期末テストが返って来た。
これが返ってくると、夏休みの始まりが近付いて、毎年嬉しくなる。
今年は受験だからそんなに遊べないけれど、バスケ部のインターハイが終わるまでは勉強と応援の両立をしなくては。
放課後美咲とバスケ部見に行こう、と荷物を持って教室を出ると、三っちゃんと赤木くんと木暮くんが向こうから歩いて来た。
「よう」
三っちゃんがこっちに気づいて声をかけてくれた。
「お揃いでどしたの?」
美咲が不思議そうに尋ねると、赤木くんがサラリと答える。
「赤点組の追試をお願いしに行ってたんだ」
「赤点4つ以上はインターハイ出れないんだよね、確か」
「え、赤点てまさか、」
わたしは三っちゃんを見た。
恥ずかしそうにしている、眉間に皺寄せて。
その顔を見て、わたしは茶化すように言った。
「三っちゃん、ほんとバスケットしか見えてないね」
いや、そういえば恋愛にうつつも抜かしてたぞこの男は。
「勉強してる時間も結局バスケのことばっか考えてて集中できなくてよー」
「三っちゃんらしいわ」
「リングがある公園に息抜きに行くともう1日終わってんだよなー」
「それは怠慢です」
「だよなー」
「好きなことばっかりしてられないのが社会の厳しさ」
「やっぱそうかよー」
ふと視線に気付き振り返ると、美咲と赤木くん、木暮くんの三人はニヤリとこちらを見ている。
「なんかアホみたいな会話ー」
「楽しそうで入って行けなかった」
「オレもだ」
それを聞いてわたしと三っちゃんは顔を見合わせて笑った。
「赤木くん、三っちゃんインターハイ行けるようにご指導お願いします」
「おう、任せてくれ」
「今日赤点組は部活の後で勉強合宿なんだってさ」
「なにそれ面白そー」
「面白がってんじゃねー」
三っちゃんは眉間に皺を寄せてわたしの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「ねえ紗江」
放課後バスケ部の練習が終わって、玄関で靴を履き替えていると、美咲が神妙な面持ちで近寄ってくる。
「な、何どうしたの?」
「三井ってさーもしかして紗江のこと好きなんじゃないの」
「は?」
美咲の言葉にぽかんと口が開いてしまう。
そんなはずはない。
彼には"大切な人"がいることを、わたしは知っているから。
「だってなんかさー、紗江に対する愛が溢れてんのよ」
「は?」
「話してる時とか、頭撫でる時とか」
美咲の言葉に、動揺してしまう。
「すっごい優しい目してんの」
嬉しいことを言ってくれているのはわかるけど、きっと。
「それね、友達としてなんだよ」
「そうかなあ」
「三っちゃんあんまり女の子の友達いないしさ」
「なるほどねー」
「期待させないでよね!早く帰ろー」
美咲は腑に落ちないような顔をしてるけど、わたしはわかってるよ。
わたしたちの知らない三っちゃんがいること。
わたしの知らない三っちゃんの過ごした時間があること。
好きな人の大切な人を、知りたいような、知りたくないような。
「おい、紗江ー!」
「わ、おはよ、どしたの」
終業式の直後に廊下を一直線に、嬉しそうに駆け寄って来たみっちゃんは数枚の答案用紙を持っている。
「追試やってやったぜ!」
「!」
わたしは三っちゃんと両手でハイタッチした。
やったね。
前に言ってくれたように、かっこいい姿を見せて欲しい。
きれいな弧を描くシュートを。
それを放つきれいなシュートフォームを。
苦しくても辛くても倒れても走り抜く三っちゃんを。
「なあ、夏休み入ると合宿始まるからよー」
「うん?」
「その前にお前に着いて来て欲しい場所がある」
「?」
わたしがぽかんとしていると、三っちゃんは意地悪っ子みたいに笑った。
「明日迎え行くな」
「うん」
明日から始まる夏休み。
今年はどんな夏が来るんだろう。
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