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・性的行為を連想させる表現が入っています。自己責任の上、お読みください。
・二十歳未満の喫煙描写があります。二十歳未満の喫煙は法律で禁じられています。決して、二十歳未満の喫煙を勧める物ではありません。あくまでも創作であることを、ご理解の上、お読みください。











会社の飲み会が終わり、気疲れでフラフラの午前様。
強くもないお酒を、注がれたら飲まなくちゃいけない文化 is shit、なんて中指立ててしまっている私。
ついでに、好きでもない上司にペコペコしながら酒を注ぐのも、大っ嫌いだ。
いくら無礼講と謳っている飲み会とはいえ、上司の前で気が引けて吸えなかった煙草を、コンビニに寄ってとりあえず吸おう。
電車を降りて最寄り駅を出ると、家の近くのコンビニに寄る。
缶コーヒーを手に取ると、雑誌を立ち読みしていた女の子に、輩が二人絡んでいることに気がついた。
「一人?俺らと遊ばない?」
「一人じゃないです」
「いやいや、どっからどう見ても一人っしょ」
彼女はとても困った様子なのに、レジの店員は眠そうに欠伸をしていた。
「こんな所で、やめませんか」
酒が入っているせいで少し強気になり、間に割って入ると、輩はチッ、と舌打ちして、店の外へ出た。
「ありがとうございます」
「いいえ、帰り気をつけてね」
小さく頭を下げた彼女に会釈を返すと、私はレジへ向かった。
その直後、トイレの方から彼女のもとへ男の子がやってきた。
「もう!遅いよ!」
「ごめんて」
二人は笑いながら、コンビニの外へ出ていった。
彼女が一人ではなかったのを見て、ホッとしながら、会計を済ませた。
煙草を吸いたい気持ちが膨れ上がり、外の灰皿へ直行。
早く吸いたくて、鞄から煙草の箱を探し出す動作にさえ、イライラする。
鞄の奥底に控えていたそいつを取り出し一本咥えると、直ぐに火をつけた。
大きく吸って、ゆっくりと煙を吐く。
ああ、疲れたなあ、なんて思いながら空を見上げ、私は至福のひとときを過ごそうとしていた。
「お姉さんは一人なの?」
背後からの声に振り返ると、先程店内にいたガラの悪い男が二人、立っていた。
「一人なんでしょ?俺らと遊ぼうよ」
ただでさえかったるい飲み会の後だっていうのに、何故こうも怠い事は重なって起きるんだろう。
「忙しいんで」
見るからに一人なのに、一人じゃないですなんて言葉は返せず、適当にあしらおうと思った。
「え?煙草吸ってんのに忙しいん?暇やん」
一人が私のパーソナルスペースに入り込んでくる。
いや、マジで勘弁しろよ、顔面に煙草押し付けんぞ?と腹の中では強気に思っていたけど、こういう面倒臭いのは、下手に出たほうが有効だと知っている。
笑顔を貼り付けながら、柔らかい口調で言葉を返す。
「これから用事があって忙しいので、」
「は?こんな時間から用事?もしかして夜のお仕事的な?」
私の返答に被せ気味に放たれた一言に、カチンときてしまったのがいけなかった。
「うるせぇな、ナンパなら他行けよ」
「あ?」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
煙草を持っていた手を力いっぱい掴まれた。
その反動で落ちた煙草から、煙が上がっている。
かったるい飲み会での疲れ、至福の時を邪魔されたことが相まって、一気に頭に血が上った。
「興味ねぇんだよ!」
そう怒鳴ると、グイッと腕を引かれた。
「いい度胸してんじゃん、遊んでやるよ」
「離してよ!」
負けじと抵抗するけど、力は到底及ばない。


