今日、湘北バスケ部は静岡合宿から帰ってくる。
桜木くんだけは学校に残って単独で合宿していたと、偶然街で会った時に晴子ちゃんから聞いた。
静岡での合宿は常誠高校との合同練習やゲームをするらしいと聞いていた。
三っちゃん、疲れているんじゃないかなあ。
一週間体力持ったかな、慣れない布団でよく眠れたかな、といろんなことを考えてしまう。
もしかしたら迎えに来ると言っていたことも、合宿で疲れて忘れているかもしれない。
期待半分くらいにしておいて、受験勉強を続ける。
(・・・でもやっぱり三っちゃんに会いたい!)
三っちゃんが不良している間はあまり会える機会はなかったけれど、最近は学校に行けばほとんど毎日会って顔を見ていた。
欲張りになっているのかな、勝手な片想いなのに、会えないとやっぱり寂しい。
この前は好きな人いるのって聞いたのにはぐらかされたし、そもそも三っちゃんの大切な人の話を聞いたことがない。
わたしの知らない人なんだろうなあ。
不良時代に出会った人かもしれないし、年上のお姉さんかもしれない。
誰かから聞いたことがあるけど、三っちゃんがマネージャーの彩子ちゃんを好みだと言っていたこともあったようだし。
変な妄想が膨らんで、やっぱり勉強が進まない。
気がつけばもう日が傾いていた。
リビングでお茶でも飲んでこよう、と部屋を出て階段を降りていくと、笑い声が聞こえる。
今の時間はお母さんしかいないはず。
(お客さんかな?)
リビングの扉をそっと開くと、そこにはお母さんと楽しそうに話をしている三っちゃんが座っていた。
「は!?」
驚きで大きな声が出た気がする。
「よう」
「紗江、勉強終わったの?」
お母さん、自然すぎるんですけど何なんですか!
「な、何で三っちゃんいるの?」
「玄関の前でお母さんと会ったから」
「あんた勉強してるって言ったら待ってるって言うし上がってもらったのよ〜」
三っちゃんは麦茶を飲みながら、こちらをちらりと見た。
(げ、また部屋着のままだ)
わたしは胸元から足元までを見下ろして溜息を吐いた。
「勉強終わったのか?」
「うん、もうやめた」
「じゃ行こうぜ」
「支度してくる」
わたしは急いで部屋に戻って着替えた。
玄関を出る時、三っちゃんはお母さんに丁寧に挨拶していた。
歩き出すとわたしはすぐに口にした。
「びっくりした」
「わりぃ、合宿終わって一回帰ってから来たら遅くなっちまった」
「それは別にいいんだよー」
「じゃあ何だよ」
「お母さん、変な風に捉えてないかなって」
「変って、何がだよ」
それ以上は何も言わない。
でも、夕方から男の子と出掛けることを許してくれたというのは、三っちゃんを信用してくれたからなんだと思う。
三っちゃんの勝ちだな。
「ねえ」
「あ?」
「今日は何処行くの」
「海」
三っちゃんは手に持った袋をこちらに差し出してくる。
「花火!」
中を見れば、手持ち花火がたくさん入っていた。
花火をするのは久しぶりだ。
三っちゃんとできるなんて最高だ!
一番近い海岸まで歩くと少し距離があるのでバスに乗った。


砂浜に着く頃には、ちょうど日が落ちそうになっていて、しばらく座ってそれを見ていた。
青い空と青い海の隙間に夕日のオレンジ色。
「きれーい」
「おう」
視線を感じて隣を見ると、三っちゃんがあからさまに目を逸らした。
「なに?」
「何でもねー」
(わたしまた変な顔してたかな?)
完全に日が落ち切って、三っちゃんが立ち上がる。
「よし、花火やるぞ」
「うん!」
「ほら開けろよ」
促されて花火の袋を開ける。
「どうやって火つけるの」
わたしが尋ねると三っちゃんはポケットからライターを取り出した。
花火について来たロウソクを立てて、三っちゃんが上手に火をつけてくれた。
「そういえば三っちゃん不良してた時たばこ、」
「吸ってねーよ」
「え」
「本心ではバスケ部戻りたい奴が吸うわけねーだろ」
そう言われてみればそうだ。
あの頃のヤケクソ三っちゃんは本当はバスケ部に戻りたかったんだよね。
あの頃のわたしは勘違いしていた。
三っちゃんがバスケを捨てた、と思っていたんだ。
そう思うと、少し後悔した。
勘違いしていたこと、引き戻してあげられなかったことも。
「ごめんね、わたしあの頃、三っちゃんがバスケ捨てたと思ってた」
「そう思われても仕方ねーことしたのはオレだからな」
「いまは違うよ」
「オレだって今はちげーよ」


なんやかんやと話ながらしていたら、残るのは線香花火だけになっていた。
「お、もうコレだけかよ」
「いいじゃん、やろー」
「地味なんだよなー」
「願い事して、最後まで玉が落ちないと叶うんだよ」
また願掛けしたくなってそう言うと、三っちゃんはニヤリと笑った。
「どっちが落ちないか勝負だ」
線香花火に火をつけると、お互い話すのをやめた。
(湘北バスケ部全国制覇!)
そうお願いしつつも頭の中では、本当は三っちゃんの大切な人になりたいとか、三っちゃんが好きとか、そんな邪念が集まってくる。
ちらりと三っちゃんを見ると、眉間に皺を寄せて線香花火の先を集中して見ている。
「あ、」
三っちゃんの玉が先に落ちた。
「やった、わたしの勝ち」
わたしは玉を落とすことなく線香花火を終えた。
「待て」
「ん?」
「あと2本ずつあるぞ」
「あら」
「延長戦だ・・・!」
しょうがないな、と溜息を吐いて火をつけた。
「相変わらず負けず嫌いだな」
「うるせー」
もしかして、流川くんと1対1するときなんかもこんな風に負けず嫌いが出ちゃってるんじゃないだろうか、後輩相手に。
「あ、余計なこと考えてたら」
「っしゃーオレの勝ち」
「ラストラスト」
最後の一本に火をつけると、ああ、もう終わってしまうんだなあと思った。
ふと三っちゃんの方を見ると、目が合う。
「なあ」
「なに?」
「「あ!」」
その瞬間、二人同時に玉を落としてしまった。
「ああああ、終わっちゃったじゃーん!」
勝負なんてどうでもよかったけれど、花火が落ちて真っ暗になると、少し寂しくなった。
三っちゃんが先に立ち上がる。
(もう帰らないといけないのか)
そう思いながら立ち上がった瞬間、両肩を捕らえられる。
「わ、」
少しバランスを崩すと、三っちゃんに抱き留められる。
「ごめ、」
咄嗟に離れようとすると、彼の両腕がぎゅっと背中に回されて、突然のことに頭が混乱した。
「み、三っちゃんどうしたの」
心臓が、全力疾走した後みたいに脈打った。





線香花火


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