新学期が始まって、3年生は受験モード一色となる。
校門を入ると、美咲の姿を見つけた。
「美咲おはよー」
「おはよー」
美咲とは、夏休み中も時々息抜きにお茶したり、一緒に勉強したりしていた。
「紗江ちゃああああん」
「わ、徳ちゃんおはよー」
後ろから大きな声がして振り返る。
徳ちゃんは卒業したら就職するとお母さんから聞いていた。
夏休みも退屈だったのか、時々バスケ部の練習の見学に行っていたようだ。
「紗江ちゃん、夏休み全然三っちゃん見に来なかったな」
「受験勉強してたんだよ」
「そうか、紗江ちゃん大学行くんだもんなあ」
徳ちゃんは少し寂しそうにしている。
「わたしは志望校、地元だから」
「な、何だよそれならいいんだけどよ」
徳ちゃんは少し嬉しそうに一足先に校舎へ入って行った。
「三井今日も朝練かな」
「たぶんね」
夏休み中、美咲とお茶した帰りに晴子ちゃんにばったり会って、晴子ちゃんがバスケ部のマネージャーになったことを聞いた。
インターハイが終わってから三っちゃんはほとんど毎日早朝から練習しているらしい、とも。
そんな話を聞いたら、自分も頑張らずにいられなくて、専ら勉強した。
今わたしと三っちゃんの関係に形や名前を求める必要はないんだと思うことができた。


「よう」
玄関で靴を履き替えていると、後ろから声がして振り返る。
「おはよ」
そこに立っている三っちゃんは練習着の姿で、額に汗が滲んでいる。
久しぶりに見た三っちゃん、何だかまた逞しくなった気がした。
「毎日朝練してるんだって?」
「まあなー」
「人一倍練習しないとだもんね」
そう言うと、三っちゃんはわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「これ久しぶりにしたー、スッキリする」
「なにそれ、わたしの頭でストレス発散しないでよね」
「皺寄ってるぞ」
わたしの眉間に人差し指をあてて、三っちゃんは笑った。
(三っちゃんの方が寄ってるわ!)
「勉強疲れたら息抜きに練習見に来いよ」
「うん、ありがと」
三っちゃんは小走りで体育館の方へ戻って行く。
わたしは履き替えた靴を下駄箱に突っ込むと、美咲の姿を探した。
「・・・紗江」
「わ、美咲!びっくりした」
後ろからそーっと声を掛けられてびっくりして振り返ると、美咲は恨めしそうな顔をしている。
「な、なに?」
「あんたたちほんとに付き合ってないの?」
「そうだよ?」
「三井、明らかに紗江に会うためだけに来たでしょ、今」
「そうかな?」
そう言われてみれば、声をかけて頭わしゃわしゃして、それだけで三っちゃんは体育館に戻って行った。
わざわざ会いに来たの?
わたしは、今急がなくてもいいと思っていた。
ずっとお互いがお互いを思っていて、心変わりすることなんて考えもしなかった。


「心変わりってあるのかな」
放課後の教室で美咲と勉強しているのに、全く集中できていない。
朝のできごと、美咲に言われたこと、三っちゃんと交わした今までの言葉を思い返していた。
「まあ、心変わりはなくても、薄れていくことはあるかもね」
「気持ちが薄れるってこと?」
「そう、自然消滅」
付き合ってないなら尚更ね、と付け足して美咲はわたしの頭をぽんと撫でた。
「わたしたちこのままでいいのかな」
でも、だけど。
三っちゃんにはバスケットをしたい理由が、するべき理由がある。
わたしも今は受験に向き合うしかない。
「紗江と三井の場合は、これがいいのかもね」
美咲がそう言ってくれて、少しスッキリした。
やっぱり今わたしたちは、お互いに向き合うべきものに向き合うべきだ。




向き合うべきものに向き合う時間


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