東京の夜は長くて明るくて、明滅するネオンの光に目が霞む。ビルの隙間から申し訳程度に見える星空は、人工の光に負けてほとんど見えない。もう何年も前。自分がまだ高校の制服に身を包んでいたとき。部活を終え、みんなと別れ私を送るために少しだけ遠回りをしてくれる彼と見上げた星空は綺麗だった。きっと隣に彼がいたから。あのとき、私は彼が隣にいてくれるだけで何もかもがキラキラして見えて幸せだった。私の大事な人。大切な人。特別な人。


鉄くん。


あなたは今、笑っていますか?

苦しんでいないですか?


幸せですか?




×××××




高校1年生の秋。


神崎美沙は都内の音駒高校に転校した。珍しい時期の転校だからか、ざわざわと騒ぐ生徒の声がやけに大きく聞こえる。

「今日から音駒に転校してきた神崎だ。入ってこい」と教室内にいる教師の声が聞こえた。廊下で待機していた美沙は目の前に佇む扉を無表情で見据え、ガラリと戸を開ける。

教師の隣に並ぶと途端、騒いでいた生徒の声がピタリと止み彼女を凝視した。そして一人の男子生徒が「美少女…」とポツリと呟いた。

「神崎美沙です、よろしくお願いします」

これ以上ないというほど簡潔に自己紹介をし、深々と頭を下げる。教師は淡々と「窓側の一番後ろが神崎の席だから」と言うと、彼女はそそくさと席に着く。生徒はその様子を穴が開きそうなほど見つめるが、彼女はどこ吹く風。もう視線は窓の外に追いやっていた。



まだ出逢っていない二人。
だが確かにここから、この時、この瞬間。


二人の歯車は少しずつ動きだす。