帰りの電車に揺られながら、うつらうつらと眠くなる。
昨日よく眠れなかったのが祟っている。
もっといろいろ話をしたいのに。
「三っちゃん、眠たい」
「肩貸してやるよ」
その声を聞いた直後に三っちゃんの肩にもたれて寝落ちしてしまって、何だか心地良い夢を見たような気がする。


「おい」
三っちゃんの声で目を覚ますと、もうわたしの家の最寄駅に近づいていた。
「もうすぐ着くぞ」
「うん」
寝ぼけまなこで頷く。
(もっと一緒にいたいなあ)
「何言ってんだよ、早く起きやがれ」
「へ?」
一瞬で目がぱっちり覚めて、心臓がどくどくどくと速い音を立てている。
「今の声に出て・・・」
「ばかだなー」
気付かれたかな?
大丈夫だよね?
不安な気持ちが押し寄せてくる。
好きな気持ちがバレてしまったらもう友達でいられなくなるかもしれない。
でも、今の言葉に気付いていたとして、"ばかだなー"って返事は"そんな気はない"と言われてしまった気もした。
「あれ、三っちゃんも降りるの?」
「送る」
「ありがと」
電車を降りて家路につく。
たった10分程の道程だ。
まだ少し眠たいし、さっきの出来事が少し気がかりで、会話をしたいのに言葉が出てこない。
何か言ってしまえば地雷をばら撒いてしまうような気がした。
「紗江」
三っちゃんの声に俯いていた顔を上げると、眉間に皺を寄せた表情が目に入る。
背景の夕焼け空が目に染みる。
「なに?」
「何で黙ってやがる」
「え、」
「もっと一緒にいたいんじゃなかったのかよ」
この男は何も知らずによく言うよ。
三っちゃんから目を逸らして考えと言葉が上手くまとまらないまま口から零れてしまう。
「三っちゃんは好きな人いる?」
「あ?」
「わたしはいるよ」
気づいて欲しいけど気づいて欲しくない。
知って欲しいけど知って欲しくない。
我儘な気持ちがぐるぐると絡まってしまって少し感情が昂ぶった。
「そうかよ」
彼はそう一言だけ答えた。
(どうでもいいのかな?)
並んで歩く三っちゃんはまっすぐに前を向いている。
その表情はよく見えなかった。
わたしはふと足を止めて、夕焼け空を見上げた。
涙が溢れて来て、零れそうだ。
数歩進んだ三っちゃんが、立ち止まったわたしに気が付いて振り返る。
その瞬間にぽろりと涙が落ちてしまって、咄嗟に拭ったけれど、見つかってしまった。
「な、何泣いてやがる!」
三っちゃんは慌てた様子で、駆け寄って来た。
それ以上は何も言わず、わたしの頭をぽん、とひとつ撫でた。
これ以上は泣かないようにと堪えながら、服の裾をぎゅっと握った。
それからほとんど何も話さないまま、家の前に着いてしまった。
「明日から合宿だ」
「うん、知ってる」
「オレ頑張るからよー」
「頑張って」
「合宿終わったら、おめーと行きたい場所がある」
今度は何処に連れて行ってくれるんだろう。
次は泣かないようにしないとなあ。
「また迎えに来るから待ってろよ」
「うん」
三っちゃんはいつものようにわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でると、目を細めて笑った。
「じゃあな」
「気を付けて行ってらっしゃい」
「ありがとなー」
最後はちゃんと笑顔で手を振れた。
玄関を開けて部屋に戻ると、ベッドにダイブする。
友達だと思っているけれどやっぱり好きで、このままずっと気持ちを隠して一緒にいるなんてできるのかな。
だけど今は、三っちゃんのバスケットと、大切な人とうまくいくことを応援することしかできないんだなあ、と改めて思ってしまってまた泣いた。




夕焼け空が目に染みる


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