バッシュの音が響く体育館。
今日も湘北高校バスケ部が練習している。
「晴子ちゃんお疲れ様〜」
「紗江さん美咲さん!お疲れ様です」
「紗江ちゃああああん!」
「あ、徳ちゃん」
「堀田練習見にくるなんて珍しいじゃん」
「暇だったからよ、紗江ちゃん三っちゃん見に来たのか?」
「あれ?三っちゃんは?」
「それが三井さんまだ来てないんですよ」
三っちゃんどうしたんだろう。
インターハイに向けて気合は十分なはずなんだけどな。
「おっ、みんなお揃いか」
「桜木軍団来たね」
今日もバスケ部の練習には、わらわらと見学人が集まる。
「紗江ちゃん、ミッチーならさっき購買横の自販機の前にいたぜ」
水戸くんが親切に教えてくれる。
何故そんなところに。
ポカリでも買ってるんだろうか。
そのうち来るだろう、と思いながら美咲と練習を見ていることにした。


「おい、今日三井はどうした」
赤木くんが木暮くんに尋ねている。
木暮くんも首を振っていてわからない様子だ。
練習が始まってから30分は過ぎている。
「む、」
ぼんやり眺めていたら赤木くんと目が合って、彼がこちらへ近づいて来る。
「藤川、三井知らんか?」
「あ、さっき水戸くんから聞いたんだけど、購ば」
「ウース」
わたしが言いかけたところで後ろから声がして、振り返ると三っちゃんがいた。
「三井!遅いぞ!」
「わりぃわりぃ」
三っちゃんは赤木くんに謝りながらコートへ入っていく。
「何かあったのかな」
「ん?何かって?」
呟くわたしに、美咲が尋ねる。
わたしはそれに答えることなく小さな溜息を吐いた。
何だか三っちゃん、変だな。
いつも見てるからわかるよ、何か鼻の下伸びてない?


「お疲れっしたー」
練習が終わると、部員はぞろぞろと部室へ入っていく。
「お、紗江来てたのかよ」
「ずっといたよ!」
やっと三っちゃんと目が合って、嬉しくなる。
「わりぃわりぃ、小ちゃくて見えなかった」
頭をぐしゃぐしゃと撫でられると、何だか全てがどうでもよくなる。
照れ隠しに三っちゃんの脇腹を小突くと、彼は笑った。
「気をつけて帰れよ」
「うん」
部室に入る三っちゃんを見送って、出入口の美咲と徳ちゃんの所まで駆ける。
「んふふー」
「紗江ちゃんは本当に三っちゃんが大好きだな」
「うん!」
もう周りのみんながわたしの三っちゃんへの気持ちを知っているから楽だ。
気付いていないのは本人だけかもしれない。
「そういえば三井、遅れて来てたけどどうしたんだろうね」
「さあ?」
この時わたしは、何にもわかっていなかった。
三っちゃんは、今やとても魅力的な人になっているということを。




「紗江、大変!」
次の日の朝、教室に入った直後に美咲が血相を変えて飛んで来た。
「どしたの」
「三井!」
「え?」
「木暮から聞いた!」
「もう!何が言いたいのかわかんないんだけど!」
大事な部分を言わない美咲に肩を抱かれて廊下に連れ出される。
「昨日三井が遅れて来たのはね、」
急に声を潜めた美咲の言葉に驚愕した。
「後輩に告白されてた!?」
「声がでかいっ」
美咲に口を覆われて、わたしはぶるぶると震える。
(三っちゃんを好きなのはわたし、だよ!)
「不良をやめバスケに打ち込むいい男三井に恋する女は、もはや紗江だけじゃないってわけだよ」
わたしは驚きと共に、ばかだな、と思った。
今三っちゃんに気持ち伝えても無駄だよ、だって今やっと、大好きなバスケに打ち込めているんだから。
二年のブランクを、必死で埋めようとしてるんだから。
恋愛にうつつ抜かしてる暇はないんだよ、彼には!
「三井は断ったらしいけど、浮かれてて相当嬉しそうだったみたいよ」
「は?」
眉間に皺を寄せて白目をむき不細工な顔を作る。
そうだ、あいつも健全な高3男子だったか。
「やだ紗江その顔ブスー」
「あぁん?」
「おい」
美咲とふざけていると、頭上から声がして顔を上げた。
「あぁん?」
「ぶっ」
しまった、不細工なまま顔を上げてしまった!
吹き出して口元を押さえているのは三っちゃんだ。
「どうしたんだよ変な顔して」
(元はと言えばみっちゃんのせいだ)
「べっつにー」
変な顔を見られたショックと、後輩の告白のことを思い出して、三っちゃんから目を逸らした。
「何か用すか」
「英語の教科書貸してくんねー」
「いいよ」
わたしはロッカーから教科書を取り出すと三っちゃんに投げた。
「わ、あぶねーな!」
「終わったらロッカー入れといて」
なるべく顔を見る回数を減らしたい。
後輩に告白されて浮かれてる三っちゃんなんて見てたら、腹が立って鉄拳を喰らわせてしまいそうだ!
「はいはい」
三っちゃんは呆れたようにわたしの頭をひとつ、ぽん、と叩いてから戻っていった。
「可愛くないなー紗江」
「うるさい美咲」


昼休み、美咲と廊下で窓の外を眺めながら溜息を吐いた。
「やっぱりモテるのかな」
「たぶん不良になる前まではモテたんじゃないの、バスケうまいしMVPだし」
「だよね」
わたしだってキラキラしている彼に一目惚れしたんだ。
バスケしてる姿はかっこいいし、背も高いし、なんだかんだ優しいし。
「あ、」
「ん?」
「三っちゃんよくわたしの頭ぐしゃぐしゃ撫でるの」
「知ってる」
「あれって、」
(他の子にもしてるってこと?)
そう考えているとモヤモヤしてきて、やっぱり三っちゃんに鉄拳を喰らわせてやりたくなった。




無自覚に制裁を!


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