二月末、わたしは志望校から届いた合格通知を握りしめ、学校へ向かった。
先生への報告を兼ねて、体育館に寄ってみよう。
きっとバスケ部が練習しているし、三っちゃんもいるかもしれない。


職員室の入口から中を覗くと、担任の姿を見つけて少しホッとした。
「藤川よくやったな!これでうちのクラスもほとんどが進路決まったな」
先日美咲から電話をもらって、彼女も無事合格したと聞いている。
「ありがとうございました」
「そういえば、3組の三井も受かったからな、心配いらないぞ」
「え!」
「あいつは荒れていた時期もあったが元々はできるやつだ。大学は専門的な勉強になるから、入ってからでも十分やっていける」
わたしは思わぬ形で三っちゃんの合格を知り、駆け出した。
「藤川廊下走るなよー!」
職員室から聞こえる担任の怒鳴り声も今は聞こえないふり。
だって早く、三っちゃんに会いたい!


体育館の入り口を勢いよく開けると、誰もいない。
「あ、まだ授業中か」
6時間目の授業が始まったばかりの時間だ。
一、二年生は普通に授業がある。
わたしは肩を落として踵を返した。
「よう、久しぶりだな」
入り口に続く廊下の向こうから三っちゃんがやって来た。
「あれ?三っちゃん」
「なんだよ」
三っちゃんの練習着は既に汗だくだ。
「補習は?」
「!」
誰から聞きやがった、と言いたそうに眉間に皺を寄せて不機嫌な顔をしている。
「今日は午前中で終わった」
そう言った三っちゃんに間髪入れずに訴える。
「三っちゃん、わたしに言うことあるでしょ」
「は?」
いまいちピンと来ていない彼に、わたしは自分の合格通知を見せた。
「お!受かったのか!」
「三っちゃんのおかげだよ」
一緒にお願いしてくれて、バスケットを頑張っている姿を見せて刺激を与えてくれた三っちゃんのおかげだ。
わたしが笑うと、三っちゃんは眉間の皺を緩ませてわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「よかったなー」
「三っちゃんも、おめでとう」
わたしがそう言うと、彼はハッとした表情で固まった。
「おめーに言ってなかったな、そういえば」
「さっき職員室で先生に聞いた」
そういえば先生は何でわざわざわたしに教えてくれたんだろう?
「おめーが受かるまで黙っとこうと思ってよ」
それは彼なりの優しさなのだろう。
三っちゃんはわたしの合格通知を手に取って眺めた。
「ところでこの大学神奈川だよな」
「そうだよ」
「家から通うのか?」
「うん」
三っちゃんは何処?って聞く前に、彼は自分の頭をわしゃわしゃと掻いた。
それから小さく溜息を吐いて告げる。
「オレは東京行くからよ」
「東京、」
思っていたより遠くない。
電車に乗ってしまえばひとっ飛びだ。
そう思ったのも、束の間。
「春から寮に入る」
そうだよね、バスケするのに通うなんて無理だよね。
わたしは小さく溜息を吐く。
三っちゃんはそれを聞いて、眉毛を下げて笑った。
「ちょっとだけ離れちまうな」
あまり見たことのないその表情に、心臓がぐっと掴まれてしまったように痛む。
ちょっとだけって、距離のこと?
それとも時間のことなのかな?
なんとなく寂しくなった。
いつもすぐそこにいて、何かあればわたしの家まで迎えに来てくれたけど、それももうなくなってしまうんだなあ。
行きたいところに付き合えよ、って言う三っちゃんはもう来なくなってしまうんだ。
わたしは泣きそうになりながら、涙を堪えて笑った。
「なんて顔してんだよ」
「かわいいかお」
「自分で言うな」


それから三っちゃんはシュート練習を再開して、わたしは傍に腰を下ろしてそれを見ていた。
また一段とシュートフォームが綺麗になったんじゃないかな。
身長も少し伸びた?
殆どシュートを外すことのないその姿に見惚れていると、6時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「お前が来たら急に成功率あがったわ」
「なにそれ」
三っちゃんは徐ろにわたしに近づき、腕を掴んで引き上げた。
立ち上がったわたしの頭をぽん、とひとつ撫でてから抱き寄せる。
汗でびっしょりの三っちゃんに抱き締められるのはもう慣れた。
大好きな匂いが鼻腔を支配して、溶けてしまいそうだ。


「チュース!」
「チュース!」
大きな声が聞こえてきて、わたしたちは反射的に離れた。
「ウース」
三っちゃんは何事もなかったかの様に、体育館へ入ってきた宮城くんと安田くんに挨拶をした。
「三井サンまだいたんすか」
「うるせー宮城」
二人が近づいてきて、わたしはどうしたらいいのかわからなくなって三っちゃんの後ろに隠れる。
「補習終わってから彼女と何してたんすか」
「何でもいいだろ」
三っちゃんと宮城くんがぎゃんぎゃん言い合っていると、ふと安田くんと目が合った。
「あ、彼女さんお久しぶりですね」
「お、お久しぶりです」
彼女、と言うのを否定したほうがいいのか考えていると、宮城くんが大きな溜息を吐いた。
「三井サンの彼女、アヤちゃんと全然タイプ違うじゃねーすか」
「あ?」
「やっぱりあれはオレを挑発するための嘘だったんすね・・・」
「うるせー、彼女じゃねーよ!」
やっと否定したな、と思いながら三っちゃんと宮城くんのやり取りを聞いていると、安田くんは笑った。
「三井さん、本当に彼女さんのこと好きなんですね」
この子・・・!
こんな可愛い顔してそんなこと言うの?
本人が何度も否定してるのに?
わたしは自分の頬が熱くなっていくのを感じて、三っちゃんの脇腹を小突いた。
「いてーな!」
「三っちゃんが悪い!」
「そーだそーだ」




かわいいかお


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