「わたしたちは地元だから離れることはないし、最高だよね」
「いつでも会えるね」
卒業式の後、最後のホームルームが終わり、美咲と教室前の廊下で窓の外を眺めていた。
「この景色ももう見ることはないんだね」
「制服ももう着ることないね」
「さみしー」
少しずつ、みんな帰っていくのを眺めている。
「紗江ちゃあああああん」
「徳ちゃん!」
廊下の向こうから大きな声をあげながら徳ちゃんがやってきた。
「徳ちゃん卒業できてよかったね」
「堀田何げに学校来てたもんね」
「おう、そんなことより三っちゃんたちが体育館行ったぜ!バスケ部で最後の紅白戦するんだと」
「何それ」
「は、行くしかないでしょ」
わたしたちは体育館へ走った。
「こらー!廊下走るなー!」
すれ違った担任の声に、わたしは足を止めた。
「先生、何で三井くんの合格、わたしに教えてくれたんですか?」
気になっていたことを尋ねると、担任は笑った。
「お前たちいつも一緒だったじゃないか」
「えっ、」
手に持つ卒業証書の筒に汗が滲む。
「会ったら知らせてやりたかったんだ、卒業おめでとう」
「紗江早くー!」
微笑む担任にわたしは頭を下げて、先に行く美咲と徳ちゃんの元へ駆け出した。
今度は"走るな"という言葉は聞こえなかった。


体育館に着くと、晴子ちゃんがわたしたちに気付いて中へ入るよう促す。
「紗江さん美咲さん堀田さん、卒業おめでとうございます!」
「ありがとう、晴子ちゃん様になってるね」
わたしがそう言うと彼女は恥ずかしそうに笑う。
「お、みんな来たな」
「水戸くんたちもいたの」
「花道復帰してから、やっぱバスケ部見に来ちゃうんだよなー」
「本当にみんな桜木くんが好きだね」
「まあなー」
バスケ部は既にチーム分けされていて、ゲームを始めるところだった。
安西先生も見守っている。
「おい赤木に木暮!おめーら動けんのか?」
三っちゃんが自信たっぷりにそう言うと、赤木くんも乗ってくる。
「フン、三井め、二年サボっていたお前には負けん」
「なんだと!」
わたしたちは笑いながらその様子を見ていた。
笛が鳴ると、ゲームは白熱した。
「先輩、スキあり」
「ぐっ、」
流川くんに抜かれる三っちゃんは悔しそうだ。
だけど本当に嬉しそうだ。
「ミッチー!パァス!!!」
桜木くんもすっかり元気になっていて、これからまだまだ成長するんだと思うと楽しみな存在だ。
「三井サン!」
宮城くんからのパスが通る。
いろいろあったのに、三っちゃんを許してくれた器の大きな新キャプテンだ。
そのパスを受け取った三っちゃんはきれいな弧を描くスリーポイントを決めた。
桜木くん、宮城くんと並んでグッとポーズを決める。
これももう見られなくなるんだなあ。
「三っちゃああああああん」
徳ちゃんが旗を振りながら号泣している。
これももう見られなくなるのかな?
「三井またシュートの精度上げたな!」
「ディフェンスあめーよ木暮!」
「三井!これ以上はオレが打たせん!」
三年生の三人とも、本当に輝いて見えた。
楽しそうにプレイする姿を見て、みんな湘北バスケ部が本当に好きなんだな、と感じた。
三っちゃんが一度離れた場所。
もう一度奮い立たされた場所。
バスケを続けていくと決意した場所。
受け入れてくれた部員のみんなに、わたしも感謝し続けたい。
いろんなことを思いながら見ていたら涙が溢れて来た。
「紗江泣いてんのー」
「美咲こそ」
わたしたちは最終的に号泣しながらゲームを見ていた。


