次の日、美咲と陵南戦の観戦に来た。
徳ちゃんは応援旗をしっかり持って来てくれた。
「うわ、堀田それすごいね」
「昨日紗江ちゃんと作ったんだ」
徳ちゃんはそれを横断幕として使うようだ。
「あ、三井こっち見てる」
恥ずかしそうに横断幕を見る三っちゃんと目が合った。
一瞬、緩んだ笑顔になった三っちゃんが右手を上げる。
「今のってさ、紗江に向かってしてた?」
「え!」
気のせいだよ、気のせい。
練習が終わり、選手紹介が始まる。
「14番 三井寿」
三っちゃんの名前が呼ばれた瞬間、徳ちゃんたちが叫ぶ。
「三っちゃ〜ん」
三っちゃんはすぐに振り返った。
「やめろ気持ちワリーな!!」
「三井嬉しそうじゃん」
「あ、思った?」
やっぱり友達が応援してくれるのは嬉しいんだと思う。
それに、復帰した自分が頑張ることで、バスケ部のみんなや徳ちゃんたちに恩返しがしたいんだと思う。
「あれ?安西先生いないね」
「ほんとだ」


前半は赤木くんの調子が出なかったり桜木くんの負傷があったりしながらも、ブザー寸前に三っちゃんがスリーを決めて、6点差まで詰め寄った。
「流川くん、今日あんまり目立ってないね」
「もしかしたら体力温存してたのかも」
「え」
「海南戦、最後力尽きちゃったから」
「なるほど!」
「前半は三井がすごかった!」
「後半持つかな、」
三っちゃんの体力が心配だ。


後半は流川くんが活躍して接戦を繰り広げている。
「陵南の7番の子もすごいね」
「あ、三っちゃん!」
フリーになった三っちゃんにパスが通ってスリーが決まる。
「紗江ー!」
わたしは美咲をぎゅっと抱き締めた。
徳ちゃんはいつの間にか横断幕を旗にして振っていた。
陵南はキャプテンが下がっているし、湘北は勢いに乗っていて、点差が開いていく。
残り6分で陵南のキャプテンがコートに戻る。
陵南の7番の子が急に得点を重ね出す。
「やっぱりあの子すごいね」
試合の展開から目が離せない。
2点差まで詰め寄られ残り二分のところで、三っちゃんが倒れた。
「三井!」
しばらく呆然としていたけれど、チームメイトに支えられながら体育館から出て行く姿を見て、耐えられなくなる。
「美咲、わたし、」
「行きな!」
わたしは頷いて駆け出した。


客席の人混みを抜けて階段を降りていくと、そこに三っちゃんが座っていた。
(体、震えてる)
わたしは後ろから三っちゃんを抱き締めた。
彼がピクリと微かに反応して、わたしは口を開いた。
「三っちゃん泣いてんの」
「ば、泣いてねーよ!紗江か!」
体力がないって、ブランクの重さを感じてたのかな。
二年間を悔いていたのかな。
「三っちゃん、一年の時よりずっとかっこいいよ」
一生懸命走る三っちゃんの姿が、好きだ。
「いつか、お前がかっこよかったって言ってくれたことがあっただろ」
「うん」
「あれはオレがバスケ部に戻れた理由の一つでもあんだよ」
背中越しに伝わる荒い呼吸が、わたしの呼吸まで苦しくさせた。
「お前にかっこいいとこ見せてーなって、思った」
こんなに嬉しい言葉に返せる見合った言葉がなくて、ぎゅっと抱き締める力を強める。
ユニフォームから溢れ出る三っちゃんの匂いが好きだ。
「汗、お前の服まで濡れるぞ」
わたしがブンブンと首を横に振ったら、三っちゃんは笑った。
「よし、戻るわ」
「うん、応援しよう」
「おう、ありがとな」
ゆっくりと離れると、三っちゃんは振り返っていつものようにわたしの髪をぐしゃぐしゃと撫でてから体育館へ戻っていく。
低酸素状態の呼吸の隙間で、彼は確かにバスケットを愛していた。


わたしも客席へ戻ると、美咲の隣に座る。
「三井、戻って応援してるよ」
「うん」
「紗江、顔真っ赤ー!どしたの」
今更、なんであんなことしちゃったんだろうと思う。
三っちゃんの気持ちも考えずに抱き締めてしまった。
でもね、あの後ろ姿見たら、そうせずにはいられなかったんだよ。
「あ!木暮!」
木暮くんがスリーを決めた。
美咲が涙を流して喜んでいる。
「あれだけ練習頑張ってたんだもん」
「美咲は木暮くんのことばっかりだねえ」
「え!」
「好きなんでしょー」
わたしが茶化すと美咲はわたしの頬を引っ張った。
「うるさーい」
「はなひへー!」
「もう!」
結果、4点差で陵南に勝利した湘北は、インターハイ出場を決めた。
「赤木くん泣いてる」
わたしと美咲はあの赤木くんが泣く姿を見て、驚きながらも貰い泣きしてしまった。




背中越しの生存確認


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