8月3日、二回戦の対戦校はシードの山王工業だ。
折角だからと第1試合も観戦することにしていたわたしたちは、海南大付属の試合に釘付けになっていた。
朝から客席はいっぱいで、わたしたちは立ち見していた。
「やっぱり神奈川の王者ってだけあるね」
「あのキャプテンの人が凄い」
「あの人有名だもんねー」
「美咲ほんと詳しくなったね」
「木暮の大好きなバスケだからね」
好きな人の好きなものを好きになるというのは、やっぱりいいな。
「あ、ハーフタイム入るよ」
ハーフタイムに入ると、第2試合の高校が練習をすることになっている。
山王と湘北の選手がコートに入って行く。
「山王ー!!!!」
会場が山王工業の登場に大歓声を上げる。
「す、すごいね」
「絶対王者だからね」
プレッシャー感じてないかな、と心配して三っちゃんを見ると、動きが固い気がした。
眉間に寄った皺もいつもより深い気がしたし、何ならあれはしかめっつらだ。
木暮くんもオロオロしている。
「やっぱり雰囲気に飲まれてるね」
「そうなんだね」
なんとなく不安が伝わってきて、わたしも苦しくなった。
後半が始まると、海南はあっさりと点差を突き放し、勝ち上がった。
湘北だって、神奈川の王者を苦しめたチームだ。
きっとやってくれると信じて。
「紗江ちゃん美咲ちゃーん」
第2試合開始前、声に振り返ると桜木軍団と晴子ちゃんたちがやってきた。
「お、来たね〜」
「みんな山王工業を見に来てるんですね・・・!」
赤木くんのことか流川くんのことかはわからないけど、晴子ちゃんも緊張しているようだ
「さっきの試合のハーフタイムで練習してたけど、湘北みんなガチガチ」
「気圧されてる感じだったよ」
わたしの言葉に水戸くんが笑う。
「あの問題児たちでも気圧されたりすんのかよ」
そのうちに、両校の選手がコートに入っていく。
「あれ?皆さっきと雰囲気違うね」
「ほんとだ」
三っちゃんの自信に満ちた表情が見えて、少しほっとした。
入学早々に見たあの時の表情に似ている。
自信に満ちているあの表情が好きだ。
「声も出てるし皆気合入ってるね」
すると、桜木くんがいきなり相手ゴールにダンクを決めた。
「あの子ってば!」
「す、すごい!」
宮城くん、三っちゃんとハイタッチしてポーズを決めている。
「三馬鹿全国デビュー・・・」
試合開始直後から宮城くん桜木くんのアリウープで会場がどよめく。
「す、すごすぎる!」
それでも絶対王者・山王工業は動じない様子で点を返してくる。
客席の応援も物凄くて、わたしたちも負けずに声を張った。
「あ、三っちゃん!」
三っちゃんがスリーを打つ。
「は、入る・・・!」
確信したわたしはボールの軌道を目で追った。
ボールは吸い込まれるようにリングを通っていく。
「三っちゃ〜〜〜〜ん!!」
徳ちゃんたちの声が響いた。
「三井すごーい!」
わたしは美咲の手をそっと握った。
「三っちゃんもしかして、今日絶好調かも」
三っちゃんは立て続けに3本スリーを決めた。
それからディフェンスがきつくなったけど、三っちゃんはスリーだけじゃない。
ディフェンスを抜いて回したパス、赤木くんのダンク。
完璧だった。
「三井がすごいよおおお」
美咲が興奮してわたしを抱きしめる。
わたしは三っちゃんを目で追っていた。
安西先生とグッと何かを確かめるかのように合図を送り合っている。
自分を信じることができたかな。
今の彼には過去を後悔している暇はなくて、今の自分を信じていくしかない、と思う。
「三っちゃん、すごくいい顔してる」
三っちゃんに対するディフェンスは更にきつくなり、なかなかボールをもたせてもらえなくなった。
桜木くんがガンメンシュートを決めたり流川くんが相手のエースをかわしたり、試合は面白い展開になっていく。
2点差で勝っている状態で前半は終了。
後半は三っちゃんの体力が心配だ。
徳ちゃんが変な応援を始めて応援席は温まっているものの、山王は疲れを知らないかのようにどんどん点を重ねていく。
湘北はなかなかボールを運ぶことができず、焦りが見えてくる。
「三井、だいぶ疲れてきてるね」
「うん」
前半のきついディフェンスが効いているのか、三っちゃんはかなり疲弊している様子だ。
赤木くんも何だか様子が変だし。
桜木くんのヤマオー倒す宣言、後半初ゴールで少し雰囲気が変わったものの、なかなか追いつけない程点差は開いている。
「え、」
赤木くんがゴール下で倒れたところに突然陵南のキャプテンが現れた。
「いつの間に・・・」
コート内の選手も客席もざわついている。
陵南のキャプテンは赤木くんに何か告げると警備の人に連れていかれてしまった。
しかし赤木くんは何か吹っ切れたかのように吼えた。
一方三っちゃんは簡単に抜かれてしまっていて、もう限界だと思われた。
直後、赤木くんのスクリーンアウトでフリーになった三っちゃんがスリーを打つ。
もう体力も限界の中で確実にスリーを決めていく三っちゃんを見て、涙が溢れてきた。
「絶好調にも程があるー・・・」
そう零すと、美咲はぎゅっとわたしの肩を抱いた。
彼は今日一度も客席を見ていない気がする。
もうリングしか見えてないんだろうな、と思うとまた涙が溢れて止まらなくなってしまった。
この試合が終わったら、三っちゃんの好きなポカリを山程買ってあげなくちゃ。
絶好調にも程があるbacktop