今日も今日とてバスケ部の練習を見に行く。
体育館に着くとまだ部員たちもまばらで、美咲は早速木暮くんに釘付けだ。
「木暮のTシャツ可愛い〜」
「美咲、木暮くんばっかり」
「うるさいな」
彼女に頭を軽く小突かれると、急に思い出した。
「あ!英語の教科書忘れた!」
三っちゃんに貸してから使っていなかった英語の教科書。
ロッカーに返って来ているはずだ。
これを持ち帰らないと明日提出の課題ができない。
「ちょっと教室戻るー」
「はいよー」
わたしは鞄を持って足早に教室へ向かう。
放課後の三年生の教室前の廊下は、既に誰もおらず静まり返っていた。
そんな中、人の気配がした。
「わたし、ずっと気になってて・・・」
3年3組の教室から、女の子の声がして足を止めた。
「三井くんのこと」
(は!)
また三っちゃんを狙う女子が現れたか!
三っちゃんに恋愛してる暇なんかないから!
大好きなバスケットしか見えてないから!
「ごめん、」
(ほらね!・・・って、はあああ!?三っちゃんの声まで聞こえるんだけど何これ幻聴?)
まさか三っちゃん、告白されてる?
でも無駄なんだよ、今気持ち伝えても。
"ごめん"の声に少しホッとしたのも束の間。
「ごめん、オレ、大切な奴がいるから」
(・・・は?)
告白の場面でないのかもしれない。
幻聴かもしれないし、三っちゃんの声じゃないかもしれない。
だけど、わたしは踵を返して走った。
途中ですれ違った担任に"廊下を走るな!"と怒鳴られたけれど、歩いている場合じゃない。
走れ、と脳が命令を下している。
わたしはそのまま生徒玄関に向かい、座り込んで靴を履き替えた。
今日は三っちゃんの姿、見たくない。
「紗江ちゃん?」
頭上から呼ばれて顔を上げると、心配そうに覗き込む徳ちゃんがいた。
「どうしたんだよ」
「ど、うもしな・・・いっ」
絞り出した声は、嗚咽に変わった。
「の、りちゃんっ、!」
そのまま泣き出してしまい、徳ちゃんは困ったようにわたしが泣き止むまで背中を摩ってくれた。
英語の教科書を取りに戻ったはずなのに、結局それすら出来ず、自らただ無駄に傷つきに行ったようなものだ。


今日はそのまま帰ることにした。
帰る前に徳ちゃんに、体育館の美咲まで先に帰ると伝言に行ってもらった。
「いいのか?三っちゃん見てかなくて」
「もういいんだよ」
泣き止んで少し落ち着いてから、やっと立ち上がることができた。
「じゃあオレも帰るか」
「何、徳ちゃん付き合ってくれんの」
「当たり前だろ」
徳ちゃんに感謝しながらも、考えるのは三っちゃんのことばかり。
頭の中で、三っちゃんの声で何度も再生される。
"オレ、大切な奴がいるから"
立ち聞きしたのは悪かったと思う。
三っちゃんのことバスケットしか見えてないと思っていたわたしも悪い。
気持ちを今伝えることが無駄だと思っていたことも。
わたしが今気持ちを伝えていても、きっとこの答えが返って来たんだろう。
でも三っちゃんの大切な人の存在を、こんな形で知りたくなかった。


「徳ちゃんは、好きな子とかいないの」
「今はいねーなー」
「失恋したことある?」
「中二の時、美咲の奴に振られたぞ」
「あー!そんなこともあったね!」
思い出して笑ってしまう。
その頃既にリーゼントで決めていた厳つい徳ちゃんが、屋上に美咲を呼び出して告白した。
美咲の答えは、
「"ヤンキーとか無理"」
「おい紗江ちゃん!」
きゃははと笑うと、徳ちゃんがホッとしたように眉毛を下げる。
「何?」
「いや、紗江ちゃん元気になったか?」
「ちょっとは」
徳ちゃんありがとう、と言うと、徳ちゃんは嬉しそうに笑った。





不意打ちで斬りつける


back
top