年が明けた。
元旦の朝、気分転換に散歩でもして、それから勉強を始めようと玄関を出た時だった。
「わ、」
「よう」
うちのインターフォンを押そうとしている三っちゃんがいた。
「どしたの、朝から」
「初詣に付き合ってくれ」
マフラーを口元まで上げながら、彼はそう言った。
最初から散歩する予定だったんだ、わたしはお財布を取りに戻ってから、家を出た。
元旦の朝の住宅街は静まり返っている。
うちの近所の神社に行くことにした。
「三っちゃん願掛け好きだね」
「今度はお前の分だ」
「え、」
「俺はもうやるだけやったからよ、あとはお前の受験がうまくいくように」
「三っちゃん・・・!」
わたしは嬉しくて彼に抱きつきそうになるのを我慢する。
「三っちゃんもきっと推薦の話くるよ」
「いやーわかんねえ、ベスト8だからな」
「でもかっこよかった、スリーほとんど外してないし、フェイクも完璧だった」
「まー、目立ちたくて必死で練習したからな」
眉間に皺を寄せたまま目を細めて笑う。
「ポカリも助かったわ」
わたしは冬の選抜でもポカリを差し入れしていた。
「三っちゃんの命の水だからね」
神社に着くと、少しばかり初詣に来ている人たちがいた。
「こんな朝っぱらから来るなんて暇だなー」
「三っちゃんもね」
「俺は暇じゃねー」
最後の大会が終わっても、三っちゃんは部活に行き続けている。
早朝からのシュート練習を欠かしてはいないし、後輩の指導にも当たっているようだ。
わたしたちはお賽銭を入れて、手を合わせた。
(受験がうまく行きますように)
わたしがそう願って目を開けると、三っちゃんはまだ目を閉じて祈っている。
何をそんなに長々とお願いしているんだろう。
「よし、帰って練習だ」
「わたしも勉強するよ」
歩き始めると、三っちゃんはそっとわたしの手を握った。
「なに?」
「嫌なのか?」
「やじゃないけど」
わたしたちはこれ以上もこれ以下もない。
気持ちが通じたあの日から、ずっと変わらない。
気持ちが薄れる、なんて話を美咲としたこともあったけれど、こうして同じ時間を過ごせるのは、きっと特別なことなんだと思う。
「三っちゃんの手あったかい」
「そうかよー」
彼は少し恥ずかしそうにマフラーで口元を覆う。
「何お願いしたの?」
「さっき言っただろ、おめーの合格祈願」
改めて聞くとやっぱり嬉しい。
インターハイの前に一緒に江島神社に行ったことを思い出す。
「あの時、三っちゃんがわたしと一緒にお願いしたら叶いそうだって言ってくれたじゃん」
「全国制覇はできなかったけどな」
「は、そうだった」
「でもよ、」
焦ったわたしを横目に、三っちゃんが突然立ち止まる。
「絶対王者に勝ったんだぜ?すげーだろ」
「・・・そうだよね!」
やっぱりわたしは間違ってない。
「わたしもね、三っちゃんの隣でお願いしたら叶う気がした」
「まー、このオレ様が一緒に願ったんだ、うまくいくぜ」
三っちゃんは口角をグイッと上げてまた歩き出した。
恋とか愛とかそんなものを通り越して、心の何処かでしっかりと繋がれている気がしてほっとする。
「あ、そういえば」
「何だよ?」
「あけましておめでとう、三っちゃん」
「ああ、忘れてた」
三っちゃんは笑いながらわたしの頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
「あけましておめでとう」
あっという間に家に着き、玄関の前で三っちゃんに手を振った。
幸せな時間はすぐに終わってしまうなあと溜息を吐く。
「ただいまー、って、徳ちゃん?」
リビングに入ると、徳ちゃんと徳ちゃんママが来ていた。
「紗江ちゃん、あけましておめでとう〜」
「徳ちゃんのママお久しぶりです、おめでとうございます」
「徳男がいつもお世話になってね」
「いえいえ、わたしのほうこそ!」
「紗江と徳ちゃんが高校まで一緒になるなんて思わなかったわよねえ」
「そうよね、うちの徳男ったら紗江ちゃんと違って勉強できないから」
「う、うるせーよ」
徳ちゃん、ママと家に来てくれるなんて何年ぶりだろう?
嬉しくてお茶しながら少し話が弾んでしまった。
「お袋もういいだろ、紗江ちゃん受験生なんだぞ」
「あら、紗江ちゃんは大学に行くの?」
「はい!」
「帰るぞ」
徳ちゃんと徳ちゃんママを玄関で見送った。
「紗江、徳ちゃん何か少し変わった?」
「そう?」
「あんなに不良してたのに柔らかくなったね」
お母さんの言葉に、考える。
徳ちゃんが変わったのは三っちゃんの影響だと思う。
三っちゃんがバスケ部に戻りたいんじゃないか、ってずっと思っていたと以前聞いたこともあったし、徳ちゃんは本当に三っちゃんを思っている。
襲撃事件の時バスケ部と三っちゃんを守った徳ちゃん。
バスケットに打ち込む三っちゃんを応援する徳ちゃん。
それが徳ちゃんの楽しみに変わっていったことも知っている。
徳ちゃんも三っちゃんも、お互いにいい影響を与えあっている。
そもそも徳ちゃんがいなかったらわたしが三っちゃんと仲良くなることはなかったかもしれない。
本当に感謝しなくちゃいけない大切な幼馴染だ。
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