生まれて初めて一目惚れをした。
ほんの一瞬目が合っただけなのに「好きだ」と思ってしまった。
around the clock
湘北高校入学式。
同じ中学出身で湘北高校へ入ったのは親友の美咲と、幼馴染の堀田徳男だけだった。
入学式の前、教室の前でクラスを確認する。
「二人は3組か」
「うん。徳ちゃん10組だっけ」
中学の頃からヤンチャで不良だった徳ちゃんは、幼馴染のわたしとは変わらずに接してくれている。
高校でも不良を続けるつもりだろうか。
湘北は怖そうな上級生も多いし、少し心配だ。
徳ちゃんのバッチリ決まったリーゼントが眩しい。
いつまでもこんなことしてると徳ちゃんのママ、泣いちゃうよ。
「じゃ」
「徳ちゃん入学式寝ちゃダメだからね」
「わかっとるわ」
教室へ入って行く徳ちゃんを見送り、自分の教室へ向かう途中、前から数人の男子生徒がやって来る。
「三っちゃんがいれば湘北バスケ部は全国行けるよ!」
「まあなー!この天才がいる限りバスケ部は安泰だぜ!全国制覇!!」
ケラケラと笑うその子と、ほんの一瞬バッチリ目が合って固まる。
すらりと高い身長、サラサラの髪、どこか自信に満ち溢れた表情。
「好きだ!」と一瞬で思った。
バスケ部の話をしてたってことはバスケ部に入るのかな。
その日は入学式の最中もずっと、彼のことを考えていた。
高校生になったら恋とかするのかなって少し期待はあったけど、まさかこんなに早く恋に落ちることになるなんて。
それから暫く彼を見かけることはなく、名前もクラスもわからないままだった。
入学して少し経った頃、徳ちゃんのお母さんから、弁当を忘れたから渡してほしいと預かって、昼休みになってすぐに10組へ向かった。
「徳ちゃん、お弁当ー!」
10組の教室の後ろの入り口から声を掛けると、一瞬で視界に飛び込んできたのは、あの男の子だった。
彼は教室の入り口側の一番後ろの席に座っていた。
また固まってしまって目が合うと、窓側の一番後ろに座っていた徳ちゃんに声を掛けてくれる。
「おい堀田ー!弁当だってよー」
彼の声に気付いた徳ちゃんが、少し恥ずかしそうにこちらへやって来る。
「紗江ちゃん悪いな」
「いいよいいよ、不良でもお弁当は忘れず食べなきゃね」
徳ちゃんはまた恥ずかしそうに笑う。
わたしたちのやりとりを見ていた彼が徳ちゃんの肩をポンと叩く。
「堀田、彼女か?」
「うるせーな三井、幼馴染だ」
「何で堀田みてーな奴にこんな幼馴染がいるんだよ」
「近所だし親同士仲がいいんだ」
みついくん・・・、三井くん!
「紗江ちゃん顔赤いぞ?熱でもあるか?」
徳ちゃんの言葉にブンブンと首を横に振るわたしに、三井くんは笑った。
不良の徳ちゃんに不良じゃない友達ができたのかな?
だって彼はバスケ部だ、多分。
クラスも名前もわかってしまった。
少し浮かれた気持ちで自分の教室へ戻ると、美咲が男子と話していた。
「おー、紗江おかえり。堀田いた?」
「うん!お弁当渡してきた」
「えっ、堀田ってあのヤンキーの?」
驚いた様子で尋ねてきたのは先程まで美咲と話していたクラスメイトの木暮くん。
「紗江と堀田幼馴染なんだよ」
「へぇー」
木暮くんが興味深そうにわたしを眺めた。
「あ、紗江部活入らないの?」
「うん!」
特にやりたいこともなかったので、帰宅部で届けを出した。
「木暮バスケ部なんだって」
「え!」
バスケ部、三井くんと一緒だ!
「今年は俺と同じ中学の赤木と、中学MVPの三井くんがいるから期待できそうだよ」
「木暮もいるしね!」
美咲が笑って言うと、木暮くんも恥ずかしそうに笑った。
三井くん、中学MVPなんだ。
だから入学式の日、あんなに自信に満ち溢れていたのかなあ。
それから暫くして、三井くんが怪我をしたと木暮くんから聞いた。
膝を傷めて、少しばかり入院するらしい。
徳ちゃんに用があると時々10組に行って、三井くんの姿を見ていたので少し寂しい。
「徳ちゃーん」
学校の帰り道、もう家に程近い所で徳ちゃんの後ろ姿を見つけた。
「今日早いね」
「仲間が風邪引いて来てなくてよー暇だから帰ってきた」
「そういえば徳ちゃん、三井くんと友達なの?」
「三井?いや別に友達ではねえけど」
ただのクラスメイトにしては、徳ちゃんに恐れず関わっているなあと感じる。
徳ちゃんは見た目が思いっ切り不良だから。
「そーいやあいつ怪我して入院してるんだったな」
「うん」
木暮くんから聞いたから知ってるよ、とは言わずに相槌を打った。
「じゃね、徳ちゃん。明日も学校行くんだよ」
「紗江ちゃんは本当母親みてーなこと言うな」
「幼馴染だから!じゃね!」
徳ちゃんと別れて玄関の扉を開ける。
三井くんの怪我、早く治るといいなあ。
バスケットをしている彼を見たことはまだないけど、きっとかっこいいんだろうなあ。
恋に落ちる音がしたbacktop