抱きつき、「え、七瀬さん。」と名前を呼んだが返事しない。自分にすがりついているようにも思えて引き剥がそうとしていた手を止めてから彼の頭をそっと撫でてみた。
「…今日、エースが来たからさ。いっぱい飲まされた。」
エースって一番お金を使ってくれる客のことか。あまり業界用語は詳しくなかったが、彼の仕事についてもっと知りたくていろいろと調べてたら多少は意味が分かるようになってきた。七瀬さんはあまり俺に仕事の話をしないが、酔うと多少は弱音や愚痴として出てしまうようで俺は相槌を打ちながら彼の頭を撫で続ける。
「隣の客のことかなり気にしてて、対抗心からか分からないけどシャンパンタワーとか入れられた。3回。」
「3回!?…すごい方なんですね。」
思わず声を上げて驚いたが、シャンパンタワーって一番安くても50万はいくとどこかのサイトで見た覚えがある。それに七瀬さんの勤務している有名ホストクラブなら最低でも桁がもう一つ増えるだろう。それもどうやら段数もそれなりにある、かなり豪華なのをエースの方は入れたとのことだ。
普通の居酒屋のバイトをしている俺からすれば何年働いてようやく届くものなんだろうと少し気が遠くなった。
元からそれなりの量を飲んでた上にタワーも3回入れられたとなるといくら七瀬さんでも潰れるだろう。ちなみにそのエースの方とアフターでご飯食べに行った後は売上額に気を良くした社長の車でマンションまで送ってもらったらしい。
俺にはとても想像できない夜の世界だ。何よりあの七瀬さんが酔っ払って弱音を吐くぐらいなんだからきっと酒がほとんど飲めない俺には最も向いていない仕事だろう。
「今日はもう休んでくださいね。」
よしよしと彼をベッドに寝かせようとしたものの、七瀬さんは俺を離すつもりがないのかそのまま一緒に引っ張られて共にベッドへと寝転がってしまった。「わ、七瀬さん…ッ、」押し倒される形でベッドに寝転び、腰にいた七瀬さんは上に移動してきてはキスをしてくる。別に七瀬さんとキスをしたりセックスをするのはこれが初めてじゃないが、今の彼はメイクをしていたり髪の毛をセットしていたりスーツを着ていたりと普段の七瀬さんと雰囲気が程遠い。
ホストとしての七瀬さんもまたカッコいいと思っていたが、こうも迫られるとまるで別人のように思える。
唇を離して七瀬さんの顔をジッと見つめてみた。やはりまだ酔っ払っているようで目が少しトロンとしている。色っぽい。しかし見つめすぎてしまったのか彼は少し笑って「あんまり見つめられると恥ずかしいね。」と言って俺の手を掴むと自分の頬に当てさせた。
なんですか、その行動。あざといと思ってしまうぐらいに可愛い。
「…美津、顔が赤いよ。美津も酔ったの?」
「…酔ってません。七瀬さんが可愛いからです。」
「可愛い…?そんなつもりは無かったんだけど、美津が可愛いっていうから悪い気はしないなぁ。」
ふふ、と笑う彼。本当にさっきのキスで俺も酔ったんじゃないかと思ってしまうぐらいに彼の言動で顔が熱くなる。七瀬さんは本当にどうしてこうも自分のツボというツボをおしてくるんだろうか。
「美津、さっき寝てたでしょ。起こしちゃってごめんね。」
「いいですよ。俺もバイト終わってから寝たので結構寝てましたし。」
「…嫌だな。」
突然彼がそう呟いた。嫌?と頭を傾げながら彼に聞くと、七瀬さんは目線を逸らしながら小さくため息をつく。
「美津が高校卒業したらもっと遅くまで働かされるんでしょ。俺が帰ってきても美津がいないなんて寂しい。」
いやいや、俺のほうが確実に早いですよ。とは口に出して言えないが、事実アフターが入れば彼が帰ってくるのは余裕で午前2時か3時は行く。今日はむしろまだ早い方だ。しかし彼は少し嫌そうな顔を浮かべていて、俺はとにかく彼を落ち着かせようとそっと七瀬さんの首に腕を回して抱きしめた。「早めに帰りますから。」といえば満足したかのように七瀬さんは小さな返事を返して俺の首元に頭を埋めた。
「…美津、セックスしよう。」
耳元でそう囁かれ、ゾクゾクさせられた。いつもより掠れて低めの声に興奮してしまった。
顔を上げた七瀬さんのネクタイを手で解き、シュルシュルと解いたそれを隣に置いてからシャツのボタンも一つ一つ外していく。俺が七瀬さんの服を脱がす日が来るなんて想像もしていなかったけど。ボタンを全て外すと七瀬さんは自分でコートとシャツをそのまま床に脱ぎ捨て、今度は俺の服に手を伸ばす。高いスーツなのにあんなに雑に扱っていいんだろうか。まぁ、既にシワもついてしまったしクリーニングに出すつもりなんだろう。
「う…、」