ゲームが終わり、みんなが整列する。
「オレたちが果たせなかった全国制覇を期待してるぞ」
赤木くんは少し涙ぐんでそう言った。
「これからは追われる立場だから、気合い入れていけよ」
続けて言う木暮くんも少し泣きそうだ。
「最後まで練習に参加させてもらってありがとな」
三っちゃんも泣きそうなのを我慢しているのか眉間の皺がより深くなっている。
「あざーしたっ!!!」
後輩たちの大きな声が響く。
「よし、今日はこれで終わり、明日からまた練習だぞー」
「お疲れっしたー!!!」
部員たちは部室へ入って支度を終えて出て来ても、余韻に浸っているようでなかなか帰ろうとしない。
そんな中、三っちゃんがこちらへ近づいてくる。
「最後まで来てくれてありがとな」
「当たり前じゃん!お疲れさま」
「お前泣いてたな?」
「うるさいなー」
ニヤリとわたしを見る三っちゃん。
笑いながら三っちゃんの脇腹を小突くと、彼は学生服の第二ボタンを外して、突然わたしを抱き締めた。
一瞬、みんながどよめいて、わたしは一気に恥ずかしくなる。
三っちゃんを突き放そうとするけれど、彼はいつかのように簡単に離してはくれなかった。
「ちょっと三井!」
美咲が驚いて声を上げる。
「ヒューヒュー」
「ミッチーやるな!」
桜木軍団に囃し立てられて、我に返ったのか三っちゃんはわたしを解放した。
「紗江」
「うん」
みんなに注目される中、三っちゃんは眉間に皺を寄せたまま跪いて、わたしに向かって右手を差し出した。
その手の中には、先ほど外した第二ボタンが収まっている。
「オレには紗江が必要だ、傍にいてくれ」
みんなが騒ぎ立てるのがまるで遠くで聞こえているかのように、三っちゃんの息遣いしか聞こえない。
さっき泣いたせいで完全に涙腺は緩んでいる。
一気に涙が溢れ出して、わたしは三っちゃんの手を握り第二ボタンを受け取る。
そのまま再び三っちゃんに抱き締められたと思ったら、みんなが駆け寄ってわたしたちを囲んで抱き締めた。
暑苦しい、けど幸せだ。
「三っちゃあああああん!!紗江ちゃあああああん!!」
徳ちゃんはわたしより泣いているみたいだ。
「三井、まだ藤川と付き合っていなかったのか・・・」
赤木くんのやれやれといった溜息が聞こえて、それを聞いた木暮くんも笑っている。
「三井サンこう見えて奥手っすからね」
宮城くんがそう言うと、部員と桜木軍団、徳ちゃんたちによってあれよあれよと三っちゃんの胴上げが始まった。
「紗江ー!」
美咲が寄って来て、わたしを抱き締める。
ずっと傍で見守っていてくれた彼女には感謝しかない。
「遂に紗江が三井のものになる」
そう言いながら美咲は号泣している。
「長かった、ほんと長かった!」
「ずっと、ありがとね」
胴上げが終わって、ふと視線を感じた方を見ると、流川くんと目が合った。
「あの時はまだ彼女じゃなかったんすね・・・」
「そうだよっ」
流川くんの隣にいた安田くんも笑っている。
「オレは絶対こうなるって思ってました」
そういえば、いつもこの二人には彼女だと思われていたんだと思うと急に恥ずかしくなった。
今度は桜木くんが寄ってくる。
「紗江さん!ミッチーが何かしでかしたら差し歯を狙えばいいっすよ!わはははは」
「桜木うるせーぞ!」
三っちゃんが桜木くんを小突くのを見て笑ってしまう。
「紗江さん連れてまた来いよミッチー」
「おう」
桜木くんと拳をぶつけた三っちゃんはわたしの手を引いて、安西先生の元へ行く。
「安西先生、お世話になりました」
三っちゃんが深々と頭を下げると、安西先生は微笑んだ。
「三井くん、君がいてよかった」
顔を上げた三っちゃんは目を輝かせている。
本当に、この人のもとでバスケットができてよかったね。
「また来てもいいですか?」
「もちろん。彼女と一緒にいつでも帰って来なさい」
わたしも安西先生に深々と頭を下げた。
(三っちゃんを救ってくれてありがとうございました)
そう心で強く感謝した。


「じゃー、おめーら、またなー」
わたしたちは目を見合わせてからしっかり手を繋いで、体育館から走り出した。
三っちゃんは本当に素敵な仲間に囲まれて、大好きなバスケットができて、幸せだったと思う。
それを傍で見ていられたわたしも、本当に本当に幸せだ!
わたしたち、いつも一緒にいたね。
わたしは間違いなくいつだって三っちゃんを思っていた、きっとこれからも、ずっと。
泣いたり笑ったり、時々勘違いしたりしながら過ごした三年間と、左手でしっかり握りしめた三っちゃんの学生服の第二ボタンは一生の宝物になる。
なんだか可笑しくて、笑いながら玄関に向かって走るわたしたちの人生は、まだまだこれからだ。
「なあ紗江」
「うん!」
名前を呼んで振り返る三っちゃんの笑顔は、今までで一番楽しそうな気がした。
「すっげー好きだ!」
「好き、だー!」
大きな声が廊下に響いて、わたしたちはまた笑った。




the end ...?


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