「オイオイ、めっちゃ手荒だな」


私の腕を掴む男の腕を、更に誰かが掴んだ。
「痛ってぇ!」
腕を掴まれた男は、痛みからか、私の腕を離した。
「おい、こいつ元東卍のやつじゃねぇか!」
一歩後ろにいたもう一人の男が、驚いたように腰を抜かした。
その視線の先に立つ男は、長髪にピアス。
男の腕を掴んだ長髪の男が、冷静に言う。
「だったら何だよ?この子嫌がってんじゃん」
「す、すみませんでしたっ」
腕を掴まれ捻り上げられている男は、目に涙を浮かべて謝っている。
「ちなみにこのコンビニ、オレの行きつけだから二度と近寄んなよ」
前髪の隙間から覗いたおでこに、青筋が立っている。
彼が男の腕を離すと、二人は逃げるように走り去った。
一部始終を呆然と見ていた私の足元で、落ちた煙草がほとんど灰に変わっていた。
「大丈夫か?」
長髪の彼は、先程とはまるで別人のように、目を細めて、微笑んだ。
タレ目に長い睫毛が、とても印象的だった。
「助かりました、ありがとうございました」
「いいえ、おねーさんタイプだったから、ラッキー」
彼はそう言った直後、先程まで男に掴まれていた私の右腕を取った。
「赤くなっちゃってんじゃん」
優しくその腕を撫でられると、背中がザワザワした。
これも新手のナンパだろうか。
「家近く?送ってくよ」
「い、いやいやそういうわけには!」
「こんな時間に女の子一人で歩いてちゃ危ねぇじゃん」
さっきの輩がビビって逃げ出す程の男だ。
優しい声と裏腹に極悪人かもしれない、と思い、緊張が走った。
とにかく緊張を解したい一心で、鞄から再び、煙草の箱を取りだした。
「邪魔されちゃったんで、もう一服してから帰ります」
笑顔を貼り付けた私がすかさず煙草に火をつけると、彼は隣にしゃがみ込んだ。
「じゃ、待ってます」
困ったな、と思いながら、苦し紛れに煙草の箱を彼に差し出した。
「吸います?」
「いえ、未成年なんで」
そう答えた彼に、驚きと動揺を隠せず、咄嗟に煙草を鞄に戻した。
こんなに落ち着いているのに未成年とは。
慌ててしまった私が可笑しかったのか、彼は笑いながら空を見上げ、話し始めた。
「オレ、服とか作る仕事に就くのが夢で」
確かに、そんな感じはする。
髪型も勿論、服装もシャツにスラックスとシンプルだけどお洒落だ。
「生地とか道具に匂いがつくから」
そう聞いて、隣で煙を吐き出すのが申し訳なくなってくる。
「ま、人が吸ってるのは気にしないけど」
歯を見せて笑うと、本当に、先程輩に凄んだ時とは別人のように可愛らしい顔をしていた。
「そういえば、さっき怒鳴ってたの、めっちゃカッケーって思っちゃった」
「つい、」
「男前だね、おねーさん」
大人げない対応を取ってしまった所を、見られてしまったのがすごく恥ずかしくなって俯いた。
「しかも照れ屋さんなんだ」
下から覗き込まれて目が合うと、頬が熱を帯びてくる。
「でもね、あんまカッコよくても女の子なんだから、程々にしろよ?危ない目に遭うかもしれねぇし」
女の子扱いされたことが気恥ずかしくなって、私は目線を逸らし、煙草を咥えた。


最後の一吸いを終えると、足元で転がっていた吸殻も拾い上げ、一緒に灰皿に落とした。
「帰ります。付き合ってくれてありがとうございました」
深々と頭を下げる。
顔を上げると、彼は唇を尖らせている。
「だから、送ってくって言ってんの」
「いや、すぐ、そこなんで」
しどろもどろに答えると、彼は立ち上がり、真っ直ぐに私を見た。
「わかんねぇ?もう少し一緒にいたいって言ってんの」
その言葉に完全に押し負ける。
胸の奥が一瞬締め付けられる。
酒が入っているせいも、あるかもしれない。
こんなに簡単に、落ちちゃうんだ。
アパートまでたった5分の道程が、とても長く
感じた。
時々、手と手が軽くぶつかり、その度に肩に力が入った。
「ここです」
アパートの前に着くと、彼は少しホッとしたような表情で、頭を掻いた。
「もう夜一人で出歩くなよ」
じゃあね、と右手をひらひら振ってから、こちらに背を向けた。


