湘北バスケ部は山王工業に勝利した翌日、愛和学院にボロ負けし、彼らの夏のインターハイが終わった。
インターハイで負けて神奈川に戻った翌日から冬の選抜に向けて部活を再開すると聞いていたので、わたしは朝から体育館の入り口付近に腰を下ろして三っちゃんを待ち伏せしていた。
まだ部員は誰も来ていない。
部室の方向からキュ、とバッシュの音が聞こえて、三っちゃんだと確信した。
体育館に入って来た彼はこちらに気づいていない。
「よう三っちゃん!」
「・・・よう紗江!」
声を掛けたわたしの存在に気がつくと、ゆっくりとこちらへ歩いて来た。
彼はわたしの横にしゃがみ込んだ。
「相変わらず早いね」
「オレは人一倍練習が必要だからな」
またブランクの話?と笑うと三っちゃんはわたしを小突いた。
「冬の選抜で目立っておかないと、大学からのスカウト来ねーだろ」
「大学行くの?」
そう尋ねたわたしに、三っちゃんは言う。
「まだまだバスケがしたい」
ブランクがあったからこそバスケの大切さを再確認できたんだと思う。
「インターハイ、きてくれてありがとな」
わたしは頷くと三っちゃんの真向かいにいざって移動してから、スーパーの袋を差し出した。
1.5リットルのポカリが3本入っている。
「何だよ」
「お疲れ様ーってことで」
「サンキュー、・・・負けたけどな」
彼は唇を尖らせながら、袋を受け取った。
「でもすごくかっこよかった!」
わたしがそう告げると、三っちゃんの耳が赤くなっていく。
「そ、そうかよ」
インターハイで、バスケット選手の三っちゃんが好きだと改めて感じた。
「山王戦でスリー8本も決めたんだよ」
「それ、後から聞いてびっくりした。そんなに打ったかよオレ」
覚えてねー、と言いながら袋からポカリを取り出した。
「後半意識朦朧としてたもんね」
「でもよー、」
三っちゃんがポカリの蓋を回し開けながら、わたしの目を見た。
「薄っすらとしか覚えてないけど」
「うん?」
「苦しい、と思った時お前の姿探してた」
三っちゃんはポカリを一口飲んで蓋を閉めると、それを床にドカッと置いた。
「なにそれ」
「お前見たら、倒れない気がして」
「わたしはポカリか」
照れ隠しに冗談を言うと、三っちゃんの腕がこちらへ伸びてくる。
「そうかもな」
首元に手を置かれて、頬の熱が一気に上昇した。
時間が止まったかのようにお互い口を開かず、目を逸らさずにいた。
そっと近付く三っちゃんの表情が優しくて、わたしは反射的に目を閉じた。
「チュース!」
「チュース!」
大きな声が聞こえて、わたしたちは咄嗟に離れた。
「う、ウース」
「あれ、三井さん早いですね」
「まあなー」
体育館に入って来たのは2年生の安田くんと角田くんだった。
「あ、彼女さん、すみません」
安田くんが申し訳なさそうにわたしの方を見た。
「彼女じゃねーよ」
三っちゃんは安田くんを小突いて、ストレッチを始めた。
「三っちゃん、帰るね、練習頑張って!」
「おう、ありがとなー」
わたしは足早に帰路につく。
キス、されるのかと思った。
だけど、"彼女じゃねーよ"って即答してた。
でも、それでも、山王戦で客席を見ていない、と思っていたのに、わたしの姿を探してくれてたんだと思うと、やっぱり嬉しかった。
それからわたしは受験勉強に打ち込んだ。
時々学校の図書館で勉強をすると言う名目で学校に行き、体育館のバスケ部を覗きに行った。
冬の選抜予選に向けて必死に練習している三っちゃんを見て、自分を奮い立たせていた。
わたしと三っちゃんの関係は宙ぶらりんのまま、夏休みが終わった。
苦しさの中で君を探す意味backtop