近頃わたしも美咲も勉強ばかりの毎日で、バスケ部の練習はほとんど見に行っていなかった。
三っちゃんは時々教科書だの辞書だのを借りにわたしたちの教室に来ていた。
そんな中、バスケ部が冬の選抜出場を決めたと聞いた。
嬉しそうに話す三っちゃんを見て、本当にバスケットが好きでたまらないんだな、と改めて思った。
それに、バスケット人生がまだまだ延びるんだと知ってとにかく嬉しかった。
だけど、バスケットをしている三っちゃんをもうずっと見ていないなあ、と思って少し寂しくなった。
いつ行けば自分にも彼にも差し支えないかなと考えた末に思いついたのは早朝、だった。
朝5時すぎからシュート練習をしていると聞いたことがあったから、土曜日の朝、早起きした。
1.5リットルのポカリを3本買ってから学校へ向かう。
体育館からバッシュの音が聞こえて、三っちゃんだ、と確信してわたしは少し足早に向かう。
「三っちゃんおはよー!!」
ガラリ、と体育館の入り口を勢い良く開けると、既に汗だくの三っちゃんがいた。
「おう!」
わたしは外履きを脱いで、ポカリの入った袋を置くと、三っちゃんの元まで走った。
その勢いで三っちゃんに飛びつくと、彼は笑って抱き上げてくれた。
そのままぐるぐると数回転。
三っちゃんはゆっくりと下ろしてくれて、わたしは地に足を着けた。
「何だよ朝から元気だなー」
「う、目回った」
「ばかだなー」
「バスケしてる三っちゃん見たくて」
わたしがそう言うと、三っちゃんはわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でて目を細めて笑った。
「うれしー」
「皆が来るまで、見ててもいい?」
「おう」
それからわたしはボール拾いをしながら三っちゃんのシュート練習を見ていた。
きれいなフォームから放たれるシュートは殆ど外すことがない。
「何でそんなに入るの?」
「今日はいつもより調子良い」
「どうして?」
ボールを拾ったわたしが尋ねると、三っちゃんは得意げに笑って見せた。
「愚問だな」
暫くして、他の部員がわらわらと集まって来た。
気を遣っているのか、皆反対側のコートでストレッチやシュート練習を始める。
「わたしそろそろ帰ろうかな」
「おう」
わたしはポカリの入った袋を取りに戻って、それを三っちゃんに渡す。
「頑張って」
袋を受け取った三っちゃんは笑った。
「前も思ったけど、お前よくこんな重たいの持ってくるな」
「えらいでしょ」
「おー、えらいえらい」
また三っちゃんはわたしの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
視線を感じて反対側のコートを見ると、皆こちらを見ていた。
「恥ずかしー、帰ろ」
「ありがとな」
「選抜、期待してるよ」
「おめーも勉強頑張れよな」
わたしは三っちゃんに手を振って、体育館を出た。
ちょうど体育館の入り口付近で自転車から降りる流川くんと鉢合わせした。
直接話したことのない彼が、わたしに気がついて口を開く。
「あ、先輩の彼女・・・」
わたしは思わず笑ってしまう。
普段ぼーっとしているように見える彼の目にそんな風に映っていたとは。
「彼女じゃねーよ!」
そう返事をしたわたしは、軽い足取りで家へ帰った。
お互い頑張れている。
三っちゃんにとってどうかわからないけど、わたしにとっては、三っちゃんの努力が刺激になる。
負けていられないな、と思う。
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