お互い上半身が裸になったところで七瀬さんは俺の乳首を舌で転がす。舌のザラザラとした部分が触れるたびに声が漏れて自然とビクビクと震える。七瀬さんは俺の乳首への刺激を与えながらそのまま手を腹から下へと移動させ、ギュ、とズボンの上から軽く掴んできた。痛みはないが、クニクニと形を確かめるように握られ、思わず彼の腕に手を伸ばしてしまう。その掴み方はやばい。
次第に下半身に血が集まり、身体も火照ってくると七瀬さんは俺の乳首から口を離して「勃ってきたね。」とやけに甘い声で囁いてきた。いつもなら痛くない?とか気遣う言葉をかけてくるが、今は酔っ払っているからかそういう恥ずかしいことばかり言ってくる。
ズボンをそのまま下げられ、既に勃起していたそこは早く七瀬さんに触れて欲しくてビクビクと震えていた。
暗い部屋とはいえ、スタンドの光だけでも充分に互いの顔が確認できる。チラリと七瀬さんを見てみると彼は酔っ払っているからか分からないがこちらを見つめる目がとても優しかった。
途端に恥ずかしくなって「あんま、見ないでください。」と手で自分の顔を押さえたが七瀬さんはニッコリと微笑んでは俺の陰茎にチュ、と口をつける。
「可愛い、美津。」
舌先で乳首を転がしていたのと同じように彼は尿道や裏筋を何度も舐めて刺激を与える。自分でも情けないような声を上げながら彼に手を伸ばすも、その手は彼の空いた左手によって繋がれてしまった。ギュッと手を握り締められ、俺も答えるように手に力を入れる。与えられる刺激よりもその手が嬉しくて情けないが泣きそうになっている自分がいた。
こんなにも泣いてしまうぐらいに彼のことが好きで堪らない。
「ななせ、さん、…ッ」
「まだイッちゃダメだよ。」
危うく果ててしまいそうになったところで彼の言葉に慌てて下半身に力を入れては自分で果ててしまうのを阻止する。自分の快感よりも七瀬さんの言葉を優先してしまうあたり本当に彼のことが好きで堪らないんだなぁと思い知らされた。
いい子、と言いながら頭を撫でてきた彼は俺の右側に体を倒してそのままキスを落としてくる。何回かキスされたところで七瀬さんは引き出しからローションを取り出してそのまま手のひらに乗せるなりヌルヌルとした指で俺の肛門に触れてきた。
シーツが汚れますよ、とは言ったが七瀬さんは俺の右手を掴むなり自分の股間へと当てさせる。触れたそこは既に勃起していて硬くなっている。
「余裕がないから、ごめんね。」
なにそれ、そんなこと言われたら断れないことを知っているくせに。思わず「ずるい。」と言ってやれば彼はまた微笑んでは「美津もでしょ。」と言ってきた。
クチュクチュとローションの音が部屋に響き、俺は七瀬さんの身体にしがみつきながら彼の指から与えられる快感に喘いでいた。
ほっそりとした綺麗な指。ペンを握ったりキーボードを打ったりグラスを握ったり。大好きな彼の指が俺の前立腺をグイグイと押し上げていて、俺は七瀬さんの腕を掴んだ。流石にこうも何回も刺激されれば我慢しているとはいえ直ぐに果ててしまう。
「い、きますから…ッもう、……ぃ、あ、!?」
あまりそこは、と言おうとした時に彼の指は強くそこを押し上げるものだから思わず目を見開いた。チカチカとする視界。
「そんな顔でそんなこと言われてもおねだりにしか聞こえないなぁ。」
意地悪だ。咄嗟にそう思ったものの、彼の指はまた押し上げるのを止めない。普段、七瀬さんは優しい人ではあるが稀にこういった違う一面を見せる時がある。もちろんそれは俺が本当に嫌がっているときには出ないが、稀にしか見れないその一面に不覚にもドキドキしている自分がいるのもまた事実。
「でも…ッ、もう我慢…」
「もうちょっとだけ頑張って?」
もうちょっとってどの程度なんだろう。今で既にギリギリだというのに。それから七瀬さんにまたしがみつきながら何度も果ててしまいそうになるのを必死に堪える。既に先っぽからは先走りがだらしなく流れていて、身体も我慢の限界だということを示すかのようにブルブル震えている。
あ、本当に無理かも。意識が飛びそう。
そう考えた瞬間、彼は俺の中から指を引き抜いては頬にチュッとキスをしてきた。
「はい、よく頑張りました。」
そう微笑んでる彼に俺はポロポロと涙が溢れ、「嫌いになるところでしたよ。」なんて言いながらポカポカと彼の胸元を何度も軽く殴る。嫌いになんてなれやしないのに。
七瀬さんはごめんね、いじめ過ぎたね、なんて言っているが反省していないことぐらい分かってる。結果、そんな彼のこともまた好き。
「今日は美津のベッドで寝ようか。」
そう言いながら彼もズボンと下着を脱いで裸になるとコンドームをきちんと付けてから俺の上に乗るように抱きついてきた。ここで嫌です、なんて言ってやろうかと思ったが七瀬さんは右手を下に伸ばしてそのまま自分の陰茎を掴むなり俺のそこに当ててくる。
ダメだ、セックスされる前に俺も言い返したらさっきみたいな目にまた遭うだろう。「入れるよ。」と言って俺が答えるように頷く。
