午後1時。
三っちゃんに着いて来て欲しい場所があると言われ、迎えに来ると約束した時間に玄関前の階段に座って待っている。
どこに行くのか気になってしまって、昨日はよく眠れなかった。
暑くて俯いていると、前方から声がした。
「よう」
わたしは顔を上げる。
「よう、三っちゃん」
「外で待ってなくてよかったのによー」
「お母さんめんどくさいから」
「?」
三っちゃんが不思議そうな顔をする。
そんなことより、
「三っちゃんひとり?」
「あ?そうに決まってんだろ」
「は!?」
聞いてない聞いてない聞いてない!
ふたりで何処か行くなんて聞いてない!
「何だよ嫌そうな顔して」
「い、嫌じゃないけど」
「じゃあいいだろ、行くぞ」
三っちゃんは足早に出発してしまい、わたしは慌てて後に続く。
彼の歩幅が大きくて、少し早足でついて行く。
「どこ行くの」
「江の島」
振り返った三っちゃんの眉間に寄った皺が緩んだ。
デートではないんだと思う。
わたしたちは友達だし、お互いラフな服装だ。
デートならもっと気合い入れたのに。
いつの間にか三っちゃんの歩く速度がゆっくりになっている。
わたしが早足でついていってることに気づいてくれたのかな。
電車に揺られて、江ノ島に着いた。
「ここから結構歩くからよー」
「知ってる」
「来たことあんのか?」
「ない、初めて!」
「だよなー」
来てみたかった江の島に三っちゃんと来れるなんて最高だ!
「・・・もしかして、江島神社?」
「おう」
(何するんだろ?)
この橋を渡ると江島神社がある。
歩き始めて三っちゃんが話し出す。
「最近流川とよく1対1するんだけどよー」
「流川くんと?」
「練習終わると必ずと言っていい程挑んでくる」
「流川くんすごい上手いよね、三っちゃん勝てるの?」
「勝てない時もあるなー」
一年坊に負けてちゃオレの名が廃る、と悔しそうに話す。
「あいつどんどん成長していくんだよなー」
流川くんは中学の頃から既に有名だったし上手かったと聞く。
「モテるしね」
「すげーよな、あの親衛隊」
親衛隊の人数も入学当初より格段に増えている。
「ねえ」
「なんだよ」
こちらを向いた三っちゃんの顔が、とても楽しそうだ。
「バスケ部戻ってよかったね」
「!」
三っちゃんの目が丸くなって、直後緩く笑った。
「何かお前楽しそうだな」
「そう?」
わたしも楽しそうな顔、してたかな?
長い橋を渡ってやっと辿り着いた。
鳥居をくぐり、進んでいく。
「意外と広いね」
「なんかすげー神様いそうだよな」
わくわくしながら進んでいく。
お賽銭を入れて願い事をする。
(湘北高校バスケットボール部が全国制覇できますように)
わたしの方が少し早く願い終わっていて、目を閉じる三っちゃんの横顔を見た。
(願い事、わたしと同じかな?)
一通り神社の中を回って、帰路に着いた。
橋の上は強く風が吹いていた。
「何お願いした?」
「もちろん湘北の全国制覇でしょ」
「自分の合格祈願じゃないのかよ」
「あ、」
それはすっかり忘れてた。
今は湘北バスケ部の全国制覇が優先だ。
「でもよー、」
「ん?」
「お前と来てお願いしたら叶う気がしてよ」
それを聞いてわたしは少し恥ずかしくなって俯いた。
「何だよ」
覗き込んでくる三っちゃんの顔が優しい。
「三っちゃん最近優しいから変」
「そんなことねー」
彼は海の方を眺めながら、両手をポケットに突っ込んだ。
何でわたしと来てくれたんだろう?
大切な人は?
と考えていたところでハッと気付いた。
江島神社は弁財天、女神様だ。
カップルで行くと神様がヤキモチを妬いて別れてしまう、なんて都市伝説もある。
風で乱れる前髪を押さえながらそんなことを、考えていた。
風が吹いているbacktop