それを初恋と呼ぶのは、あんまりにもあんまりだったんじゃないだろうか。
いつも下を向きがちだった彼の『ほんとう』を知らないまま、ただ傲慢に、ああ、彼は私がいないと駄目だなぁ、なんて思ってしまっていたあの頃の、今も離れない浅い夢。

緑谷出久はクラスでも目立たない、いや、どちらかといえば妙に悪目立ちさせられてしまうような男の子だった。
原因は大抵あの爆豪勝己で、センセーショナルで鮮明で、誰の目にも焼き付いてしまうような彼が、まるで何かに怯えるように突っつき回すものだから、みんなが彼を馬鹿にしていた。
所謂おたく。つまりはナードくん。
そんな出久の友人は殆どいなくて、せいぜいが私くらいだったのだと思う。

「どうして出久は折れないの?」

馬鹿にされたって、どんなにからかわれたってヒーローを目指す出久。
いつもの気弱さが嘘みたいに、ときどき彼は、びっくりするほど頑固だった。
そういうところが余計に彼の扱いの悪さに拍車をかけているのは一目瞭然なのに、それでも出久はやめようとしない。
けれど、いくらそう教えたって、出久は小さく笑って、私に言うのだ。

「……だって、僕の夢だから」

下を向く彼。でも、まっすぐな視線。
決して折れない、つよい瞳。
きっとあれは恋だった。
あの瞳に恋をしていた。
浅い夢が恋しくて、ただ淋しくて。
手の届かなくなった今、届かぬ想いを暖めている。

五月雨は緑色

TOP