「好きだ」
そう言われて涙が溢れてきて、零れそうになるのを堪えながら大きく息を吸うと、三っちゃんの匂いがした。
「なんで?」
だって三っちゃんには大切な人がいるんじゃなかったの?
わたしの質問には答えず、三っちゃんはわたしを離してはくれなかった。
「お前が徳男を好きだろーが誰を好きだろーがオレには関係ねー」
「な、なんで徳ちゃん?」
他の名前が出てきたことが心外で、わたしは三っちゃんの胸を強く押した。
案外あっさりと解放されて、わたしは三っちゃんを見上げる。
暗くて表情がわかりにくいけど、眉間に皺を寄せたまま真っ直ぐにこちらをみている。
「オレはお前が好きだ」
その言葉を聞いて、堪えていた涙が落ちた。
「わたしだって好きだよ」
そう告げると、一度落ちた涙は止まらなかった。
涙を拭うと、三っちゃんは困った顔をしてわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


帰り道、バスには乗らないで歩いた。
歩いて帰るには少し遠いけど、話したいことが山程あった。
「三っちゃん、大切な人がいるんじゃなかったの?」
「は!?」
「年上のお姉さんは?彩子ちゃんは?」
「ば、ちげーよ!何だよそれ!」
「告白されてた、気になるって言われてた」
「それは違くないけどよ・・・」
歯切れの悪い返答にもやもやしてしまう。
「聞いちゃったんだよ、ほんと偶然、大切な奴がいるからって」
わたしは少し俯いて歩く。
すると、三っちゃんがわたしの手を握った。
「お前だよ」
「え、」
見上げれば、耳まで赤くして恥ずかしそうにしている三っちゃん。
全然気が付かなかった。
三っちゃんの大切が、わたしだったなんて。
嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだ。
変な妄想をしていた自分が恥ずかしくなった。
「徳ちゃん」
「ん?」
「本当に一度も恋愛感情持ったことないからね」
「そうかよ」
オレばかみてー、と言いながら、三っちゃんは頭を掻いた。
そんなこと言ったら、わたしもバカみたいだ。
お互い別の人を好きだと思っていたのに、本当は同じ気持ちだったんだと考えると、不思議な感覚だ。
「本当はインターハイ終わるまで言うつもりなかった」
「そうなの?」
「最近泣いたり笑ったりしてるお前見てたら言わずにいられなくなってよー」
衝動的に言ってしまった、らしい。
「インターハイ終わるまで構ってやれねーし」
「それでいいんだよ」
申し訳なさそうに話す三っちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。
「バスケット頑張ってる三っちゃんを、見ていたいんだから」
わたしがそう言うと、彼はまた恥ずかしそうに眉間の皺を緩ませて笑った。
それからはくだらない話をした。
毎日の部活の話やわたしと徳ちゃんの子供の頃の話、徳ちゃんが美咲に振られた話、三っちゃんの親の話とか。
「この前赤木ん家で勉強合宿の時親に電話したら"本当なの!?"って言うんだぜー」
「信用されてないんだ」
わたしは少し可笑しくなって笑った。
「あれ、今日は?大丈夫?」
「まあなー」
長い道程だったはずなのに、あっという間に家に着いてしまった。
繋いだ手を離したら、とても名残惜しくて、また涙が落ちそうだ。
「遅くなって悪かったな」
「この時間なら全然大丈夫、ありがとね」
「こっちこそ、ありがとな」
三っちゃんはそう言うとそっとわたしを抱き寄せた。
家の前でこんなことされて近所の人に見られたらどうしよう!という気持ちと、本当にわたしたちおんなじ気持ちなんだ、という気持ちと、頭の中が忙しなく動いていた。
「インターハイ見に行くからね」
「おう」
「今日はゆっくり休んでね」
「サンキュー」
三っちゃんはわたしの体を解放すると目を細めて笑った。
わたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でると、手を振った。
「じゃーなー」
「おやすみ」
わたしも手を振り返して、三っちゃんの後ろ姿が見えなくなるまでぼんやり眺めていた。




衝動的に心に伸ばした手


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