駐輪場にバイクを停めて玄関に向かうと、そこには美結と優の姿があった。
「芽衣!!!!!!」
「おはよ」
「クールな顔しておはよ、じゃないよ!!!もー!ほんとに心配したんだよ!!!」
「何ともないってば」
「無事で良かったよほんと」
「で?」
唐突に疑問符を投げてくる美結の視線の先は、私の隣にいる三ツ谷だ。
「…付き合った」
期待されているだろう言葉を吐き出すと、二人は私の手を取った。
「ほんっっっっとにおめでとう!!!」
「やっとか、って感じだけどね」
そう言いながら三ツ谷に視線を向けた優は、続けて言った。
「芽衣のこと、大事にしてよね」
三ツ谷は一瞬目を見開くと、直ぐにその目を細めて笑った。
「あたりめーじゃん」
「三ツ谷くん、芽衣のどこが好き?」
突然そんなことを訊く美結に驚いて、自分の眉間に皺が寄っていくのがわかる。
変なこと訊いてんじゃねぇよ、と口を開こうとした瞬間、三ツ谷は声を発した。
「あー?あー、」
歯切れの悪いその声に、一瞬心がへし折られそうになって、考える。
まあ確かに、私のどこが好きかなんて言われたことはなかったし、三ツ谷もそんなに深く考えていなかったのかもしれない。
ただ、仲良くなって何となく、そんな感じなのかもしれない。
私が小さく溜息を吐くと、突然三ツ谷に肩を抱き寄せられた。
「内緒。多分、オレしか知らねぇ可愛いとこ、いっぱいあっから」
その言葉に三ツ谷のほうを見ると、彼は目を細めて笑っている。
「うわー!芽衣めっちゃ愛されてんじゃん!」
美結が目を丸くして、私と三ツ谷を交互に見ている。
「ま、うちらの方が芽衣のことはよくわかってる」
優が私の手を取り自分の方へ引き寄せる。
「ま、オレは負ける気しねぇけど」
マウントを取り合う二人に思わず笑いが零れて、それにつられたように三人が笑った。


「ねえ、もうちゅーした?」
「は?」
昼休み、美結が真正面で頬杖をつきながら、目を輝かせている。
「三ツ谷くん手早そうだもんねぇ」
優も、にやけながら私の脇腹を小突いた。
「…まだだよ」
されそうになったことは何度かあったけど、実際は何もなかった。
「うっそ」
「私が初めての彼女なんだって。ほんとかどうかわかんねぇけど」
「マジ!?」
「女慣れしてそうだけど」
「族上がりだしね、女っ気なかったみたい」
「ほーん」
「はーん」
にやにや私を見つめる二人に恥ずかしくなって、俯いた。
「芽衣も初彼だもんね!!!」
「のんびり仲良くしていけばいいよ」
「…まあ、そのつもり…」
俯いたままそう答えると、二人は立ち上がり、私を抱き締めた。
「芽衣は絶対幸せになる!」
「ここからだよ、なんかあったら頼ってね」
「…ありがと」





放課後、電車で帰るため美結と優と玄関を出ると、駐輪場でバイクを押す三ツ谷に遭遇した。
「おー、オマエら今帰り?」
「うん!これから芽衣の快気祝いにパフェ食べいく」
「オマエらほんとパフェ好きだな」
美結の言葉に三ツ谷が笑うと、優が口を開く。
「あとお祝い。親友の恋が実ったから」
「ちょ、」
その言葉に恥ずかしくなって優の口を塞ごうとすると、また三ツ谷が笑った。
「オレ絶対芽衣のこと幸せにすっから、これからもよろしく頼むワ」
そう言ってから、ヒラヒラと私たちに手を振り、三ツ谷はバイクに跨り去っていく。
「…やっぱやるな、三ツ谷隆…」
優がニヤけると、美結も笑った。
もしかしたら今、私は人生で一番幸せかもしれない。


ファミレスでいつものようにパフェをオーダー。
話題はもっぱら私と三ツ谷についてだ。
「二人はさ、同中なのに中学の時は関わりなかったんでしょ?」
「んー、うん、一回話した程度」
「高校でも学科違うのに仲良くなったわけじゃん?」
「うん」
「もしかしたら三ツ谷くんは芽衣に興味あったのかもね」
「あー!ありえるね」
「それはないと思うけど」
「何でよ」
「だって完全に別世界の人間って感じだったし、三ツ谷」
小さく溜息を吐く。
そういえばそうなんだよ。
私と三ツ谷はまるで共通点がなかった。
常に一人でいる私と、いつも周りに人が集まる三ツ谷。
何も大事にできなかった私と、仲間も家族も大切にする三ツ谷。
不思議で仕方ない。
別世界の人間だと思っていたアイツと、こうして付き合うことになるなんて。
「でもさ、そんな過去があっての今じゃん」
「そそ、だからこそ惹かれ合うものがあったんだよ、きっと!」
少し考え込みそうになった私を、美結と優はすぐに引き戻してくれた。
「ん、そうだね」
私のどこが好きなの?なんて、そんな可愛いことはきっとずっと訊くことができないかもしれないけど、いつか何かのきっかけで、三ツ谷が私を好きになってくれた理由が知れたらいいな、なんて思う。
「あ、パフェきたー!!!」
「よし、思いっきり食べよ」
「張り切りすぎな」
「芽衣の快気祝いと門出にカンパーイ!!!」
「門出ってなんだよ」
思わず笑いが零れて、顔を出しそうになったモヤモヤが一瞬で吹き飛ぶ。
自分のことのように嬉しそうにしてくれる二人を大切にしたいと改めて思った。
「私も彼氏欲しいー!!!!!」
「結局夏休みも何も起きなかったしもう冬来ちゃうよ」
「アンタたちならすぐ良い人できるって」
本当にそう思う。
こんなに素敵な二人には、きっと相応しい人が現れる。
二人に彼氏が出来た時は、私もきっとすごく喜ぶんだと思う。
そのくらい、今の私にとって美結と優の存在は大きなものだった。




家に帰って布団にダイブすると、一日あっという間だったなと振り返った。
好きになった人と付き合うことになって、それを大切な友達に祝福してもらって、私には勿体ないくらいの出来事だと思う。
学校に行きたい。
大切な人達に早く会いたい。
早く明日が来ないかな、なんて柄にもなく思ってしまった。
少なからず浮かれ気分な私は、これから起こる数々の困難に、この時はまだ気付くことはなかった。


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