「おい石井!流川!日直の仕事サボったな!」
放課後の部活開始までの間、バスケ部員はそれぞれストレッチをしたりシュート練習をしている。
オレはとっくにストレッチなんて終えてスリーポイントラインから黙々とシュートを打っていた。
そんななか怒号が響いて、ここにいる全員がもれなく体育館の入り口を見た。
「・・・あ」
小さく声をあげたのは、オレのすぐ横にいた流川で、僅かに奴の顔が引きつった気がした。
「なんだよお前、日直の仕事サボったのか?」
「・・・忘れてた」
「石井は?」
「・・・知らねっす」
体育館を見渡しても石井の姿は見えない。
すると、怒号を上げた張本人が、こちらへ向かって一直線に歩いてくるではないか。
「る、流川、何とかしろよ」
「・・・はあ」
その女子はズカズカと歩いてきて、流川の前でピタリと立ち止まる。
「このやろー」
「・・・委員長、わりぃ」
「委員長?」
「クラスの委員長す」
こんなハキハキした女子が委員長なのか。
オレのクラスの委員長は成績優秀で大人しそうな男子だったぞ、確か。
そんなことを考えていると、彼女が口を開く。
「ねえ流川、」
「・・・ん?」
その子は流川を睨んでいた視線を、オレへと移す。
「な、なんだよ」
一年の女子に睨まれている・・・!
しかも、よく見ると結構かわいいじゃねえか・・・!
「流川、」
「ん?」
「こちらの超絶イケメンはどちら様ですか」
彼女の言葉にオレは吹き出してしまう。
「はっ?」
「・・・三井先輩」
「三井先輩」
流川の言葉を繰り返して、彼女は頬を赤らめた。
その表情を見たら急に恥ずかしくなって、オレも頬が熱くなるのを感じた。
オレを見つめる目から熱い視線が突き刺さる。
可愛い、好みのタイプとは少し違うけど可愛い。
「・・・先輩、何考えてんすか」
「う、うるせー」
流川に突っ込まれると、オレは誤魔化すようにシュートを打った。
もちろん落としてしまうのだけれど。
リングに当たって跳ね返ったボールが彼女の元へ跳ねていき、それを彼女がキャッチした。
「流川!三井先輩がかっこいい!」
キラキラした目で流川に訴える彼女を見たら、また恥ずかしくなってきてしまい、ボールを奪ってからそっぽを向いた。
「部外者は出ていけよ」
そんな言葉を吐き捨てると、彼女はオレの前に回り込み、またオレを見つめる。
「なんだよ!流川!なんとかしろよ!」
「・・・無理っす」
流川は呆れたように溜息を吐いてオレの肩に手を置いた。
「いいじゃねぇすか、委員長可愛いし」
流川から女子を可愛いと言う言葉が出たことに驚いて、オレはたじろぐ。
「わたし、今日から三井先輩のファンです」
彼女はそう言うと、走り去っていった。
「な、なんなんだよ流川あの女は!」
「委員長っす」
「それは知ってる!」
「いいじゃねぇすか、可愛いし」
「あーもう!」
これはバスケ部に復帰して半年後の出来事。
「三井先輩!いつまで出てこないつもりですか!」
「うるせー!お前が向こう行かなきゃ出て行かねー!」
「だってもう始まっちゃう!」
「う、うるせーな!」
彼女の大きな声に促されて仕方なく控え室の扉を開ける。
純白のウェディングドレスに身を包んだ彼女がとても綺麗で直視できない。
メイクもドレスもとても似合っている。
今日は彼女が世界で一番綺麗な日だ。
だけどそれは絶対言ってやらない。
「三井先輩、やっぱりかっこよすぎる・・・」
「うるせーな!お前ももう三井なんだぞ!わかってんのかよ」
「わかってますよ!」
後輩のクラスの小煩い委員長だった女は、いつの間にかオレの隣にいつもいた。
落ち込んだり悩んだりした時に、いつもあっけらかんとして大きな声で背中を押してくれた。
「三井先輩、指輪上手にはめてくださいね」
「わ、わかってるよバカ野郎」
オレをいつも支えて愛してくれる彼女に、酔った勢いでつい"結婚しよう"なんて言ってしまった時には、やっちまったと思った。
だけどこんなにオレを必要としてくれて、明るい気持ちにしてくれるのは彼女しかいない。
それに、小煩い嫁が毎日傍にいるんだと思うとそれはそれで楽しい気もした。
飛び跳ねて泣いて喜んだ彼女の顔は多分一生忘れられない。
「なまえ」
先を歩く彼女を呼び止めて駆け寄ると、少し緊張した表情が目に映る。
いつものように悪態を吐くオレが本音を言えば、彼女はきっと泣くんだろうなと思うと言えなかったけれど、やっぱり本音が出てしまう。
「世界一綺麗だ」
そう言ったオレの眉間に人差し指を当てて、彼女は笑った。
「皺、寄ってますよ」
「う、うるせー」
笑いながら目に涙を溜めている彼女を見ると、絶対に幸せにしなきゃいけないな、と思った。
「ほら、バージンロードの向こうで待っててくださいね」
「おう、こけるんじゃねーぞ」
「何言うんですか!」
目を細めて笑う彼女より一足先に赤い絨毯の向こうへ進む。
出逢って10年目の秋、これからも隣にいてほしいと強く願っていた。
20180124
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