「待って」


咄嗟に呼び止めてしまった。
次に何を言うかなんて考えてなかったけれど、考える前に、口から言葉が発せられていく。
「帰っちゃう、の?」
引き止めるようなことを言ってしまって、これからどうするつもりだろう。
彼がゆっくり振り返る。
「帰らない方がいい?」
私の問いに、質問で返すなんて、狡い。
帰るよって、一言言ってくれれば、何も言わずにそのまま帰路についてくれれば、いいのに。
彼は一歩、また一歩と完全に私のパーソナルスペースに入り込んだ。
「オレは言うの我慢したのに、何言ってくれちゃってんだ?」
先程さよならの手を振った右手が、私の首筋に置かれる。
また背中がザワザワして、恥ずかしくなって目を伏せる。
「ダメじゃん。よく知りもしない男引き止めたりしちゃ」
そう言われた直後、瞼に彼の唇が落ちてくる。
驚いて一度瞬きをすると、開いた視線の先にいる彼に、真っ直ぐ目を見つめられる。
心臓の音が煩くて、アパートのエントランスに響き渡るようだった。
「まだ引き返せるけど、どうしたい?」
私は泣きそうになりながら、首を横に振った。
すると彼は、私の手を優しく掴む。
「部屋どこ」
「二階、」
手を引かれたまま足早に階段を上がる。
部屋の前まで来て、私が足を止めると、彼もつられて止まった。
鞄の中を漁り、キーケースを引っ張り出す。
鍵を開ける動作さえ鬱陶しい。
何十秒掛かったか分からない。
鍵を開け、ドアノブを回すと、彼が扉をこじ開け、後ろから押される形で雪崩込むように玄関に入った。
その瞬間、私の後頭部を押さえ込みながら、彼は噛み付くように唇を奪った。
バタン、と閉まるドアの音が遠く感じる。
指を絡めながら両手を掴まれ、壁に磔にされると、唇の隙間から舌を捩じ込まれて、口内を侵される。
息が出来なくなりそうな程深い口付けの後、唇の端に付いた唾液を親指で拭いながら、彼は意地悪そうに笑って訊ねる。
「これでおしまいで、いい?」
その声を聞いて、半押しだった私の中のスイッチが、完全に押されてしまった。
履き疲れたパンプスを脱ぎ捨て、彼の手を引いた。
彼も靴を脱ぎ捨てて、私に引かれるがまま。
そのまま寝室まで引っ張っていき、彼をベッドに放った。
「おねーさん、なかなか手荒だね」
「みょうじなまえ」
「え、」
「おねーさんじゃなくて、私の名前」
「なまえちゃんか」
「君は?」
「三ツ谷隆」
強くもないお酒を、注がれただけ飲まされたことも相まって、気分の高揚が激しかった。
クソみたいにかったるかった飲み会も、輩に絡まれたイライラも、こうなると全部が全部要因。
ベッドに投げ出された彼に跨り、彼のシャツのボタンを外していると、途端に視界が反転した。
「やられっぱなしじゃ、オレの気がすまねぇんだけど?」
真っ暗な部屋でも分かる、私を組み敷いた彼が楽しそうに笑っているのが。
今度は私のシャツのボタンが手際よく全て外され、簡単に下着のホックまで外されてしまった。
恥ずかしさといたたまれなさが溢れて、両手で顔を覆うと、すかさず両手を掴まれた。
「見せてよ、なまえちゃんの可愛い顔」
誰かに抱かれるのに、こんなに高揚するのは初めてだった。




ほとんど言葉を交わさず激しく抱き合った後、疲れたように眠ってしまった彼を見て、大きな溜息を吐いた。
行為中の彼の表情は異常な程艶めかしくて、それとは正反対のあどけない寝顔を見ると、頬が緩むのと同時に、胸が痛んだ。
やってしまった。
一夜限りの関係なんて、今まで持ったことがなかったし、ましてや相手は未成年だ。
焦りと不安から、布団を抜け出した。
下着を履いてから、静かにクローゼットを開け、適当なオーバーサイズのTシャツを着る。
音を立てないように寝室を出ると、玄関に投げ捨てたままの鞄の中から、煙草の箱と手付かずの缶コーヒーを取りだし、ベランダに向かった。
落ち着きたい気持ちが大きくて、一本取り出した煙草を咥え、すぐさま火をつけながら窓を閉めた。
ゆっくりと吐き出す煙が、風のない空に漂う。
どうしたらいいんだろう、と考えながら缶コーヒーを開けて、一口飲む。
いつもなら最高の気分になる黄金コンビを両手に、また大きく溜息を吐く。
まだ薄暗い街を眺めながら、ベランダの手すりに腕を掛けた。


