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この話には一部性的行為を連想させる表現がやんわりと入っています。
苦手な方、嫌悪感のある方は読まずにお戻りください。











わたしが溺れているのはこの腕、背中、死んでいるかのような濁った瞳。
わたしを抱く時は必ず心がどこかに行っている。
オレはここにはいない、本当のオレはどこだと思う?
そんな問い掛けをされているかのような瞳が、好きだった。
「ねえ三井」
「あ?」
「キスして」
わたしに重なり視点の定まらない彼の長い髪を掴んで口づけをせがむと、また溺れてしまう。
心ここに在らずの深い深い口づけに。
何度も抱き合って朝を迎えるのは、これで何度目だろう。
ぼんやりと制服に袖を通しながら考える。
「お前、親に怒られたりしねえ?朝帰りばっかして」
「全然、うち放任だから友達のとこ泊まるって言えば平気」
「そうかよ」
長い前髪を掻き上げて、三井は小さく苦笑いした。
他校の友達の友達、集まった時に偶然いた、そんな普通の出会い。
それから街で歩いているところをよく見掛けるようになった。
仲間と不良をしていても本心がどこかに行っていることにはすぐに気がついた。
大口開けて笑っているけど全然楽しそうじゃない。
その時は楽しいのかもしれないけれど、本当はもっと楽しい何かがあるんじゃないだろうか、この男には。
そのことに気付いてから彼に興味を持ち、近づいた。
少しでも彼の深層に入って行きたくて、彼を挑発し抱かれることを選んだ。
それから半年、身体で繋がり合っても彼の本音は見えないままだし瞳は淀んで心がどこかに行っている。
いつの間にかそれが癖になってしまって、こうして時々会ってはその瞳に夢中になっていた。




「もうお前とは会わない」
「は?」
喧嘩で大怪我して入院していた三井が退院してからすぐ会いに来て、いつものようにその瞳と身体に溺れている最中だった。
「なんで、」
「飽きた」
そう告げると、彼はわたしに有無を言わせないように一気に終わりを迎える。
わたしは彼の髪を掴んで泣いた。
「や、だ」
「彼女ヅラすんなよ」
その手を振り解いて、彼はベッドから抜け出し服を着る。
布団の中で泣きじゃくるわたしを置いて、彼は去っていく。
カーテンの隙間から、朝の光が差していた。
結局、三井の本心を知ることはできなかったし、抱かれることで深層に近づけたわけじゃない。
どこで間違えてしまったんだろう。
捨てられることも覚悟していたはずなのに、涙が止まらない。
わたしは彼に溺れていた。




三井と会わなくなってひと月余りが経った。
あれから何もやる気が起きなくなってしまっていて、学校をサボって街を歩いていると、友達の友達が煙草を咥えて前から歩いて来た。
三井の不良仲間の鉄男だった。
「なまえか」
「鉄男久しぶり」
「何だ、元気ねーな」
鉄男はわたしの顔を見てそう言うと、少し考え込む。
「なに?」
「三井、スポーツマンになっちまった」
鉄男の言葉に、わたしは酷く動揺した。
「なにそれ、」
「あいつ、バスケットがやりたかったんだな」
三井からバスケットの話なんて聞いたこともなかったし、全く想像もつかなかった。
「だからもうオレたちとつるむことはねーよ」
そう告げて去って行く鉄男の言葉を聞いて、固唾を呑んだ。
バスケットがしたかったのにできない理由があって不良をしていた。
だからあんな目をしていたんだ、あの男は。
何度抱かれても知ることのできなかった三井の本音を、人づてでも知ることができてよかった。
少しくらい、心の中見せてくれてもよかったのに。
わたしは三井の心ここに在らずの淀んだ瞳を輝かせるものを知りたかっただけ。
わたしの力ではどうすることもできなかった彼を動かすものを、知りたかった。


そうか、バスケットか。
わたしには縁のない遠い世界だなあ。
そんなことを思いながら踵を返し、行き先を学校へと変える。
わたしもたまには自分の歩く道と真面目に向き合ってみようと思った。
それでもわたしはまだ溺れている。
これからも酸素がなくなるまで、この深い海で溺れ続ける。
きっと誰も助けてくれない。




20190621
酸素のない深海の底にいる


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