prologue




はぁー……まいったな。


駅前の噴水のベンチに座って、もう4時間経った。

振られたな。
うん。これは、完全に振られた。
すっぽかされた事は、3時間前には気づいていた。
そろそろ、この関係が終わりだということは2週間前には気づいていた。
彼からのメールが、こちらからの返信しかこなくなったのはいつからだったろうか……。
デートの後に、私の部屋に来たいって強請らなくなったのはいつからだったろうか……。
寝る前の電話もそっけなくなったのは……

なんだろ。もう、涙も出ないや。
悩むのも疲れた。泣くのも疲れた。
もう、何もしたくない。
家にも帰りたくない、月曜から有休とって会社も少し休んじゃおうか。


「あーあ……。」


ため息ともなんともいえない声を漏らし、空を仰ぎ見た。

……もうすぐ夕方。
半日ムダにしちゃったな。
……お腹すいた。
何か……なかったかな。
飴玉のひとつもないかと、傍らに置いたバッグをゴソゴソと漁ってみる。
可愛いラッピングの透明袋が手に触れた。
あ、昨日会社で受付のサキちゃんに貰ったクッキー。

細いリボンをほどいて、プレーンとココアのマーブル模様の丸いクッキーを一つ摘み上げる。
……手作りクッキーねぇ……。
こういう女の子っぽい事のひとつも出来れば、私も愛想尽かされなかったのかな……。
ぱくん。と口に入れる。
さく、さく、さく。美味しい。

サキちゃん、モテるんだろうなー。
営業の大木さんとか、総務の田中さんとかが、サキちゃん狙ってるのは有名だもんね。
私もそろそろ、モテを意識しないと、結婚とかヤバいかもね。
手始めに、サキちゃん手本で服装変えてみる?

−ぱくん。さく、さく、さく。
彼女のミニスカートや白やピンクの服装を思い浮かべてみた。
うえ。嫌いじゃないけど、趣味じゃないわ。私には100%似合わない。

スキニーデニムから覗く、先の尖ったパンプスを見つめる。
自分の足元を見つめながら、気がついた。

……なんか、鳩増えてない?
あ、私がクッキー食べてたからだ。
慌ててバッグにクッキーを仕舞った。
ちょっとちょっと、鳩にモテても嬉しくないのよ。
私がモテたいのは人間の男なんだってば。

立ち上がって移動することにした。
立ったものの、家に素直に帰る気にはなれない。
どうしようかと考えていると、鳩の群れの中に、白い鳩が居るのに気付いた。

あ、白い鳩……珍しい。

踏み出そうとした足を止め、グレーの群れの中の白鳩を見つめた。
チョンチョンチョンと飛びながら此方に白鳩が近寄ってきたので、またベンチに腰を下ろす。
白鳩が少し羽ばたき、私の座っている横に降り立った。


「あはは。アンタ、何そのネクタイ?」


鳩相手に、思わず声に出して話しかけてしまった。
犬猫に首輪やバンダナを巻いているのは見るが、鳩がこんなのつけてるの初めて見た。
きっと誰かに飼われている鳩なんだろうな。
伝書鳩とかするくらいだから、放し飼いでもちゃんとお家に戻ってくるのだろうか。
感心して白鳩を眺めていると、白鳩が少し飛び、数m先に降りた。


「もう行っちゃうの?」


声に出して聞いてみると、鳩は数歩此方に戻り、また、先に行き、此方を振り返った。
……まるで、付いておいでって言ってるみたいね。

そんなことは絶対にないとは分かっているけど、まだ家には帰りたくないし、見失うところまでこの鳩を追いかけてみることにした。


[*prev] [next#]

ALICE+