「何してんの」
部屋の内側から窓が開き、声のする方を見ると、スラックスを履き、肩からシャツを羽織った彼が重そうな瞼を擦っていた。
もう酔いも覚めている。
冷静になった私から出る言葉は、ひとつしかなかった。
「ごめんなさい」
未成年の君を誘ってしまったこと。
強い衝動の中にも愛が生まれてしまいそうだったこと。
彼に背を向け、外の景色に目をやった。
そんな私を、彼は後ろから抱き締めた。
「それ、オレのセリフじゃね?」
「違う、」
「何、後悔してんの?」
半々だ。
気持ちが激しく高揚して、押し寄せる快感に我を忘れて夢中になるくらい、最高の時間だった。
だけど、彼は未成年だ。
「オレは後悔しねぇよ?」
私の後ろ首に頭を擦り寄せながら、彼が言う。
「なまえちゃんが誘ってくれるように、誘導尋問したのはオレだし」
その言葉を聞いてハッとして振り返る。
きっと若い彼にとっては、性欲を満たすための時間だった。
何が愛だ。
勘違いも甚だしい。
私が何も答えずにいると、彼は手を伸ばして煙の上がる煙草を奪う。
それを咥えて大きく吸い込み、その直後ケホケホ、と咽た。
「何でこんなの吸えんの?」
「大人だから」
そう答えた私の唇に、彼の唇が優しく触れた。


「オレをなまえちゃんの男にしてよ」


目を細めて笑う彼を見て、関係を持ってしまった以上責任を取らないといけないのかな、と考えていると、今度は左手から缶コーヒーが奪われる。
責任、と考えると、愛だの何だの考えていることがバカバカしくなる。
彼は缶コーヒーを一口飲むと、ゆっくりと息を吐き、私の左手にそれを戻した。
そのまま私の背中に覆い被さるように、もたれ掛かる。
「……どっちも大人の味」
その言葉を聞くと、やっぱりダメだ、という思いの方が強くなる。
彼はまだまだ多くの可能性を持つ未成年だ。
私みたいな悪い大人に引っかかっては、いけない。
戻ってきた缶コーヒーを飲み干して、口を開く。
やんわり、できるだけ、遠回しに。
「君はまだ、いろんな人に出会えるよ」
私がそう話すと、彼は私の左隣に移動して、奪ったままの煙草を再び吸い込んだ。
ケホ、とまた小さく咽る。
「さっきよりマシ」
そう言って、横目に私を見た。
「やめときな」
「煙草?」
「も、そうだし、私も」
彼は、煙草の煙を吸うことに少し慣れたのか、三回目に吸い込んだ時には咽なかった。
「すぐなれんだよ、大人になんて」
そう言い放った横顔は、未成年には到底見えない程、色気が漂う。
「わかった」
私が肯定の言葉を伝えると、表情のない彼がこちらを見た。
「セックスしたい時に来ればいいよ。責任取る」
好きな時に欲求を満たせる対象になることが、愛なんて必要のない責任の取り方だと、思った。
私の言葉を聞いた彼の顔は一変、眉を顰めた。
「そんなんで責任取ろうとするんじゃねぇよボケ」
彼は持っていた煙草をサイドテーブル上の灰皿に放ると、その手で私を引き寄せ、抱き締めた。
持っていたコーヒーの缶が手から離れ、カラン、と音を立ててコンクリの床に転がった。
「もうオレのこと好きになってるくせに。責任なんて言葉使うんじゃねぇよ」
もはや心の内を彼に見抜かれてしまっていた。
「分かんねぇの?オレの方が先に惚れちまってんだよ。だから誘導した」
Tシャツ越しに押し潰される胸の感覚に、下着をつけていないことを思い出したのと同時に、まんまと誘導されていたという不甲斐なさに、急に恥ずかしくなった。
そんな私の恥ずかしさなんて少しも気付いていない様子で、彼は両手で私の頬を捉えた。
「こんな始まりじゃ締まんねぇかもしんねぇけど、大事にする」
真っ直ぐな瞳に、優しい口調で言われると、胸がぎゅうっと締まって、心臓が押し潰されそうになる。
まだよく知らない彼に対して、何でこんなにも色んな感情が湧いてくるんだろう。
「私、歳上だよ」
「だから何?」
「……いっぱい泣かすかもしれない」
私が零した言葉に、彼は吹き出した。
「んだよそれ」
「そのままの意味だよ。君はまだ若いから、私に振り回されて泣くかもよ?」
「上等だコラ」
笑いながら答えた彼を見て、思ってしまう。
彼の気が済むまで、一緒にいるのもいいのかもしれない、なんて。
「なまえちゃん、好きだよ」
大きな口を開けて笑っていたのが一変、彼は目を細めて、優しく微笑む。
くるくる変わる表情が、次はどうなるのかと、考えるだけで絆されてしまう。
きっと助けてもらった瞬間、火をつけたように転げ落ちていた。
一瞬で終わる愛でもいい。
だから今だけは、いつか終わるまでは、彼に溺れていることを、許して欲しい。




20211020
first cigarette


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