ググ、と力を込められながら挿れられる陰茎。あれほど彼に慣らされたものだから痛みはないが、ほんの少しだけくるしい。横で熱い息を漏らしている七瀬さんの方も少し苦しそうだけど堪らなくいやらしく思えて思わず彼の背中に手を回した。
「…美津、笑ってる?」
「いえ、笑ってません。……ふ。」
「笑ってるでしょ。」
脇腹を軽くつねられて、思わず変な声を出してしまう。「余裕がないの。」珍しく子供みたいにそう言った彼。けど途中でおかしくなったのか同じように、ふふふ、と笑っている。
「好きだよ。」
その言葉に思わず照れて顔を逸らしていると彼はそのまま動き始めた。「ま、ッいきなり…、」「今日は美津に意地悪する日って決めたんだ。」それってどんな日だよ。ただ俺が災難なだけじゃないか。そう言おうとしたが七瀬さんの硬いそれが腸内で暴れる度に何も言い返せなくなる。
七瀬さん、と何度も彼の名前を呼びながらアンアンと喘ぐ。七瀬さんはそんな俺をジッと見つめながら再び満足そうな顔を浮かべていた。
いつもならある程度のところで体位を変えるものの、今日はずっと正常位でしている。別に正常位が好きだとか聞いたことがないが、彼がこのままでいいと思っているならそれでいいだろう。酔っているわけだし、余裕ないとも言っていたし。何か理由があるんだろうな。
ただ、あれほど我慢していたものだからこうもずっと突かれていてはこっちも限界を迎えてしまう。また我慢してと言われたらどうしよう。
「あ、ああ、な、七瀬さん、ッ、も、いきたい、」
「…うん、イッていいよ。」
その言葉に甘えるように俺は彼の身体にしがみつきながらそのまま果ててしまい、互いの腹に精液をドプドプと吐き出してしまった。途中で七瀬さんも果てたのがぼんやりとした意識の中でわかったが俺はとりあえず脳に酸素を送るので精一杯だったため声をかけれない。もう少し息を整えてから話しかけよう。そう思って軽い気持ちで瞼を閉じてしまった。
*
それから目が覚めた時には俺は自分の部屋のベッドで寝ていて、いつも着ている部屋着に着替えていた。体を起こしてぼんやりとした意識の中、寝る前に何が起きたっけ、と考えていると扉を開けて部屋に入ってきた七瀬さんと目が合う。彼は「あれ…起きた?」と言いながら笑っていた。
途端に今の今まで何が起きていたかを思い出し、あの、と声をかけようとした時に彼はギュッと抱きついてそのままベッドに押し倒された。ちなみにまだ酔ってます?と聞いたが彼は酔いが醒めたようでもう平気と答える。まるでさっきまでの出来事が夢のようだ。
「…すみません、眠ってしまいました。後片付け大変でしたよね。」
「そうでもないよ。むしろ酔っ払った俺の相手してくれた美津が大変だったでしょ。」
鬱陶しかったら次から放っておいていいよ、なんて言ってますけど、逆に俺が出来ないと知っている上で言っているんだろうか。布団に入ってきた七瀬さんは俺の頬や耳、髪を何度も愛おしそうに撫でる。恥ずかしくて「それ、照れますから。」と言ったものの彼は「逆にもっとやってって事?」と聞いてきた。
もう知りません、と言いながら彼に背を向け、布団をかぶった俺に七瀬さんはまた一切反省していない声で「ごめんね」と謝ってきた。
首の後ろに頭を埋め、腰に回される腕。彼の行動ひとつひとつが愛おしくて、ドキドキと胸がうるさいほど鳴っていることも彼には見抜かれているんだろうか。
途端に意地張っている自分が馬鹿らしくなって振り返ってから彼の身体に抱きついた。
「おやすみ、美津。」
「…おやすみなさい。」
目を閉じて眠る七瀬さんの横顔をチラリと覗き見し、それから俺も同じように瞼を閉じる。
今日、彼が帰ってくるのを待っていた理由は早くホストという仕事を辞めてほしいと伝えるためだった。バイト先にゲイと思われるお客さんが来て、二人が幸せそうに笑っている様子を見て『自分もああなりたい。』とつい思ってしまった。
互いの休みもバラバラで、彼の休みに合わせて俺が休みを取ってもその日は客の女と過ごしていたりする彼に正直うんざりしていた部分があったのだ。
けど、今日のように彼が何度も俺の名前を呼んだり、好きだよという言葉をかけてきたり、こうして抱きしめられているうちに彼への不満は気づいたとき位には無くなっている。むしろ彼のことが好きだという気持ちのほうがずっと強くなっていて、俺が我慢すればいいだけの話じゃないかとまで思うようになった。
そうだな、俺が我慢すればこの関係は崩れない。
ただその我慢がいつまでなのか、先が見えないからこそ怖くて泣きそうになるんだ。
それでも満足しちゃう自分はどうしようもないです
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